欧州における2026年7月1日のリステリア新規則施行(規則(EU) 2024/2895)まで、残りわずかとなりました。昨年1月の本ブログ記事では、欧州委員会(EC)による基準厳格化の輪郭と、日本企業が直面する「立証責任の転換」について警鐘を鳴らしました。

 この施行を目前に控え、実務上の大きな動きがありました。2026年2月26日、欧州リステリア参照研究所(EURL Lm)より、保存性試験の技術的な国際規格(ISO)に完全準拠した技術ガイドラインとなる「チャレンジテストおよび保存性試験に関する技術ガイドライン(第4版・修正1)」が公開されました。本稿では、この技術文書が確定させた「科学的証明」の具体的要件と、輸出実務が直面する過酷な条件について整理します。

改正の概要

EURL Lm TECHNICAL GUIDANCE DOCUMENT on challenge tests and durability studies for assessing shelf-life
of ready-to-eat foods related to Listeria monocytogenes

Version 4 of 1 July 2021 – Amendment 1 of 26 February 2026

 これまでは、工場出荷時点で基準(100 CFU/g)を満たしていればよいという解釈が広まるケースもありましたが、今後は流通過程や最悪のシナリオ(ワーストケース)を考慮し、「消費期限内にリステリア菌が100 CFU/gを超えないこと」を科学的に証明することが必須となります。証明が不十分な場合、実質的にゼロトレランス(25g中不検出)が適用されることになります。

※改正の目的や概要は下記記事をごらんください。

記事:2026年からリステリア規制が厳格化!EUの新基準が日本食品業界に与える影響

 RTE食品の輸出企業のQC担当者は今、具体的に何をすべきなのでしょうか。欧州の最新ガイドライン等から読み解く、実務上必須となる3つのアクションを解説します。

「最悪のシナリオ(ワーストケース)」の特定

 テストのために適当なサンプルを1つ選ぶだけでは不十分です。同じ製品でも、製造日によってpHや水分活性にはロット間・ロット内のばらつきが生じます。 ガイドラインでは、このばらつきを評価するため、少なくとも異なる日に製造された3つのロットから、それぞれ5つのサンプルを抽出してデータを収集することが推奨されています。そのデータに基づき、最もリステリア菌が増殖しやすい「ワーストケース(最悪のシナリオ)」となるロットを特定し、その条件でチャレンジテストなどの追加評価を行う必要があります。

ロット間およびロット内のばらつきからワーストケースとなるロットを特定する図

デフォルト温度「10℃」でのチャレンジテスト

 チャレンジテストを実施する際、製品が消費者の手に渡った後の「合理的に予見可能な条件」をプロファイルに組み込む必要があります。 もし輸出先のコールドチェーン全体を網羅する詳細な温度データ(全体の95%がこの温度以下となる水準を示す95パーセンタイル値等)がない場合、デフォルト値を使用することになりますが、その場合、小売段階で「7℃」、消費者段階の家庭冷蔵庫では「10℃」という温度でのシミュレーションが指定されています。

工場から小売(7℃)と消費者(10℃)までのコールドチェーン温度プロファイル図

この条件下でのテストにおいて、リステリア菌の増殖ポテンシャル(保存期間中に菌がどれだけ増えるかをチャレンジテストで評価し、その増加量)を 0.5log10ユニット以下に抑え込めるかどうかが、その食品が「増殖をサポートしない食品(カテゴリ1.3)」として認められるかどうかの厳格な境界線となります。

菌数の増加量と0.5 log10境界線により増殖する食品としない食品を区別する図

「処方変更」か「賞味期限の短縮」かの決断

 テストの結果、以下の両方に該当する場合、当該食品は実質的にゼロトレランス(25g中不検出)に近い厳格な管理が求められます。

  • 増殖ポテンシャルが 0.5 log10 を超える
  • 消費期限内に100 CFU/gを超えないことを証明できない

これを回避するため、現場は以下のいずれかの対応を検討する必要があります。

  • 製品設計(処方)の見直し: 水分活性やpHを下げる、あるいは有機酸などの保存料を添加するといった「内的要因」を変更し、増殖を抑える処方へと作り変える。
  • 賞味期限の短縮: 予測モデルやテスト結果に基づき、菌が基準値を超える前に消費されるよう、賞味期限自体を短く設定し直す。
増殖ポテンシャルと基準未証明の条件からゼロトレランス管理となり処方変更か賞味期限短縮を選択する判断フロー図

まとめ:求められるのは「科学的根拠に基づく製品の安全性設計」

 これからのEU輸出において、食品事業者は出荷時点のデータだけに頼ることはできません。HACCPに基づく工程管理はもちろんのこと、最悪のシナリオを想定したうえで「消費期限の最後まで安全基準を満たす」という客観的な科学的根拠(エビデンス)を示すことが求められます。2026年7月の施行は目前に迫っています。自社のデータが最新の基準要件に適合しているか、科学的見地に基づく再検証に着手されることをお勧めします。

 本記事をお読みになり、EUにRTE食品を輸出していないから関係ない、と感じた方もいるかもしれません。しかし今回の規制は、単なるEUローカルルールではなく、少子高齢化に伴いリステリア症のリスクが高まっているという科学的背景に基づいて設計されたものです。この構造は、日本においても本質的に同じです。日本の行政研究でも、リステリアについて「RTE食品・冷蔵流通(特に5~10℃)・一定の保存期間」という条件下でリスクが高いと整理されています。(消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドライン見直し検討会」(2024年12月16日)資料(国立医薬品食品衛生研究所 岡田由美子)。現時点で日本に同等の規制はありませんが、「消費期限の最後まで安全であることを科学的に証明する」という考え方は、すでに無視できない段階に来ています。

品質管理担当者がリステリアガイドラインを確認し自社製品への影響を検討している様子