リステリア菌の脅威:カット野菜・果物工場の汚染実態を徹底調査新着!!
前記事では、EUにおける乳製品および食肉製造工場におけるリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の汚染実態を環境モニタリング調査によって明らかにしました。それでは、カット野菜工場における汚染状況はどうでしょうか?実は、L. monocytogenesによる食中毒は最近、肉製品だけでなくカットフルーツ、カット野菜、ミックスサラダ、冷凍野菜などでも多発しています。このような実態を受け、これらの加工工場におけるL. monocytogenesの汚染状況を明らかにする必要があります。本記事では、カット野菜・果物・ミックスサラダ工場における汚染実態を探ります。
冷凍野菜のリステリア汚染リスク:英国で明らかになった実態
冷凍野菜は、消費者が購入後に加熱・調理することを前提に流通しているため、リステリア菌に関する基準はEUでも設定されておらず、Ready to Eat (RTE)食品とはみなされていません。しかし、リスクは消費者の誤解だけに留まりません。加工業者が誤って冷凍野菜を加熱せずに使用してしまうことも、食中毒の原因となります。実際、以前紹介したEUでの冷凍スイートコーンによるリステリア食中毒事件では、消費者が冷凍食品を生で食べたことに加え、加工業者の誤った処理も関与していました。本記事では、英国公衆衛生庁(Public Health England: PHE)の研究グループの調査結果をもとに、冷凍野菜のリステリア汚染実態調査の結果を紹介します。
なぜ腸管出血性大腸菌だけが牛で、他の4つの下痢性大腸菌は人が宿主なのか?
前記事で、腸管出血性大腸菌(EHEC)の自然宿主はウシなどの反芻動物であり、いっぽう残りの4つの下痢性大腸菌(EPEC、ETEC、EAEC、EIEC)はヒトに適応した系統であると説明した。すると読者から、こんな質問が届いた。
「どうしてEHECだけがウシが自然宿主で、他の4つは人間が自然宿主なんですか?」
これはとても興味深い質問である。食品微生物学を学ぶ者にとって、時には微生物を単なる“敵”としてだけでなく、“進化の時間軸”における生態学的な位置づけを考えることも重要だ。ここでは細かい病原メカニズムではなく、生態と進化の時間軸から、この問いを捉え直してみたい。
EAEC(腸管凝集付着性大腸菌)による富山県ホテル食中毒 ― “ヒト”が宿主の大腸菌に注意
2025年10月11日に富山県のホテルで集団食中毒が発生した。原因となったのは、聞き慣れない 腸管凝集付着性大腸菌(EAEC) である。腸管出血性大腸菌(EHEC)はよく知られているが、EAECを知っている人は食品業界でも少ないだろう。特に「この菌はどこから来るのか」「何に気をつければいいのか」という点は、品質管理担当者にとって極めて重要な視点である。本稿では、この菌の特徴と感染源について、実務的な観点から整理する。
大根のイソチオシアネートは殺菌作用があるのに、なぜノロウイルスには効かないのか?
大根には殺菌効果があるとよく言われる。その理由は、大根に含まれる イソチオシアネート という成分の抗菌作用にある。ところが最近、ノロウイルスに汚染された「殺菌効果のあるはずの大根おろし」による食中毒が発生した。「大根には殺菌効果があるはずなのに、なぜウイルスに効かなかったのか?」——本稿では、この疑問に対して ウイルスと細菌の構造的な違い という観点から分かりやすく解説する。
EUの乳製品および食肉製造工場のリステリア菌の環境モニタリングで、3つの汚染シナリオが判明
非加熱喫食食品、すなわち消費者が購入後そのまま食べるready-to-eat(RTE)食品の製造において、加工後の工場環境からのリステリアの二次汚染は致命的です。これらが流通過程で増殖することで、リステリア症に直結する可能性があります。そのため、RTE食品を製造する工場では、HACCPによる製造工程のCCPに加え、食品工場環境からの二次汚染防除のための環境モニタリングが重要な戦略となります。この記事では、EUの複数の国々の中小規模の食品製造工場において、リステリア菌がどの程度、どのような場所で検出されているかを示したレポートを紹介します。
消費期限設定を誤らないために —— 測定結果に潜む『不確かさ』の理解
食品企業にとって、消費期限の延長はSDGsやフードロス削減の観点からも避けて通れない課題である。政府や業界団体からもフードロス削減に向けた具体的な指針が示される中、品質管理担当者は科学的なデータに基づいた厳密な判断を求められている。
しかし、測定結果には必ずばらつきが存在する。基準値をわずかに下回ったからといって、本当に安全と言えるのか。標準偏差、拡張不確かさ、相対標準不確かさ――これらを理解せずに基準値クリアを判断することは、消費期限の設定や延長において重大なリスクにつながりかねない。
本稿では、基準値判定における「測定の不確かさ」をどう捉えるべきかを解説し、平均、標準偏差、拡張不確かさ、相対標準不確かさといった基本概念をシンプルな事例で紹介する。さらに、消費期限設定への応用を視野に、現場で活用できる実践的な視点を提示する。









