薬剤耐性菌の世界への広がりに、海外旅行がどのくらい影響しているのでしょうか? オランダのアルシア博士らは、オランダからの海外旅行者が海外渡航中に薬剤耐性菌(ESBL産生菌)をどのぐらい獲得するかについて調べました。その結果、旅行者は世界規模で薬剤耐性菌の出現と拡散の大きな要因と考えられると結論しています。

 調査対象となったのは2001人のオランダ人旅行者と215人の非旅行者です。海外旅行者については、旅行前、帰国直後、1、3、6、12カ月後に、糞便サンプルと人口統計学、疾病、行動に関するアンケートを収集しました。糞便からははESBL-E(extended-spectrum β-lactamase-producing Enterobacteriaceae)注)の検出検査を行いました。

注)ESBL:基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase)の略称。ペニシリンなどのβラクタム環を持つ抗生物質を分解する酵素。ESBL産生遺伝子はRプラスミド上にコードされているため、腸内細菌科の異なる菌種間に伝達される。

結果の概要は次の通りです。

  • 旅行前にESBL-E陰性だった1847人の旅行者のうち、633人(34.3%)が海外旅行中にESBL-Eを獲得していました。             
トイレにいる男性
  • 最も獲得数が多かったのは南アジアへの旅行者でした(181人中136人、75.1%)。特にインドでの獲得が最も多くなりました。
  • 露天商の食べ物を時折食べた人は、屋台を避けていた人に比べてESBL-E獲得のリスクが高く、毎日屋台で食事をしていた旅行者ではさらにリスクが高まりました。   
ストリートフードに興味を示すバックパッカー
  • 多変量ロジスティック回帰でESBL-E獲得と最も強い関連性を示したのは、東南アジアでは、生野菜の摂取と抗生物質の使用
  • 南アジアでは、孤児との接触、ホステルやゲストハウスでの日常的な食事摂取
  • アフリカ東部では、地元の市場への毎日の訪問と農村地域での滞在
  • 帰国後ESBL陽性だった577人のうち、65人(11.3%)は12カ月後もESBLを腸内に保菌していました。
病院から出てきて不安がる男性

 博士らは、旅行中にESBL-Eを高頻度で獲得し、その後も持続的に保菌し、家庭内での感染が認められることから、旅行者は世界規模でESBL-Eの出現と拡散の大きな要因と考えられると結論しています。また、ESBL-E感染のリスクが高い帰国者に対しては、ESBL-Eおよびカルバペネマーゼを産生腸内細菌科細菌(CPE)の積極的なスクリーニングと経験的抗菌薬治療の調整を検討すべきであると述べています。

この論文は2017年に出版され、これまでに219回引用されています(2020年4月Scopus調べ)。

Import and spread of extended-spectrum β-lactamase producing Enterobacteriaceae by international travellers  (COMBAT study): a prospective, multicentre cohort study
Lancet Infect Dis 17: 78–85 (2017)