食品の安全性を確保する上で重要な加熱殺菌。その基本を理解するために、湿熱滅菌と乾熱滅菌という二つの主要な方法に焦点を当て、なぜこれらの方法が微生物に対して異なる効率を示すのかを探る。本記事では、湿度が殺菌効率に与える影響、そして環境の水分含量が微生物の生存にどう作用するかを解説する。さらに、耐熱性を持つ胞子形成微生物の例を挙げ、これらがなぜ一般的な滅菌方法に抵抗性を持つのかを科学的見地から探求する。微生物学の基本的な原理から、食品殺菌プロセスの理解を深める。
湿熱滅菌と乾熱滅菌でなぜ、こんなに殺菌効率が違うの?
本記事では、食品の加熱殺菌の方法、加熱殺菌と温度及び時間と水分の関係について説明する。
まず、微生物の加熱殺菌を考える場合の基本的な事項について説明する。それは微生物の加熱殺菌効率と水分含量との関係についてである。微生物学の基礎的な実験においては、オートクレーブと乾熱滅菌を習う。オートクレーブは微生物培養培地のような水分を含んだものの滅菌に使う。オートクレーブの条件は120°Cで20分程度である。一方乾熱滅菌は、ガラス器具などの滅菌に用いる。乾熱滅菌の条件は160°Cで1時間程度である。同じ殺菌なのに乾熱滅菌の方が高い温度で長い時間が必要となる。
なぜ乾熱滅菌のほうが、湿熱滅菌より高い温度と長い時間が要なのか?
ではなぜ乾熱滅菌のほうが、高い温度と長い時間が殺菌のために必要なのであろうか?それについては例を交えてで説明したい。例えば60°Cのお湯の入ったお風呂に指をいれたことを想定してみよう。指に強い熱さを感じるだろう。前述したように60°Cはタンパク質を変性させるほど十分に高い温度である。一方サウナを想定してみよう。サウナの空気中の温度は100°Cである。100°Cの空気中の中に入ってもそれほど熱いと感じない。なぜか?その答えは空気中からの熱の伝導率が低いということである。一方、水は伝導率がとても高い。水の熱伝導率は0.582であるが、空気中の熱伝導率は0.0241である。25倍も水の方が熱伝導率が高い。すなわち水の中に指を入れた時には水が指に速く熱を伝達するわけである。一方サウナのような空気の場合はたとえ空気の温度は100°Cであっても熱を伝える速度がとても遅い。従って100°Cの空気中には耐えることができるわけである。
微生物にとっては水分が多く含まれる環境は、指を熱いお風呂に入れた状態と同じになる。素早く微生物に熱が伝わり微生物は殺菌される。一方乾熱滅菌の場合は、サウナに入っている状態と同じと考えればよい。微生物は160°Cという高い温度でも殺菌され難くなる。このような微生物を殺菌する際の殺菌効率と水分含量には密接な関係がある。
耐熱芽胞も極度に脱水状態にあるから耐熱性が高い
ここで耐熱性胞子がなぜこのような高い温度でも殺菌できないのかということについて説明する。詳しいメカニズムは未だ未解明の部分が多い。しかし一つだけはっきりしていることは、耐熱性胞子の中にはほとんど水が含まれていないということである。耐熱性胞子ができる過程で水が細胞の中から絞り出されて、耐熱性胞子の中にはほとんど水分が含まれていない。