日本では2021年6月にHACCPが完全義務化されたが、工程衛生基準のような補助的な仕組みは導入されていない。一方、EUではHACCPの補助的な手段として「工程衛生基準」を活用し、全体の衛生管理を補完している。では、日本も工程衛生基準を導入すべきなのか?それとも、HACCPのみで管理を続けるべきなのか?本記事では、日本のHACCP運用の現状と課題を整理し、工程衛生基準の導入が日本の食品業界にとって有益かどうかを考察する。

EUと日本のHACCPシステムの運用の違い

📌 EUの特徴
✅ 二層構造(食品安全基準+工程衛生基準)
✅ 工程衛生基準はHACCPの補助手段として工場全体の健全性を確認

📌 日本の特徴
✅ 一層構造(微生物規格基準のみ)
✅ 各事業者のHACCPに全面依存し、共通の健全性確認指標なし

この違いは、単なる制度の問題ではなく、日本の食品業界がどのような管理を求めるかという本質的な課題につながる。

食品工場の現場で、HACCP以外に工程衛生管理基準にも従うべきかを指示されている品質管理者の様子。日本の食品工場の品質管理者たちが、HACCPだけで本当に衛生管理が十分なのかを会議で話し合っている様子。

日本のHACCP運用の現状と課題

 日本では2021年6月からHACCPが義務化され、食品業界全体でHACCP運用が求められるようになった。しかし、実際の運用状況は企業ごとに大きなばらつきがある。大手食品メーカーでは高度なHACCP管理が定着しているが、中小零細企業では「義務だからとりあえず記録をつける」程度の形骸化した運用も少なくない。

 特に以下の点が課題として指摘されている:

  • HACCPの理解不足 - 現場の担当者が「書類を作成すればよい」と考え、実際の衛生管理につながっていないケースがある。
  • 監査のばらつき - HACCPは事業者ごとの自主運用に依存しており、品質管理レベルに大きな差がある。
  • サンプリング計画の不備 - 日本のHACCPでは、工程ごとの衛生管理の明確な基準がなく、微生物モニタリングが不十分になりがち。
小規模食品工場でHACCPの書類作成に追われる従業員。衛生管理よりも記録作成が優先され、HACCP運用が形骸化している様子を表す。

HACCP運用のバランス:補助輪は必要か?

工程衛生基準の有無による日本とEUの違いを、自転車の運転に例えてみよう。

📌EUのアプローチ:補助輪付きの自転車

EUでは、HACCPを実施しながら、「工程衛生基準」という補助輪を活用し、食品安全管理を行っている。

✅ 工程衛生基準により、各企業の管理レベルにばらつきが出にくく、一定の水準を維持できる。
✅ 監査や指導が標準化され、行政のガイドラインが明確になる。
⚠️ ただし、自由度がやや制限されるため、大企業にとっては運用の柔軟性が損なわれることもある。

EUの食品工場内で、窮屈そうなユニフォームを着た技術者が「なんか窮屈くない?」と尋ね、もう一人が「お仕着せだからな」と答えている場面。工程衛生基準が現場に一律に適用されることへの違和感をユーモラスに表現している。

📌日本のアプローチ:補助輪なしの自転車

日本では、HACCPが制度化されたが、工程衛生基準のような補助的な仕組みは存在しない。

✅ 各企業が自社のHACCPを独自に運用し、柔軟な管理ができる。
⚠️ただし、特にHACCP初心者や中小企業にとっては、いきなり「補助輪なしで運転しろ」と言われるようなものであり、不安定さが残る。

EUの基準では補助輪付きの自転車に乗る子ども、日本ではいきなり補助輪なしで運転する子どもの対比。

日本に工程衛生基準は必要か?

工程衛生基準を導入することには、メリットデメリットがある。

🔹 メリット


HACCPを補完する形で、工場全体の衛生状態をモニタリングできる。
監査や指導が標準化され、行政のガイドラインが明確になる。
小規模事業者や経験の浅い企業でも、一定の基準があることで迷わず管理ができる。

日本の食品衛生監視員2名が「工程衛生基準(日本版)」の冊子を手にしながら、監視や指導がやりやすくなると意見を交わしている現場の様子。制度の導入メリットを肯定的に語っている。

デメリット


⚠️ 一律の基準が現場の多様性にフィットしない可能性がある。
⚠️ 各社の創意工夫や改善活動の柔軟性が損なわれることもある。
⚠️特に自社で高度なHACCP体制を構築している大企業にとっては、行政の工程衛生基準が重複し、柔軟な運用が制限される可能性がある。

EUの食品工場で、白衣の技術者が「結局、HACCPってことじゃないの?」と問い、EUの監視員が「まあ、そうとも取れます…」と答える会話シーン。工程衛生基準とHACCPの関係性を示唆している。

まとめ:日本の食品業界に工程衛生基準は必要なのか?

EUの工程衛生基準を導入すれば、日本のHACCP運用にとって「補助輪」としての役割を果たす可能性がある。しかし、それが本当に必要なのかは、現場の状況や事業者の考え方による。

🔹 オプション①:現状維持(補助輪なし)
→ 各社がHACCPを徹底運用し、自社の裁量で管理レベルを維持する。

🔹 オプション②:EU型に近づける(補助輪付き)
→ HACCPを補完する工程衛生基準を導入し、一定の管理基準を設ける。

結局のところ、日本の食品業界は「いきなり補助輪なしで運用するリスクを取るのか、それとも補助輪をつけて安定運用を目指すのか」という選択を迫られている。

日本の食品工場で、ベテラン技術者が「工程衛生基準があったほうがありがたい」と語り、若手職員が「いや、HACCPだけでやりませんか?」と返答している議論シーン。制度導入の是非をめぐる世代間の意見の違いを描いている。

貴社は、どちらが良いと思うだろうか?