基礎講座ー食品安全性における微生物の国際基準・規格

食品安全性に係る国際的な微生物の基準や規格・ルールについて幅広く説明します。

基礎講座ー食品安全性における微生物の国際基準・規格
日本の食品微生物規格は遅れがち? では、食中毒発生率は?新着!!

これまでの記事では、日本の食品微生物規格がHACCP導入後も昭和期の製品検査型の枠組みを引きずっていること、そしてEUではHACCPに連動したリスクベースの規格が確立されていることを紹介してきた。
制度の整備状況だけを見れば、日本は国際的に大きく遅れているように映る。

 しかし、2023年の最新データをもとに実際の食中毒発生率を比較してみると、むしろ日本の方がEUよりも低いという興味深い結果が見えてきた。

 本記事では、その背景にある構造的・制度的な違いを再確認しつつ、「制度の遅れ」と「統計上のリスク低さ」がなぜ同居しているのかを考察していく。
 サルモネラ症、腸管出血性大腸菌感染症(STEC)、リステリア症を中心に、100万人あたりの発生率を比較し、補足としてカンピロバクター症のデータも取り上げる。

制度の優劣は、そのままリスクの大小に結びつくのか?――その答えを、データから読み解く。

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基礎講座ー食品安全性における微生物の国際基準・規格
HACCPを導入しても日本の微生物規格はこのままでいいのか?—昭和の基準を残したまま制度が機能するのかを問う

以前の記事(シリーズ第2弾、3弾)で紹介したように、EUでは2005年にHACCPを制度の中核に据えた際、各国にバラバラに存在していた微生物規格基準を整理し、病原菌に特化したシンプルな食品安全基準へと再構成した。

 一方、日本では2021年にHACCP制度が義務化されたものの、それに合わせた微生物規格基準の見直しは行われず、依然として昭和期に設計された基準がそのまま残されている。

 本記事では、HACCP制度だけが導入され、基準が取り残されたという構造的な問題点について、改めて整理しておきたい。その背景や理由を追及するのではなく、現在の制度がどうなっているのか、どこに論理的なズレがあるのかを明確にしておくことが目的である。

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基礎講座ー食品安全性における微生物の国際基準・規格
日本に工程衛生基準は必要か?HACCP運用とのバランスを考える― EU食品微生物基準シリーズ第4弾

 日本では2021年6月にHACCPが完全義務化されたが、工程衛生基準のような補助的な仕組みは導入されていない。一方、EUではHACCPの補助的な手段として「工程衛生基準」を活用し、全体の衛生管理を補完している。では、日本も工程衛生基準を導入すべきなのか?それとも、HACCPのみで管理を続けるべきなのか?本記事では、日本のHACCP運用の現状と課題を整理し、工程衛生基準の導入が日本の食品業界にとって有益かどうかを考察する。

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基礎講座ー食品安全性における微生物の国際基準・規格
HACCPは検査と規格を不要にするのか? 理想と現実の構造整理 ― EU食品微生物基準シリーズ第3弾

これまでのシリーズでは、EUの食品安全法体系が「食品安全の基本法」から「衛生パッケージ」、そして「微生物基準規則」へと明確に構造化されていることを見てきた。また、EUでは食品安全基準を病原菌に限定してスリム化し、同時に工程衛生基準という枠組みを新たに設けたことも確認した。

では、なぜEUはこのような制度設計を選んだのか?
その背景には、「HACCPが理想通りに機能すれば、最終製品の微生物検査や規格基準は不要となる」という根本的な思想がある。しかし現実には、HACCPだけでは完全に制御できない製品や工程が数多く存在する。

今回の記事では、EUの制度構造を支えるこの「HACCP万能論」とその限界に注目し、検査との関係性を具体例を交えて検討する。
結論を先に述べれば、HACCPと検査は補完関係のようで、どちらも完全には頼れないという構造的なジレンマが存在する。この曖昧な補完関係を見通すことで、EUの制度設計が持つ深層的な意味、そして日本の制度との対比におけるヒントが得られるはずである。

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なぜEUでは指標菌を食品安全基準から外したのか?日本の微生物規格との違いを解説― EU食品微生物基準シリーズ第2弾 ―

 本記事は、先に掲載した「EUの食品微生物基準を理解する:食品安全基本法から微生物基準規則まで」に続くシリーズ第2弾である。

 日本では、食品の微生物規格に一般生菌数や大腸菌群などの指標菌が含まれているのが一般的である。一方、EUでは食品安全基準の考え方が大きく異なっている。EUの食品安全基準は、食品中の微生物基準を食中毒菌(Salmonella、Listeria など)に特化させており、指標菌は「工程衛生基準」に分類されている。なぜEUではこのような基準が採用されているのか。そして、日本とEUの違いにはどのような意味があるのか。

 本記事では、2004年のEU食品衛生パッケージの導入を振り返りつつ、「なぜEUは指標菌を食品安全基準から外したのか?」という問いに対し、構造的な背景から明快に解説する。この流れを把握することで、日本の微生物規格の現状と、今後のあるべき姿が浮かび上がってくるはずである。

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EUの食品微生物基準を理解する:食品安全基本法から微生物基準規則まで

食品の国際取引が活発になる中で、EUの食品安全基準は日本の食品業界にとって無視できない存在となっている。特に、EUの食品微生物基準は、HACCPの実践や輸出入時の品質管理に直結する重要な規則である。

EUの食品安全規則は、一見すると多くの規則が存在するように見えるが、実際には「食品安全の基本法」→「食品衛生パッケージ」→「微生物基準規則」という明確な構造を持っている。

本記事では、この体系をわかりやすく整理し、それぞれの規則の役割を解説する。EUの規則の全体構造を理解したい読者にとって、本記事を読むことで基本的な枠組みを把握できるはずだ。

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EFSAと日本の食品安全委員会の設立背景:BSE危機からの教訓

1990年代にイギリスで発生したBSE危機は、世界中の食品安全政策に革命をもたらした。この記事は、その教訓から生まれたイギリスの食品基準庁(FSA)、ヨーロッパの食品安全機関(EFSA)、そして日本の食品安全委員会の設立背景に迫り、これらの機関がどのようにして食品のリスク評価と管理の新しい標準を設けたかを解説する。

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基礎講座ー食品安全性における微生物の国際基準・規格
絡み合う規則の迷宮!米国食品の微生物基準を解き明かす

 世界には『コーデックス食品基準委員会』による国際標準が存在し、多くの国々がこれを基に自国の食品安全基準を設定している。特にEUでは、これをさらに発展させて統一されたEU基準を設定している。日本も、食品衛生法に基づく明確な基準を適用している。一方で、米国では独自のアプローチを採用しており、法的拘束力を持つ連邦法の規定は限られている。その代わりに、「民生品目記述票(CID)」などの政府調達における品質基準やFDAのガイダンス文書などを中心にしたシステムが採用されている。この記事では、米国独自の食品微生物規格の構造の説明と、それがどのように適用されているのかを、分かりやすく解説する。読み進めることで、食品微生物学入門者の読者にとって、米国の食品安全規格の世界とその理由を理解できるようになるだろう。

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食品微生物学入門者のためのガイド:コーデックス、ISO、EU/米国規則の理解と位置づけ

新入社員や食品微生物学の初学者が直面する最初の課題の一つは、コーデックス、ISO、EU規則、FDAやBAMなど、食品安全に関わるさまざまな国際的な規則とその複雑な関係性の理解だ。これらのキーワードの意味と、それらが食品微生物安全においてどのように組み合わさり、相互にどのような役割を果たしているのかを把握するのは、多くの入門者にとってはとても難しい挑戦となる。しかし、心配は無用だ。この記事では、コーデックスやISOなどの国際規則と、EUや米国のような地域規則との間の独特な関係に光を当て、例え話を交えながら、入門者がこれらの位置づけを理解しやすくするための説明を行う。

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日本とEUの食品の微生物規格基準の違い、HACCP制度化にともなう弁当及びそうざいの衛生規範等の廃止理由をわかりやすく説明します

 この記事では、現行の日本とEUの食品の微生物規格基準の違いについて、わかりやすく説明する。また、2021年6月、HACCP制度化にともない、弁当及びそうざいの衛生規範、漬物の衛生規範、洋生菓子の衛生規範等の一連の衛生規範が廃止された。これまで、EUの工程衛生基準に近い役割を果たしていた各種衛生規範がなぜ廃止されたのか、その背景について解説する。さらは、今後、EU、日本を問わず、食品事業者が対応すべき自主的な工程管理や自主検査の方向性についても解説する。

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