中国への食品輸出を検討する際、多くの日本企業が最初に直面する壁が「微生物規格の違い」である。日本では食品衛生法や業界通知に基づいた柔軟な運用(食品特性に応じた基準設定)が一般的だが、中国では「GB規格(国家標準)」がすべての基準の中核をなしている。ここで注意しなくてはならないのは、日本やEU、米国と比べたとき、中国では規格を設計する思想そのものと行政の運用方針の両方が大きく異なるという点である。
以下では、中国の規格体系の構造と、その背後にある考え方を整理し、日本やEUとの対比を通じて実務上の注意点を示す。
中国の食品規格体系 ― 「GB」という国家標準
中国の食品関連規格は、「国家標準(Guójiā Biāozhǔn:グオジア・ビャオジュン)」を中心に構築されている。つまり「国家が定めた標準」という意味である。中国では、この「国家標準(Guójiā Biāozhǔn)」を略して「国標(Guó Biāo:グオビャオ)」と呼ぶ。「国(Guó)」と「標(Biāo)」の音を組み合わせた略称で、「国家標準」の短縮形である。この「Guó Biāo(グオビャオ)」の頭文字を取ったものが GB であり、公式文書や規格番号(例:GB 29921、GB 4789など)に広く用いられている。

ちなみに、「GB」という略称が覚えにくいという人もいるかもしれない。そんなときは、語呂合わせとして次のように覚えると便利だ。「国(Guó)」は Government(ガバメント) の G、「標(Biāo)」は Benchmark(基準) の B と考えると覚えやすい。つまり「G=国(Government)」「B=基準(Benchmark)」——この2文字を合わせた「GB」は、“国家が定めた基準”という意味になる。

さて、この「GB(Guóbiāo)」こそが、中国の食品安全制度の中枢神経である。日本やEUでは、法律・規則と技術的な規格は明確に階層分けされており、法律では基本的な枠組みや原則を示し、具体的な数値基準は通知(日本)やRegulation本文(EU)、およびEN ISO規格などの技術文書によって補う構造となっている。一方中国では、まず「GB」という技術規格そのものが制度の中核に位置し、そのGBの本文にサルモネラ陰性のような数値基準や検査法の詳細が直接書き込まれている。その下に行政規則や技術細則が配置されるため、GBを見るだけで行政判断の基準が明確になるという仕組みだ。
要するに、中国ではGBという技術文書が、実質的に法律の役割を果たしている。日本のように通知や行政解釈で柔軟な対応を取る余地は少なく、GBに明記されていない運用は、原則として認められない。そのため、日本企業が中国へ食品を輸出する場合には、まず自社製品がどのGBに該当するのかを確認し、その条文を正確に読み解くことが欠かせない。

行政が安全を設計する国 ― 中国の微生物規格の構造
中国の食品微生物規格の背景にあるのは、「国のどこで検査しても、同じ結論にたどり着く制度にしたい」という行政的発想である。
EUや日本のように、食品の性状(pH、水分活性、保存条件など)によって基準を変える方式では、地域によって衛生水準や検査能力の差が大きい中国では、統一的な運用が難しい。そのため中国は、あえて条件を問わず一律の線を引くことで、全国どこでも行政判断をそろえる仕組みを作り上げた。そしてこの構造を支えているのが、次の三つの国家標準(GB)である。

微生物規格の基本構造:中国はカテゴリーで判定する
中国の微生物規格制度の大きな特徴は、食品の性状(pHや温度など)ではなく、製品カテゴリーによって合否を判断する点にある。これは、EU、米国、日本のように「リスクに応じて基準値を柔軟に設定する方式」とは根本的に異なる考え方である。カテゴリーによる一律基準を採用することで、行政判断を全国で標準化し、実務運用のぶれを最小化する仕組みを持つ。このカテゴリー判定こそが、中国の微生物規格制度の最初の柱である。
例えば、「中国では、食品が「予包装食品(prepackaged foods)」カテゴリーに分類されると、製品特性に関係なく全国一律の基準値が適用される。これは、中国が食品安全行政を中央集権的に運用し、地域差を排除することで法執行の一貫性を担保する制度設計である。

GB 29921 ― カテゴリー制度の代表的な規格
カテゴリー制度の中で代表的な規格が、GB 29921-2021(食品安全国家標準 予包装食品中致病菌限量)である。対象は包装済み食品全般で、RTE(即食)・非RTEの双方を含む(商業的無菌食品・包装飲用水・飲用天然ミネラルウォーターは適用外)。実務上は最初に参照することが多く、カテゴリー制度理解の“代表選手”として位置づけられる。

GB 4789― 一元化された検査法制度
日本やEUでは、食品衛生の公定法が定められているものの、AOACやISOなどの受当性評価(validation)を受けた同等法があれば、それも行政判断に使うことができる。科学的に同じ結論が得られるなら、手法の違いは問わない――この柔軟性は、日本やEUの制度の特徴である。
だが、中国では前提が根本から異なる。中国のGB 4789シリーズは「法に定められた唯一の検査法」であり、行政判断における合否判定の根拠となるのはこの方法だけである。企業の自主検査や国際取引の内部確認でAOAC法やISO法を併用する例はあるが、それらはあくまで参考データとして扱われ、行政判断の根拠にはならない。

日本でも、行政判断においては公定法(告示法)が優先される点では中国と共通している。しかし、日本では行政判断以外の場面――たとえば行政上のモニタリング調査や企業の自主検査、輸出入時の国際的な確認――において、AOAC法やISO法などの代替法が柔軟に認められている。一方、中国では、仮に代替法で陰性結果が得られても、輸出入や国内取引の現場ではGB法による陰性証明が原則として求められる。GB法は事実上、民間取引・輸出入の共通通貨になっているのである。輸入時の検査証明書にもGB法の明記が求められることが一般的である。

つまり、中国の制度は「科学的に等価かどうか」ではなく、「行政的に統一できるかどうか」を基準に設計されている。この背景には、中国が抱える広大な国土と地域格差がある。地方で検査法が異なれば、食品安全監督の実効性が損なわれるため、国家は検査法を細部まで統一し、どの検査機関でも同じ結果が得られるよう制度設計している。また、中国では行政判断の根拠となる検査については、「国家認可検験計測機関(国家認定検査機関)」での実施が厳格に求められる。これは、検査法の統一だけでなく、検査主体そのものを国家が制度的にコントロールする仕組みであり、科学的柔軟性を許容する日本との大きな違いである。
GB 14881 ― 工場衛生を「国家が設計する」という発想
中国の食品衛生管理を理解するうえで、もう一つ重要な基盤となるのがGB 14881「食品生産一般衛生規範」である。この規格は、いわば中国版のGMP(Good Manufacturing Practice)であり、食品工場の設計、設備配置、従業員の行動、清掃・消毒、検査室の管理に至るまで、細部にわたって国家が定めている。

日本は、GMPやHACCPの考え方が「各社が自ら衛生管理計画を立て、リスクに応じて柔軟に運用する」という自主設計型であるのに対し、中国では、あらかじめ国家が最低限守るべき“衛生の標準形”を明示している。企業はまずこの基準を満たすことが求められる。そのうえで、HACCPやISO22000などを導入し、より高いレベルの管理を自主的に上積みすることも認められている。この考え方もまた、「科学的多様性」より「行政の一貫性」を優先する中国的な制度設計の延長線上にある。個々の企業が工夫や改善で上を目指すのではなく、国家が衛生レベルの“下限”を定義し、全国で均一な水準を担保する――それがGB14881の本質である。

※GB14881は2025年9月に最新版(GB 14881-2025)が公布され、HACCP原理や微生物監視の要求が追加・強化された。ただし制度の基本構造は従来と大きく変わっていないため、本稿の内容は新版にもそのまま適用できる。ただし、今後の工場監査においては、HACCP関連文書やモニタリング体制の整備・運用状況がより重点的に確認される可能性があるため注意が必要である。
付録:数字のゴロでGBを覚えるコツ
ところで、こういった数字が並んだ規格番号というものは、いつも混乱のもとになるものである。「これは何だったか。微生物規格だったか。検査法だったか。それとも工場衛生だったか」。覚えるタイミングを逃すと、永遠にあやふやなままで混乱し続けることになる。
しかし、実践的にはすべての数字を丸ごと覚える必要はない。最初の二桁、あるいは三桁さえ認識できれば十分である。GB番号は、詳細な数値そのものよりも “どの分野の基準であるか” を即座に識別できることの方がはるかに重要なのである。さらに、語呂合わせは厳密にすべての数字を覚える必要はなく、末尾の一桁程度が曖昧でも実務上まったく問題ない。要は、自分なりの連想で 「ああ、これは検査法だな」「これは工場衛生の基準だな」 と判断できれば十分である。そこで、一つの記憶のコツを紹介しておきたい。これは私自身が考えた語呂合わせであるが、読者自身でよりしっくりくる覚え方を考えてもよい。とりあえずこの三つを押さえておけば、実務上はまず困らないであろう。
🌭 GB 29921 → 「29(ふく=袋)」+「921(くにいちばん=袋、国一番=食品の代表選手」
→ 微生物規格(基準値)は”袋”(包装食品)の規格、とおぼえておく。国一番=国でもよく使われる代表的なカテゴリー規格

🧪 GB 4789 → 「4789(しなやか)」
→ 検査法、つまり、しなやかな検査法とおぼえてく。
※末尾の「9」は語呂ではやや曖昧だが、検査法として認識できれば十分である。
上述したように、中国制度における GB4789 の位置づけは、「どの方法を選んでもよい」ための選択肢ではなく、しなやかとは真逆な「硬いルール」である。しかし、覚え方としては、4789(しなやか)法と逆説的に覚えて置けば、かえって、印象的に覚えやすいだろう。「しなやか(4789)じゃないのが、中国の検査法」というわけだ。

🏭 GB 14881 → 「148(いい芝)あるいは14881(いい芝、はい!)」
→ 工場衛生(GMPの基盤)、つまり、いい芝の上の工場とおぼえておく。

まとめ ― 日本から中国へ食品を輸出する際に理解しておくべき二つの本質
- 国家が安全を設計する国、中国
日本やEUのように事業者が自らGMPやHACCPを構築し、自主的に安全を設計する「自主設計型」とは異なり、中国では国家が制度として食品安全を設計し、行政が最終判断を統一する仕組みを採用している。 - GB法以外の妥当性評価法は行政判断で認められない
AOAC法やISO法など、科学的に妥当性評価(validation)を受けた同等法であっても、行政判断の根拠として使用できるのはGB 4789シリーズなど、国家標準に定められた方法のみである。したがって、日本の品質管理担当者が中国に製品を輸出する際には、「科学的に正しいか」ではなく「GBに準拠しているか」という行政的視点で確認することが、最も重要な実務ポイントである。


