消費期限と賞味期限、消費者にとって紛らわしい言葉ですね。この事情は英国でも同じようです。消費期限を超えた食品を販売することについて日本より厳格な法的枠組みを持つ英国。その英国における一般消費者と食品事業者がどのような視点を持っているかについて本記事では紹介します。 2023年11月に英国食品基準庁が発表した消費期限切れ食品に関する消費者と事業者の意識調査結果を詳しく解析し、具体的な事例と共に紹介します。
以前の記事で、消費期限切れの食品に関する法的取り扱いについて、日本とEU諸国の違いを探りました。その記事では、日本では消費期限が切れても法的な枠組みが曖昧な状態であること、一方で英国では消費期限を超えると明確に法律違反になることを紹介しました。詳細はこちらです。
英国食品基準庁は、2023年10月に、消費者や食品事業者の消費日期限に対する意識や行動の調査報告を公表しました。以下に概要を示します。
消費者の意識
一般家庭における消費者の意識を調査した結果、約7割が消費期限と賞味期限の区別を十分に理解していないことが明らかになりました。
また、アンケート回答者の多くは、消費期限を過ぎた食品を食べてもそれほど重大なな結果にはならないと信じていました(消費期限設定はリスクを過大評価しており、通常は1日程度の「延長枠」があると理解)。
また、アンケートでは、参加者に消費期限と賞味期限のどちらが安全性を表示しているか尋ねました。参加者は複数のオプションを選ぶことができました。
- 参加者の4分の3(51人)は消費期限切れ食品が食品がもう安全でないことを示しているものであると理解していました。
- しかし、参加者のほぼ半数(32人)は「どちらともいえない」と回答しました(そのうち18人が消費期限も選択)
- 参加者のほぼ5分の1(12人)が賞味期限が、食品が食品がもう安全でないことを示しているものであると誤解していました(うち7人が消費期限も選択)
総合的に解釈すると、消費期限だけを正しく食品がもう安全でないことを示していると識別している参加者は、合計で25人の参加者のみ(50%)でした。
消費期限は食品が安全に食べられる期間を示し、期限を1日でも過ぎると食品の安全性は保証されず、食中毒や命の危険につながる可能性があります。
行動アンケートでは、購入した食品を「必ず」消費期限までに食べると回答したのは70人中6人にとどまり、また、費期限前に食品を「常に」冷凍すると回答した回答者は7人でした。8人の参加者は消費期限を過ぎた食品を「常に」処分すると回答しました。また、49人(70%)の参加者は「ほとんどの場合」消費期限までに食品を食べると回答しました。
しかし、消費期限切れの食品を時々食べることがあると答えた人は、70人中53人(76%)にのぼりました。つまり、「時折消費する」というのが最も一般的な自己報告された行動でした。
消費期限切れの食品を食べる理由としては、
第1に食糧問題やSDGs(持続可能な開発目標)に対する意識の高まりがあります。世界的な飢餓問題に対する認識から、食品の無駄遣いを避ける傾向が見られます。
第2に、特に高齢者層では、消費期限や賞味期限といった概念がなかった時代の経験が根強く残っており、彼らは自分の感覚を信じて食品を判断しています。
その他、経済的理由やラベルの見にくさも、消費期限切れ食品の消費に影響を与えています。
しかし、アンケート結果からは、消費期限が過ぎた場合の食品の安全性に関する意識が低いことも明らかになりました。これは食中毒のリスクや命に関わる危険性を含む重要な問題です。
食品事業者の意識
食品事業者「Food Business Operators(FBOs)」注)についても、消費者と同様のアンケート調査もしくわヒアリングを行ないました。
注)イギリスにおける「Food Business Operators(FBOs)」は、食品事業を運営する個人または組織を指します。これにはレストラン、カフェ、テイクアウェイ、食品製造業者、小売店、食品供給業者などが含まれます。要するに、食品を生産、加工、流通、または販売するすべての事業体がFBOとして分類されます。
食品事業者に関しては、英国では消費期限切れの食品の使用や販売は法令違反注)のために、アンケート調査が行われませんでした。ヒアリング調査のみを行ないました。
注)消費期限切れの食品を販売や食材に使った場合の日本やEU諸国の法的な取扱いについての詳しい解説記事は下記の記事をご覧ください。
また、ヒアリング調査でも、ほとんどの事業者が、賞味期限または消費期限切れの食品を使用しないと回答しました。これは、英国では最高裁の判決により、消費期限切れの製品を使用または販売することが米国同様に違法とされるため、当然の結果と言えるかもしれません。以前の記事でも紹介した通りです。
一方で、食品事業者に消費期限と賞味期限の違いを尋ねたところ、必ずしも明確に理解している事業者は少ないことが明らかになりました。特に、消費期限切れと賞味期限切れの取り扱いの意味についての理解は必ずしも明確ではありませんでした。
調査では「消費期限」と「賞味期限」および「陳列期限」注)の違いについての混乱もありました。
注)陳列期限(「Display until」)日付は、店舗側の在庫管理や陳列に関連する日付であり、消費者向けの安全性情報ではありません。つまり、この日付は店舗が商品を陳列する最終日を指し、消費者が商品を安全に消費できるかどうかとは直接関係がありません。
調査結果は、25の事業者が「消費期限」を正しい答えとして選んだことを示していますが、これらの回答者のうち13は、提供されたリストから別のオプション(賞味期限や陳列期限)も誤って選択しました。消費期限のみが食品安全に関連していることを正しく特定した事業者は12社のみでした。
このように消費期限と賞味期限の理解不足があるにもかかわらず、食品事業者が消費期限切れの食品を使用しない主な理由は、主に別の事情によることが明らかとなりました。それはすなわち、レストランなどでの保管スペースの限られた冷蔵庫やコスト面の問題から、原材料を頻繁に仕入れて短期間保存し、すぐに使用する高い回転率にありました。
稀なケースではありますが、シェフの判断で消費期限切れの食材を使用する場合もあるとの回答もありました。レストランなどのキッチン文化では、シェフの権威が絶対であり、若手従業員やアルバイトなどの間では、シェフの判断が尊重される傾向にありました。この場合、経営者よりもシェフの判断が優先されていました。そして、シェフは長年の経験に基づいて見た目や色で食材を判断し、消費期限切れであっても使用可能と判断した場合にはそれを使うこともありました。もちろん、食材の無駄遣いを避けることやコスト削減という背景も、このような行動の理由の一つとして挙げられました
まとめ
以上の調査結果から、英国の一般消費者および食品事業者は、消費期限切れの食品のリスクに対する意識が十分でないことが明らかになりました。賞味期限と消費期限の区別が不明確であることから、期限切れの際には色や匂いなどの経験的な判断、コストの問題、またはSDGsのような食料廃棄ロスへの対応など、さまざまな要因により食品を使用する可能性があることがわかりました。
英国食品基準庁は、このアンケート調査の結果を受け、消費期限の安全性に関する情報を国民にさらに徹底して発信する予定です。英国食品基準庁の消費者向けアドバイスでは、消費期限を過ぎた食品を食べることが消費者にとって食中毒の重大なリスクをもたらすことを強調しています。
なお、英国食品基準庁が国民および食品事業者に提供する消費期限に関する指針の一部を下記抜粋します。
- 消費期限を過ぎた食品は、見た目や匂いが良くても決して食べないこと。
- 商品に表示されている消費期限の当日の深夜までは食品を安全に食べることができますが、それ以降は調理または冷凍されていない限り食べられません。
この指針では、賞味期限は食品の品質に関するものであり、消費期限は食品の安全性に関するものであることを特に注意喚起しています。
- 消費期限のある食品は冷却すること。
- 消費期限を過ぎた食品の提供は不可。