世界中のレストランで頻発するノロウイルスによる食中毒は、主にウイルスに感染した従業員が原因で起こります。この問題を解決するためには、レストランにおけるノロウイルス対策が欠かせません。では、どのような対策が最も推奨されるのでしょうか?米国のCDCは、ノロウイルスのアウトブレイクを経験したレストランで実施されていた従業員教育と衛生対策に注目し、食中毒リスクを低減する要因を探求しました。
Hoover et al.
Restaurant Policies and Practices Related to Norovirus Outbreak Size and Duration
Journal of Food Protection Volume 83, Issue 9, September 2020, Pages 1607-1618
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レストランにおけるノロウイルス食中毒の主な原因
米国では、レストランは、ノロウイルスによる食中毒アウトブレイクの最も一般的な発生場所(81%)であり、レストラン関連の食中毒アウトブレイクのほぼ半数(46%)がノロウイルスによるものです。
今回調査した124件のノロウイルス集団発生のうち、92のアウトブレイク(74.2%)において、少なくとも1つの要因が特定されました。最も頻度の高い寄与因子は、感染が疑われる食品従業員による素手での接触(44.6%、92件中41件)であり、次いで感染が疑われる食品従業員による(手以外の)汚染(32.6%、30件)、感染が疑われる食品従業員による手袋をした手での接触(16.3%、15件)でした。合計すると、アウトブレイクの93.5%(86件)は、これら3つの感染性食品従事者の要因のいずれかを有していました。
では、従業員から発生するノロウイルス食中毒の原因とは何でしょうか?
レストランの特性解析
米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)の職員は、ノロウイルスによる食中毒を起こしたレストランの特性を分析し、アウトブレイクとその規模の関連性を調べました。124件のノロウイルス集団発生および発生レストランのデータをサーベイランスシステムから入手し、レストランの特性と集団発生の規模および期間との関係を明らかにするために分析しました。
- 本研究のデータは、米国疾病対策予防センター(CDC)の2つの食中毒発生報告システム、すなわち全国環境評価報告システム(NEARS)および食中毒発生サーベイランスシステム(FDOSS)で、2014年1月1日から2016年12月31日までに、16の州および地域の保健所が404件の食中毒アウトブレイク記録から抽出しました
- レストランに関連するアウトブレイクのみを対象とし、その他の食品施設は分析から除外した(以下、「レストラン」という用語を使用する)。実際のところ、ノロウィルス単発アウトブレイク326件のうち、270件(82.8%)がレストランに関連していました。
- 単回帰分析により、レストランのアウトブレイク期間を有意に予測(P < 0.05)する特性が解析されました。すべての連続的なレストランの特性変数(重大な違反の数など)について記述統計量を算出し、近似中央値分割を用いて二分しました。次に、各特徴的選択肢の頻度、平均サイズ、期間を計算しました。次に、単純な負の二項回帰モデルを用いて、22 の各特徴とアウトブレイクの規模および期間との関係を調べました。最後に、各特徴変数と2つの結果それぞれとの関係を調べる多変量切り捨て負の二項回帰モデルを実施しました。
- 現地調査では、環境保健調査員が発生施設を訪問し、アウトブレイクに寄与したと思われる食品安全方針および慣行、労働者の慣行などの施設の特徴について管理者にインタビューを実施しました。
その結果、以下の点が明らかになりました。
- 食品安全認定を受けた厨房管理者が少なくとも1人いるレストランでは、厨房管理者の認定を受けていないレストランよりも)のアウトブレイク規模は有意に小さくなりました(比率=0.57)。ただし、管理者の数が複数いるレストランでは、管理者の数が一人の同業他社と比較してアウトブレイクリスクがむしろ高くなりました。
2.管理者については、食品安全教育が実施されなかった場合と比較して、食品安全トレーニングが教室で実施された場合より低くなりました(比率 = 0.48)
3. 座学セミナーだけでなく、現場での実地訓練を行うことが、さらに効果を高めました。これらを組み合わせると、最も高い効果が得られました。管理職については、食品安全教育が実施されなかった場合と比較して、業務中に実施された場合(比率 = 0.27)、および教室と業務の両方で実施された場合(比率 = 0.34)のアウトブレイク規模は有意に小さくなりました。また、従業員も、アウトブレイクの規模は、食品従業員に座学および実地研修をの両方を行っているレストランでは、研修を行っていないレストラン(比率 = 0.43)、座学研修のみ(比率 = 0.50)、実地研修のみ(比率 = 0.61)よりも有意に小さくなりました。
4. 従業員が手袋を着用して食品に触れる場合、手袋を着用しない場合に比べてノロウイルスのアウトブレイクが少ないことが確認されました。
調査員は、ほとんどのレストラン(85.5%)で食品従業員が手袋を装着している場面を確認したものの、一方で、ほぼ3分の1のレストラン(27.4%)で食品従業員が素手で調理済み食品を扱っている場面も観察しました。
アウトブレイクの規模は、食品を扱う際に食品従業員が手袋を着用しているのを調査員が目撃したレストランの方が、手袋の使用が目撃されなかったレストランよりも有意に小さくなりました(比率=0.56)。
5.清掃のマニュアルを文書化しているレストランは、そうでないレストランに比べてアウトブレイクの規模が有意に小さかった。
ほとんどのレストラン(92.7%以上)では、厨房の床、まな板、調理台について、清掃方針を定めていましたが、このうち、文書による清掃方針を定めていたレストランは半数以下(47.6%未満)でした。
厨房床の清掃方針が口頭または文書で定められていたレストランでは、厨房床の清掃方針が定められていなかったレストランに比べてアウトブレイクが有意に小さかった(比率=それぞれ0.31または0.29)。
6. ノロウイルスに感染した従業員の出勤制限に関する規定や実施状況とノロウイルスのアウトブレイクのリスクには、今回の調査では優位な相関性は見いだせませんでした。
ほとんどのレストラン(93.4%)では、従業員が体調不良の際にマネージャーに伝えることを義務付ける方針がありましたが、約6割(59.3%)のみが文書による方針を持っていました。
CDCによる結論
アウトブレイクが小規模であったレストランは他のレストランと比較して、管理者が食品安全認定を受けている、管理者と従業員が食品安全研修を受けている、食品従業員が手袋を着用している、レストランが清掃方針を持っている、などの特性が抽出されました。
責任者の資格と管理体制の影響
食品事業の責任者が資格を持っていることは、ノロウイルスのリスクを低減します。しかし、複数の責任者がいる場合、情報の混乱が発生しやすく、アウトブレイクのリスクが高まることがあります。この点は、組織内のコミュニケーションと指示の明確化(文書化)が重要であることを示唆しています。
教育訓練の効果
座学だけでなく、実地訓練を併用することで、教育の効果が大きく向上します。これは、異なる種類の訓練を組み合わせることが、知識の定着と実践能力の向上に寄与するからです。
手袋の着用と清掃マニュアル
手袋を着用することは、直接的な接触を避けることでノロウイルスのリスクを減らします。
また、清掃マニュアルを文書化し、従業員に徹底することは、衛生管理の全体的なレベルを向上させ、アウトブレイクの頻度を低減させる効果があります。ノロウイルスは多くの一般的な洗浄剤に耐性があり、数日から数週間環境中に残留する可能性があるため、洗浄と消毒のための特定の手順とその遵守は、さらなる蔓延を抑制するための重要な対策であると考えられます。
従業員の出勤停止に関する規定
ノロウイルスに感染した従業員が出勤を控えることは、さらなる感染拡大を防ぐために重要です。
しかし、実際には経済的な理由(労働者自身の収入や職の喪失など、レストランの人員不足、経済損失)や複雑な条件(労働者は欠勤することを嫌う可能性、労働者からの申告漏れ)で、この規定の適用が困難であることがあります。このような介入が複雑であることを考えれば、今回の調査で、介入とアウトブレイクの特徴との間に優位な関係が見いだせなかった可能性があります。
まとめ
このCDCの研究は、レストランでの従業員教育とその実践がノロウイルスの伝播を減少させ、アウトブレイクを縮小する可能性があることを示しています。特に、座学と実地訓練の組み合わせが、効果を高めることは注目に値します。
現在の日本社会では、少子化の影響で管理環境が脆弱になりがちですが、従業員教育の徹底がノロウイルス食中毒を防ぐ鍵であるといえます。
※本記事内で使用されているイメージ写真は、事例の概要を読者の理解を助けるために使用されており、実際の出来事や関係者とは関係ありません。