シリーズ:薬剤耐性菌問題に食品産業はどのように取り組むべきか?

薬剤耐性菌問題に食品産業はどのように対応すべきか?

 今記事以降、新型コロナウィルスの次に人類を襲うと心配されているパンデミック問題を、シリーズで扱います。それは薬剤耐性菌の問題です。薬剤耐性菌の問題は感染症の問題にとどまらず、外科手術での事前感染予防対策や、免疫がん療法など、幅広く、甚大な影響を及ぼすと想定されています。2050年頃には薬剤耐性菌による死者数は、現在の癌患者数以上になるとの推計もあります。このように、薬剤耐性菌の問題は極めて深刻であり、食品産業界においても取り組まなくてはならない問題です。したがって、この問題をシリーズ化して扱います。

  世界的に抗生物質の使用量は7割が畜産業、残りの3割が病院です。食品産業自体は抗生物質を用いているわけではありません。抗生物質の使用を減らすアクションをしなくてはならないのは畜産業と病院の医師になります。しかし、薬剤耐性菌に汚染された食品の摂取により、薬剤耐性菌が人々に拡散しているとしたらどうでしょう?食品業界もこの問題に無関心ではいられません。

 実際、世界では、鶏肉や食肉を加工する食品産業が原料の抗生物質の使用について無関心ではあってはならないとの考え方が強くなっています。すでに、食品産業界でのアクションも始まっています。例えば、米国では、NRDC (天然資源防衛協議会)が各種関連団体や大学と連携して、米国の最大手のファストフードおよび外食レストランチェーンの薬剤耐性菌問題への取り組みを検証しています。具体的には、原料の食肉への抗生物質の使用削減へ向けて、これらの外食レストランチェーンが川上の生産業者にどのようなアクションをしているかを、毎年検証し、評価しています。この結果は、「Chain Reaction」というレポートにまとめられています。大変興味部会レポートなので下記をご覧ください。

Chain Reaction: How Top Restaurants Rate on Reducing Antibiotic Use in Their Beef Supplies

 本ブログのこのシリーズでは、薬剤耐性菌がヒトの体内に定着すると何が起きるか、食品を介して薬剤耐性菌がヒトの体内に入る可能性、およびその危険性や解決策に関連した論文を紹介します。

抗生物質耐性菌

抗菌薬の効かない尿路感染症の原因菌は食品から来る?

 シリーズのトップバッターの今回は、 一般的な市中感染型尿路感染症の原因となる大腸菌の拡散に、食品、特に鶏肉を介した感染が関与している可能性を示した論文を紹介します。

 まず、薬剤耐性菌と食品業界との関連を考える場合、次の2つの論点に整理できます。

1)サルモネラやリステリア菌のような食品由来の腸管感染菌が薬剤耐性菌になることにより、食中毒の治癒のために抗生物質が効かなくなる場合

2)尿路感染や皮膚や人体組織での日和見感染菌が、食品から体内に入ってきて腸内に定着する可能性を考える場合

  1. は直接的なので分かりやすいですね。
  2. 分かりにくいのは2)の可能性についてです。この問題については不明なところが多いです。しかし、過去10年間に少しずつ研究が蓄積されてきていて、この問題が明らかになりつつあります。今回紹介するのはそのような問題を扱った論文です。                               

 カナダのマギル大学、ビンセント博士らは、尿路感染症の原因となる大腸菌が鶏肉などの食品由来の大腸菌に起因するのではないかという仮説を立てて次のような実験を行いました。

 博士らは、カナダのケベック州モントリオールで、ヒトの臨床検体およびレストランやインスタント食品から大腸菌を分離しました。2005年から2007年までにモントリオールで尿路感染症に罹患した女性からの分離株(n=353)、小売店の食肉(鶏肉、牛肉、豚肉、n=417)、およびレストラン/調理済み食品(n= 74)から採取された大腸菌株の遺伝子型を、博士らは詳細に比較しました。分離された大腸菌から代表的な57株を選び,PFGE,MLST,血清型別,およびDNA型別を行いました。

 その結果、特に市販鶏肉(O25:H4-ST131およびO114:H4-ST117)とハニーデューメロン(O2:H7-ST95)から分離された大腸菌は、ヒトの尿路感染症から分離された大腸菌と区別がつかないか、きわめて近縁であることが判明しました。また、抗生物質耐性の観点では、今回確認されたE. coli O25:H4-ST131は,拡張型β-ラクタマーゼの産生やフルオロキノロン耐性を有し,ヨーロッパやカナダで尿路感染症株として確認されているものでした。

 これらの結果から、博士らは一般的な市中感染型尿路感染症の原因となる大腸菌の拡散に、食品、特に鶏肉を介した感染が関与していると推論しています。

尿路感染症の男女

この論文は2010年に出版され、現在までに221回引用されています (2021年12月Google Scholar調べによる ) 。

Food Reservoir for Escherichia coli Causing Urinary Tract Infections

Emerg Infect Dis. 16(6): 1048–1049(2010).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3086230/

 上記の論文の続編として、博士らは下記論文も2012年に発表し、鶏肉から分離された大腸菌のほうが牛肉と豚肉から分離された大腸菌よりもヒトの尿路感染に関連する可能性が高いことを見出しています。そして、食品のなかでは、鶏肉が尿路感染症の原因大腸菌のリザーバーである可能性が高いと結論しています。

この論文は2012年に出版され、現在までに101回引用されています(2021年12月Google Scholar調べによる)

Chicken as Reservoir for Extraintestinal Pathogenic Escherichia coli in Humans, Canada

Emerging Infectious Diseases • www.cdc.gov/eid • Vol. 18, No. 3, March(2012)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22377351/

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