前記事で、「冷凍食品を前日から冷蔵庫で一晩解凍し、翌日検査する運用をどう評価するか」という質問を取り上げた。今回は、そのちょうど逆の問題である。

食品の微生物検査に関わる方から、次のような趣旨の質問があった。

「現場で採取した冷蔵検体を冷凍蓄冷剤で保冷して持ち帰り、その日のうちに検査できない場合、いったん冷凍して翌日検査する運用はどう考えるべきだろうか。ゆっくり凍結することで菌が損傷することも気になる。」

複数の現場から検体を集めていると、検査室へ戻るのが夕方になることもある。その日のうちに微生物検査を開始するのは難しい。そこで、いったん冷凍して翌日に検査する。現場では十分にありそうな運用である。質問された方が気にしていたのは、「ゆっくり凍結すると菌が損傷しやすいのではないか」という点であった。

確かにその心配には理由がある。しかし、FDA、USDA、ISOの文書を見ると、実は論点はその一歩手前にある。問題は「急速凍結か緩慢凍結か」ではなく、そもそも採取時に冷蔵状態だった微生物検査用検体を、検査の都合で凍結してよいのか、ということである。

FDAは冷蔵状態を維持する

米国FDAの検査マニュアルBAM Chapter 1は、微生物検査用検体について、採取時の状態をできるだけ維持して検査室へ運ぶことを基本としている。冷蔵が必要な食品は0〜4℃程度で保持し、特別な指定がなければ採取後原則として36時間以内に分析する、という考え方である。なお、むき身の生鮮貝類・殻付き貝類などには、これより短い時間条件が設定されている。

ここで重要なのは、「冷蔵食品を新たに凍結して保存する」という方法がFDAの基本ではないことである。夕方に採取した冷蔵食品を翌朝検査するのであれば、冷蔵状態を維持したまま翌日検査するのが基本線であり、「菌を増やしたくないから、とりあえず冷凍する」という発想ではない。

FDAの考え方として、冷蔵検体を採取後0~4℃で輸送・保管し、原則36時間以内に翌日検査する流れを示した図

USDAは「部分凍結」まで防いでいる

今回の質問と特に関係が深いのがUSDA-FSISの運用である。質問には「冷凍蓄冷剤で保冷している」という具体的状況が含まれているが、USDA-FSISのSalmonella・Campylobacter検証サンプリングでも、検体輸送に冷凍ゲルパックを使う一方、検体をゲルパックへ直接接触させず、間に段ボール製のパッドを挟んでいる。

冷凍ゲルパックを冷蔵検体に直接触れさせず、段ボール製のパッドを挟んで部分凍結を防ぐ正しい梱包方法を示した図

理由は明快である。検体がゲルパックと直接接触して一部凍結すると、結果に影響する可能性があるためである。この運用は、冷凍蓄冷剤による意図しない部分凍結にも注意が必要であることを示している。

当日処理できない冷蔵検体についても、検査・発送まで冷蔵状態を維持するのが基本運用である。実際、FSISの検証サンプリングでは、可能なら採取当日に冷蔵検体を翌日配送便で発送し、集荷に間に合わなければ冷蔵のまま一晩保持して翌日に発送する運用が示されている。

採取した冷蔵検体を0~4℃で一晩冷蔵保管し、凍結せず翌日に冷蔵状態のまま配送する流れを示した図

ISOも「新たに凍結しない」を原則とする

国際規格ISO/TS 17728:2015(食品・飼料の微生物検査用試料の採取・輸送)は、この点を直接的に述べている。この技術仕様は2025年にも再確認され、現在も有効である。

採取前に凍結されていなかった試料は、採取後に凍結しない。

理由は、凍結によって食品中の微生物の生残性が変化し、病原菌検査では偽陰性、定量検査では菌数低下につながりうるためである。つまり凍結は「微生物の時計を止める」だけの操作ではなく、検体の微生物学的状態そのものを変えてしまう可能性がある操作なのである。

ただし、原則と例外は分けて読む必要がある。例外的な取り扱いについては、後の節で整理する。

では、冷蔵のまま「何時間まで」待てるのか?

「冷蔵を維持して、できるだけ早く検査する」だけでは、現場では少し曖昧である。FDAとISOは、時間の目安まで具体的に示している。

  • FDA BAM Chapter 1:冷蔵検体は0〜4℃を維持し、特別な指定がなければ採取後36時間を超えて分析しない。
  • ISO 7218:2024:室温で安定しない食品の輸送・短期保管は5±3℃(2〜8℃)を基本とし、受領後できるだけ速やかに、できれば24時間以内に検査する。
  • ISO 7218:2024:高度に腐敗しやすい食品は採取から24時間以内、その他の腐敗性食品(例:魚、未殺菌乳など)は採取から36時間以内が望ましい。
  • USDA-FSIS:FDAのような一律の「36時間ルール」を今回参照した検証サンプリング指令で示しているわけではなく、プログラムごとに採取・発送手順を定め、冷蔵・非凍結のまま速やかに翌日配送する運用を採っている。
文書・機関冷蔵条件時間の目安
FDA BAM Chapter 10~4℃特別な指定がなければ、採取後36時間以内に分析
ISO 7218:20245±3℃(2~8℃)受領後できるだけ速やかに、できれば24時間以内
ISO 7218:2024(腐敗性食品)冷蔵状態を維持高度に腐敗しやすい食品は採取後24時間以内、その他の腐敗性食品は36時間以内が望ましい
USDA-FSIS冷蔵・非凍結を維持一律の時間ではなく、プログラムごとの手順に従い、速やかに翌日配送

つまり「夕方に持ち帰ったから翌朝まで冷蔵」という運用は、対象食品や検査法に適用される時間条件を満たす範囲であれば、FDAやISOの考え方に沿った現実的な対応である。むしろ、その数時間を嫌って新たに凍結する方が、検体の微生物学的状態を変えてしまう別のリスクを持ち込むことになる。

低温増殖菌が心配な場合は?

「シュードモナスなどの低温増殖菌は冷蔵中も増える。ならば、いったん冷凍して増殖を止めた方が正確なのではないか」という疑問もあるだろう。

シュードモナスなどの低温増殖菌は冷蔵中でも増えるため、検体を凍結して増殖を止めた方がよいのではないかという疑問を示した図

低温増殖菌の定量法を定めるISO 17410:2019は、検体が輸送・保存によって損傷・変化を受けていないことを求め、採取・輸送についてはISO/TS 17728を参照している。つまりここでも、「採取前に凍っていなかった試料を採取後に凍結しない」という原則がそのまま適用される。低温で増える能力と、検査操作によるストレスへの耐性は別物だからである。低温増殖菌を対象とする場合でも、冷蔵状態を維持し、できるだけ早く検査するという考え方に変わりはない。

低温増殖菌は冷蔵中に増殖できても、凍結ストレスによって損傷する可能性があり、冷蔵で増える性質と凍結への耐性は別であることを示した図

ここで重要なのは、「冷蔵中の増殖をゼロにすること」ではなく、決められた温度と時間の範囲内で検体を扱い、採取時点からの変化を最小限にすることである。時間管理まで含めて初めて、「冷蔵のまま保持する」という運用が成立する。

現場で凍結せざるを得ない場合はどう考えるか

冷蔵検体を凍結せず、速やかに検査するのが基本である。しかし、国際的な文書が例外を一切認めていないわけではない。ISO/TS 17728には、高温環境や長時間輸送のため例外的に凍結が必要となる場合について、依頼者との事前合意と記録を求める規定がある。

ただし、こうした例外と、日常的に「翌日の検査に回すため、とりあえず冷凍する」という運用は分けて考える必要がある。自主検査であっても、凍結の影響がなくなるわけではない。

冷蔵検体は冷蔵のまま速やかに検査するのが原則であり、高温環境や長時間輸送などで凍結が必要な場合のみ、事前合意と記録のうえで例外的に扱うことを示した図

判断の中心となるのは、その検査結果を何に使うかである。病原菌の不検出や製品の出荷判定に用いるのか、工程の変化を把握するために用いるのか。それぞれの目的に対して、凍結による影響を評価する必要がある。「すべて同じように凍結している」「これまで問題が起きていない」という説明だけでは、結果の妥当性を十分に示したことにはならない。

原則とは異なる保存条件を検討するなら、食品、対象菌、検査法、保存条件を限定し、その条件でも目的に必要な検出性能・定量性能を保てるかを確認するべきである。検査法の妥当性確認でも、実際の試験条件や食品の違いを考慮した評価が求められる。

一方、翌朝まで冷蔵すれば適用される時間条件内に検査できるのであれば、まず冷蔵で対応する運用を整えるべきである。例外を検討することは、現場の都合による凍結を無条件に正当化することではない。必要なのは「凍結したという事実を隠さないこと」と、「その結果で何を判断できるかを明確にすること」である。

微生物検査結果の用途によって凍結の扱いが異なり、病原菌の不検出や出荷判定では基本的に凍結を避け、工程の変化や傾向管理では凍結の影響を評価したうえで利用する場合があることを示した図

まとめ

検体保存で重要なのは、菌を増やさないことだけではなく、採取時点の微生物学的状態をできるだけ変えずに検査することである。冷蔵中に低温増殖菌が変化する可能性はあっても、その対策として凍結すれば、今度は凍結による損傷・死滅という別の変化を招く。

FDA・USDA・ISOはいずれも、冷蔵状態で採取した検体は冷蔵状態を維持し、できるだけ早く検査することを基本としている。現場から夕方に検体を持ち帰り、その日のうちに検査できない場合も、適用される時間条件を満たせるのであれば、新たに凍結するのではなく、冷蔵状態を保ったまま翌日検査するのが基本である。

そして「できるだけ早く」は無制限ではない。FDAでは通常、採取後36時間以内、ISO 7218:2024では受領後できれば24時間以内、腐敗性食品では採取から24〜36時間が目安となる。検体採取時刻・受領時刻・保管温度を記録し、その検査法・食品に適用される時間条件の範囲内で処理することが必要となる。

今回の質問に対する実務的な答えは、まず「翌日の検査のために凍結する」のではなく、「凍らせないように冷蔵を維持し、翌日できるだけ早く検査する」ということである。例外的な運用が避けられない場合には、事情だけで正当化せず、凍結の影響を評価し、その結果を何の判断に使えるかを明確にする必要がある。冷蔵維持が原則であり、原則から外れる運用には、目的に応じた根拠と記録が必要なのである。

冷蔵検体は夕方に持ち帰っても安易に凍結せず、冷蔵状態を維持してできるだけ早く検査し、例外的に凍結した場合はその事実を記録して結果の用途を明確にするという現場での考え方を示した図

冷凍による微生物の損傷についてのわかりやすい解説は下記をご覧ください

📄冷凍と微生物の死滅

参考資料