日本を含め、2025年冬は世界各国でノロウイルスの大流行が報告されています。食品業界では「食品を介した感染」に注目しがちですが、多くの人が触れる「表面」を介した接触感染が見落とされがちなことが、最新の研究で明らかになりました。特にノロウイルスは、インフルエンザウイルスやコロナウイルスとは異なり、リン脂質二重膜(エンベロープ)を持たないため、固体表面での生存期間が長い特徴があります。そのため、固体表面を介した感染リスクが高く、適切な消毒が重要になります。
今回紹介するのは、空港におけるノロウイルスの感染リスクを調査した最新の研究。この研究では、「手洗いよりも表面消毒の方がはるかに効果的である」という結果が示されています。
では、この研究から、食品企業にとってどのような示唆が得られるのでしょうか? 詳しく見ていきましょう。
空港のノロウイルス研究が示す感染リスク
ノロウイルスは食品業界にとって大きな脅威ですが、その感染経路は食品だけではありません。最新の研究では、空港のような人の出入りが激しい場所では、「高頻度接触面」を通じたウイルスの拡散が重要なリスク要因であることが示されました。
北京工業大学の研究者らは、中国の3つの空港(北部2カ所、南部1カ所)で乗客の接触行動を詳細に記録し、ノロウイルスの感染リスクを定量的に評価しました。
Zhang et al. (2024)
Public surface disinfection every 2 hours can reduce the infection risk of norovirus in airports up to 83%. PLoS Comput Biol 20(12): e1012561. Published: December 5, 2024 https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1012561
CC BY 4.0
この研究から、食品工場やレストランでも応用できる3つの重要なポイントが浮かび上がります。
- 空港の研究が示した手洗い vs. 表面消毒:研究が示した結果
- 研究によると、手洗いの効果は感染リスクを2%減らすにとどまるが、公共表面の消毒は83%のリスク減少をもたらす。
- 高頻度接触面とは?ノロウイルスが拡散しやすい場所の特定
- 空港内で最も接触回数が多かったのはレストランであり、顔の粘膜(目・鼻・口)に触れる頻度が圧倒的に高かった。
そのため、レストランが最も感染リスクの高いエリア であることが明らかになった。
一方、充電エリアや手荷物受取所でも接触は多いものの、レストランほどではなかった。
- 空港内で最も接触回数が多かったのはレストランであり、顔の粘膜(目・鼻・口)に触れる頻度が圧倒的に高かった。
- 食品工場やレストランはどう応用すべきか?今すぐ見直すポイント
- 「食品を扱う前の手洗い強化」だけでなく、「従業員や顧客が頻繁に触れる場所の定期的な消毒」が、より重要な対策となる可能性がある。

研究で示された発見とは
食品業界では、「手洗いの徹底こそが感染対策の基本」と考えられてきました。
しかし、本研究では、手洗いだけでは感染リスクを十分に下げられないことが明確に示されました。
では、どのような環境でノロウイルスが拡散しやすく、どの対策が最も効果的なのか? 研究の結果を見ていきましょう。
1️⃣ 最も感染リスクが高かったのはどこか?
研究チームは、空港の9つのエリアで乗客の接触行動を詳細に分析しました。
その結果、最も感染リスクが高かったのは、意外にもレストランでした。
なぜでしょうか?
- 乗客は レストランで顔の粘膜(目・鼻・口)に触れる頻度が最も高く、10.3回/時 にも及びました。
- さらに、レストランでは マスクの着用率が最低(22.0%) で、ウイルスの拡散を防ぐ手段が少なかったのです。
- これに対し、待合エリアや手荷物受取所では、顔の粘膜に触れる頻度は 1時間あたり2回未満 にとどまりました。
つまり、「どこにいるか」よりも、「何に触れるか」「どのくらい顔を触るか」が、感染リスクを大きく左右する ということがわかりました。

2️⃣ 「手洗い vs. 表面消毒」— どちらが効果的か?
では、感染リスクを下げるには、どうすればよいのでしょうか?
ここで研究チームは、手洗いと表面消毒の効果を直接比較しました。
研究の結果、手洗いよりも表面消毒の方がはるかに効果的であることが明らかになりました。
- 手洗いを2時間ごとに行った場合 → 感染リスクは2.0%減少
- 公共表面の消毒を2時間ごとに行った場合 → 感染リスクは83.2%減少
この違いは決定的です。
「手洗いは重要だが、それだけでは感染リスクの大幅な低減にはつながらない。
一方で、表面消毒は感染リスクを劇的に下げる効果がある。」
この研究が示したのは、「どこで感染が起こるのか?」を理解した上で、適切な対策を取ることの重要性 です。

3️⃣ 研究の結論:手洗いだけでは不十分。表面消毒が決め手
本研究の結果を総合すると、次の3つの結論が導き出されます。
✅ 「顔の粘膜に触れる頻度が高い環境(レストランなど)」では、特に感染リスクが高まる
✅ 「手洗いの効果は限定的」であり、「表面消毒」の方が圧倒的に効果がある
✅ 「手を洗えば安心」ではなく、「手洗い後に触れる場所の管理」が決定的に重要
この研究結果は、食品業界にとっても極めて重要な示唆を与えています。
では、この知見を食品工場やレストランの品質管理にどう応用できるでしょうか?
次のセクションで考えていきましょう。
食品工場で活かすべきポイント:空港の研究からの示唆
今回の研究から、食品工場の品質管理者が注目すべきポイント が明らかになりました。
食品工場では手洗いが徹底されていますが、作業員自身の感染リスク管理が十分かどうかを見直すことが大切です。
では、空港の研究結果をどのように食品工場に活かせるのでしょうか?
ポイントは次の2つです。
1️⃣ 手洗いだけでは従業員の感染リスクを防ぎきれません
✅ 食品工場では手洗いの徹底が求められていますが、作業員が休憩時や更衣室、トイレでどのくらい共用部に触れているかを意識していますか?
✅ 空港の研究では、手洗いによる感染リスクの低減は2%でしたが、表面消毒では83%のリスク低減効果がありました。
✅ 食品工場でも、共用部分の消毒を強化することで、従業員の感染リスクを抑えられる可能性があります。
2️⃣ 「高頻度接触面」の消毒を戦略的に強化しましょう
✅ 食品工場では、従業員が頻繁に触れる「休憩室」「更衣室」「トイレ」「食堂」「タイムカード機器」などの共用部分に注目することが大切です。
✅ 工場内の衛生管理だけでなく、「従業員が感染しないための環境づくり」を意識する必要があります。
✅ 「高頻度接触面マップ」を作成し、消毒の頻度と方法を明確にしましょう。
📌 まとめ
食品工場では手洗いが徹底されていますが、それだけでは作業員の感染リスクを防ぎきれません。
今回の研究結果を踏まえて、「高頻度接触面の消毒」を強化することで、従業員の感染防止につながる可能性があります。
今一度、工場内の共用部分の衛生管理を見直し、実効性のある対策を導入することが求められます。
