今週のブログ更新について新着!!
この状況をご理解いただき、ご了承いただけますと幸いです。皆様の温かいサポートに感謝し、引き続き当ブログをよろしくお願いいたします。
敬具
東京海洋大学名誉教授 木村 凡
EUの食品微生物基準を理解する:食品安全基本法から微生物基準規則まで
食品の国際取引が活発になる中で、EUの食品安全基準は日本の食品業界にとって無視できない存在となっている。特に、EUの食品微生物基準は、HACCPの実践や輸出入時の品質管理に直結する重要な規則である。
EUの食品安全規則は、一見すると多くの規則が存在するように見えるが、実際には「食品安全の基本法」→「食品衛生パッケージ」→「微生物基準規則」という明確な構造を持っている。
本記事では、この体系をわかりやすく整理し、それぞれの規則の役割を解説する。EUの規則の全体構造を理解したい読者にとって、本記事を読むことで基本的な枠組みを把握できるはずだ。
EFSAと日本の食品安全委員会の設立背景:BSE危機からの教訓
1990年代にイギリスで発生したBSE危機は、世界中の食品安全政策に革命をもたらした。この記事は、その教訓から生まれたイギリスの食品基準庁(FSA)、ヨーロッパの食品安全機関(EFSA)、そして日本の食品安全委員会の設立背景に迫り、これらの機関がどのようにして食品のリスク評価と管理の新しい標準を設けたかを解説する。
消費期限設定するために、消費者の冷蔵庫温度を何°Cと仮定すべきか?
欧州連合(EU)では、食品事業者が消費期限を科学的に設定する際、消費者の家庭用冷蔵庫の温度をどのように想定すべきかが大きな関心事となっています。これまで12℃が想定温度の目安とされていましたが、最近の広域調査により、実際の家庭環境を反映した温度として「10℃」が新たに推奨されるようになりました。今回紹介する研究では、欧州16カ国の冷蔵庫温度データを解析し、この「10℃」という数値が、より現実的で妥当な想定値であることが示されています。
※なお、この研究はリステリア菌のリスク評価を想定したShelf-life試験の文脈で実施されていますが、示された冷蔵庫温度データは消費期限設定全般にも応用可能な基礎情報となっています。
ガス置換包装と微生物増殖の防止:食品の安全性と品質保持のために
食品の品質保持と微生物学的安全性の確保においては、pHの調整、水分活性の管理、保存料の使用、温度管理に加え、ガス置換包装(Modified Atmosphere Packaging, MAP)の適切な導入と制御が極めて重要である。
特に、包装内部の気相組成の調整と温度管理の併用は、食品の風味や栄養成分を損なうことなく微生物の増殖を抑制できる手段として注目されており、保存期間の延長や廃棄削減といった実務上の利点も大きい。
本記事では、食品保存技術としてのガス置換包装の基本と、微生物増殖抑制との関係性に焦点を当て、その仕組みと効果、さらには導入時の留意点について解説する。
知らぬ間にリスクが潜む?固体表面に触れた手で顔に触る頻度を検証
ノロウイルスは手洗いを怠った感染者が触れた生活空間の固体表面から感染します。また、呼吸系の感染症は鼻粘膜に汚染された指との接触で広がります。日常生活の中で、私たちはどれほど頻繁に固体表面に触れた手で顔の粘膜に触れているのでしょうか?この記事では、これらの接触頻度について統計的に整理された論文を紹介します。
手洗いだけでは不十分?:空港のノロウイルス対策に学ぶ感染防止のポイント
日本を含め、2025年冬は世界各国でノロウイルスの大流行が報告されています。食品業界では「食品を介した感染」に注目しがちですが、多くの人が触れる「表面」を介した接触感染が見落とされがちなことが、最新の研究で明らかになりました。特にノロウイルスは、インフルエンザウイルスやコロナウイルスとは異なり、脂質膜(エンベロープ)を持たないため、固体表面での生存期間が長い特徴があります。そのため、固体表面を介した感染リスクが高く、適切な消毒が重要になります。
今回紹介するのは、空港におけるノロウイルスの感染リスクを調査した最新の研究。この研究では、「手洗いよりも表面消毒の方がはるかに効果的である」という結果が示されています。
では、この研究から、食品企業にとってどのような示唆が得られるのでしょうか? 詳しく見ていきましょう。
トイレ利用時のノロウイルス感染リスク:効果的な対策とは?
ノロウイルスが流行する時期、トイレに入る際の感染リスクについて考えたことはありませんか? 多くの人が利用する公衆トイレでは、便座やドアハンドルなどの接触面にウイルスが付着していたり、場合によっては嘔吐物が残っていることもあります。ノロウイルスは非エンベロープ型ウイルスであり、固体表面上に長く生存することが知られています。米国アリゾナ大学環境科学部のAbney博士が率いる研究チームの最新の研究(2024年発表)では、トイレ利用後の自動手指消毒ディスペンサー(非接触型の手指消毒器)の利用がリスク低減に最も効果的であることが示されています。食品業界の品質管理担当者にも役立つ、実践的な知識と予防策を今回のブログでご紹介します。
新潟県のボツリヌス食中毒:容器密封要冷蔵食品の落とし穴と25年前のハヤシライス事件の教訓
2025年2月、新潟県でボツリヌス食中毒が発生しました。この事件は、過去のボツリヌス食中毒とは異なり、C型ボツリヌス毒素が検出されたことが特徴です。一般的に、ボツリヌス食中毒は Clostridium botulinum I型(A, B型)やII型(B, E型)によって引き起こされますが、C型は人間の食中毒としては非常に珍しいとされています。さらに、約25年前の千葉県でのハヤシライス事件と比較すると、どちらも「密封包装された要冷蔵食品を常温保存したことが原因」で共通しています。ボツリヌス菌は酸素の少ない環境で増殖しやすいため、真空包装食品や長期間密封された食品では特に注意が必要です。本記事では、C型ボツリヌス菌の特徴、耐熱性、そして過去の食中毒事例との比較を通じて、密封包装された要冷蔵食品の管理の重要性について考察します。