食品微生物検査について講演をしていると、現場の方から実務的な質問をよくいただく。今回取り上げるのは、次のような質問である。
「冷凍食品を前日から冷蔵庫に入れて一晩解凍し、翌日に微生物検査をしています。このような運用で問題ないのでしょうか?」
実際の検査室では、決して珍しくない運用ではないだろうか。一方、日本の冷凍食品の規格基準を知っている方なら、「公定法では冷凍したまま試料を調製することになっているはずだ」と思われるだろう。では、冷凍食品を冷蔵庫で一晩解凍してから微生物検査すること自体が、不適切なのだろうか。そこで今回は、日本の規格基準だけでなく、米国FDA、USDA、さらに国際規格ISOでは、冷凍食品の検体をどのように扱っているのかを比較してみたい。
日本の冷凍食品の規格基準では「冷凍したまま」
まず、日本の法令上の扱いを確認しておく。「食品、添加物等の規格基準」では、たとえば無加熱摂取冷凍食品について、
細菌数(生菌数)は検体1 gにつき100,000以下、かつ大腸菌群陰性
と定められている。そして重要なのは、この数値だけでなく、試験方法も具体的に規定されていることである。試料調製では、
冷凍したまま容器包装を開封し、内容全体を細切りした後、無作為に25 gを採取する
ことになっている。凍結直前に加熱された加熱後摂取冷凍食品についても、この方法が準用されている。したがって、日本の食品衛生法上の冷凍食品の成分規格に適合しているかどうかを正式に判定するのであれば、前日に冷蔵庫へ移して一晩解凍してから測定する方法へ、任意に変更することはできない。ここは明確である。
出典:厚生労働省「食品、添加物等の規格基準」(告示第370号):
では、世界の微生物検査でも同じなのだろうか。

FDAでは、必要なら「2~5℃、18時間以内」の解凍を認めている
米国FDAの食品微生物検査マニュアル Bacteriological Analytical Manual(BAM)Chapter 1 を見てみる。FDAも、まず原則として、
凍結試料は、できれば解凍せずに分析する
としている。ところが、分析用試料を採取するために解凍が必要な場合には、解凍することを明確に認めている。条件はかなり具体的である。
元の容器、または検査室へ搬入された容器のまま、2~5℃で通常18時間以内。
さらに、可能な限り別の容器へ移し替えて解凍することを避けるよう記載されている。迅速に解凍する必要がある場合には、45℃未満で15分以内という方法も示されている。この場合は、温度管理された水浴中で連続的に攪拌する。つまりFDAでは、
冷凍食品を冷蔵温度帯で一晩かけて解凍する
という操作そのものが、食品微生物検査の正式な試料取扱いとして想定されている。

USDA-FSISの特定の検査マニュアルでも「試料を採取できる程度まで解凍する」という考え方
次に、米国農務省のUSDA-FSISである。以下は、衛生指標菌の定量分析に関するMLG 3.02の記載に基づく説明である。
USDA-FSISには Microbiology Laboratory Guidebook(MLG) があり、FSIS自身が、このマニュアルをFSISの規制活動を支えるField Service Laboratoriesで使用する検査法と位置づけている。その中の MLG 3.02 “Quantitative Analysis of Bacteria in Foods as Sanitary Indicators” は、食品中の衛生指標菌を定量するための方法である。ここでも、冷凍検体について興味深い考え方が示されている。
まず、
可能なら大きな冷凍試料全体を解凍せず、必要な部分だけを採取する。
その理由として、
凍結・解凍により、一部の微生物では生残性や回収率が低下する可能性があることが挙げられている。しかし、それが困難な場合には、
2~8℃で約18時間を目安に、、試料を採取できる程度まで解凍する
方法が示されている。
さらに別の選択肢として、防水容器に入れ、冷水中で1~2時間解凍する方法も示されている。ここでいう「部分解凍」とは、試料の一部分だけを解凍することではなく、試料を採取できる硬さまで解凍することである。完全に解凍するのを待つ必要はない。微生物検査では、代表となる試料を採取できる程度まで軟らかくすることが目的だからである。

科学的な背景として補足すると
なぜ、完全に解凍するのを待たず、試料を採取できる状態になったら速やかに検査へ進むことが重要なのだろうか。ここには食品微生物学上の理由がある。凍結・解凍そのものによって一部の微生物が損傷・死滅し、培養による回収率が低下する可能性がある。一方、解凍が必要以上に長引けば、温度条件によってはリステリアなど低温でも増殖可能な菌や一部の腐敗菌が増殖し、逆に菌数が高く出る可能性もある。したがって、必要以上に解凍せず、試料採取が可能になった時点で速やかに検査へ進むことには、微生物学的にも合理性がある。
FDAの「2~5℃、通常18時間以内」と、USDA-FSISの「2~8℃、約18時間」。
よく似た考え方であることが分かる。
ISO 6887-1では「5±3℃、最大24時間」
さらに国際規格を見てみる。食品微生物検査の試料調製についての基本的な国際規格の一つが、
ISO 6887-1:2017
Microbiology of the food chain — Preparation of test samples, initial suspension and decimal dilutions for microbiological examination
である。ISOの公式サイトによれば、これは食品や飼料の微生物検査に用いる試料、初期懸濁液、段階希釈液の調製に関する一般的ルールを規定したInternational Standardで、2017年版は2025年にも確認され、現在も有効である。なお、個別のInternational Standardに試料調製方法が具体的に定められている場合には、そちらが適用される。この規格の8.2では、冷凍製品について扱っている。そのうち 8.2.2 “Small samples defrosted before testing” は、今回の疑問にほとんどそのまま答える内容になっている。
出典:ISO 6887-1:2017(公式ページ):https://www.iso.org/standard/63335.html
対象となるのは、一般に2 kg未満※の包装された小型食品で、肉や魚の切り身、野菜、デザート、複数の食品からなる調理食品などである。こうした冷凍検体について、試料を採取できる程度の硬さになるまで、
18~27℃なら最大3時間
または、
5±3℃なら最大24時間
置くことが示されている。
5±3℃であるから、まさに一般的な冷蔵温度帯である。しかも最大24時間である。したがって、
前日の夕方に冷凍食品を冷蔵庫へ移し、翌朝検査する
という運用は、ISOが示している条件の範囲に十分入り得る。ISOではさらに、完全に解凍する必要はなく、試料採取が可能であれば、まだ一部が凍っていても速やかに検査へ進むことを求めている。また、解凍中のドリップによる交差汚染を避けること、水槽や流水による解凍については、包装が完全防水でない場合に試料を汚染する可能性があるため推奨しないことまで示されている。
※なお、ISOでは、大きな塊・ブロック状の冷凍食品(一般に2 kg超)は、凍結したまま試料を採取する扱いとなっている。
この理由は規格の該当箇所には明記されていないが、筆者は次のように理解している。
大きな塊では、中心が試料を採取できる硬さになるまでに時間がかかり、その間に外側だけが先に解凍される。こうした部位ごとの解凍状態の違いや待ち時間は、条件によって微生物の増殖や損傷、ドリップの発生などを通じて検査結果に影響し得る。そのため、塊全体を解凍するより、凍結したまま必要な試料を採取する方が、検査前の状態変化を抑えやすいと考えられる。
なお、2 kgは厳密な境界ではなく、試料の大きさや形態を区別する目安である。

現場実務での重要ポイント:ドリップ(解凍液)の注意点
現場で特に注意したいのは、解凍時に生じる「ドリップ」の扱いである。食品が解凍されると組織液(ドリップ)が生じる。ドリップにも微生物が含まれ得るため、その漏出や分離は試料の代表性や交差汚染に影響する可能性がある。そのため、完全に解凍するのを待たず、試料採取が可能になった時点で速やかに検査に進み、ドリップの漏出や交差汚染を防ぐことが重要である。
日本、FDA、USDA、ISOを並べてみる
整理すると、次のようになる。
| 文書・制度 | 冷凍検体の取扱い |
|---|---|
| 日本の冷凍食品規格基準 | 法定の規格判定では冷凍したまま試料調製 |
| FDA BAM Chapter 1 | 原則は解凍しない。必要なら2~5℃、通常18時間以内 |
| USDA-FSIS MLG 3.02 | 可能なら解凍せず採取。必要なら2~8℃で約18時間、試料を採取できる程度まで解凍 |
| ISO 6887-1:2017 | 5±3℃、最大24時間、または18~27℃、最大3時間 |
こうして並べてみると、興味深いことが分かる。
日本の法定試験法では「冷凍したまま」とされている。
一方、FDA、USDA-FSIS、ISOでは、まずは解凍しないことを考えつつも、試料採取のために必要であれば、管理された条件で解凍することを明確に想定している。
したがって、
「冷凍食品を冷蔵庫で一晩解凍してから微生物検査する」という操作そのものが、微生物検査として不適切なわけではない。ここは、日本の法定試験法だけを見ていると意外に感じるところである。
では、自主検査ではどう考えればよいのか
最初の質問に戻る。
「冷凍食品を前日から冷蔵庫に入れて一晩解凍し、翌日に検査しています。これは問題でしょうか?」
まず、日本の冷凍食品について食品衛生法上の成分規格への適合性を判定する検査であれば、答えは明確である。日本の告示法に従い、冷凍したまま試料調製する必要がある。一方、企業や検査施設が日常的な品質管理や工程管理などの目的で行う自主検査であれば、話は別である。
- FDAでは2~5℃・通常18時間以内。
- USDA-FSISでは2~8℃・約18時間。
- ISOでは5±3℃・最大24時間。
このように、冷蔵温度帯で一晩程度かけて解凍する方法は、試料採取に必要な範囲で温度・時間を管理するという前提のもとで、国際的な基準や手引書と整合的である。したがって、対象食品・検査項目について方法の妥当性を確認したうえで、自主検査で、
夕方に冷凍食品を冷蔵庫へ移し、翌朝に微生物検査を開始する
という運用そのものを、「公定法と違うから間違っている」と考える必要はないだろう。むしろ興味深いのは、FDA、USDA、ISOとも、「一晩」という曖昧な表現ではなく、温度と時間を具体的に示していることである。ここは自主検査の運用を考える上でも参考になるところである。
なお、自主検査における解凍管理のシビアさは、検査目的によっても異なる。サルモネラやリステリアなどの「定性試験(有無の判定)」では増菌培養工程があるため多少の菌損傷はカバーされやすい一方、一般生菌数や大腸菌群などの「定量試験(菌数の計測)」では、解凍温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると数値のブレ(損傷死滅または増殖)に直結する。定量検査を行う自主検査であるならば、なおのこと「設定温度(例えば5℃前後)」「庫内での配置」「解凍時間」の標準作業手順(SOP)を厳格に定めておくことが不可欠である。

冷凍による微生物の損傷や死滅に関しての基礎記事は鍵をご覧下さい

