腸内細菌が食物繊維からつくる短鎖脂肪酸の酪酸が腸の炎症を抑制する

 潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の原因は様々ですが、ポイントは、腸管上皮細胞のバリア性を健康に保つかことです。ではどのような食事をすれば、腸管上皮細胞のバリアを健全に保つことができるのでしょうか?今回紹介するのはそのヒントとなる論文です。 腸内細菌が食物繊維からつくる短鎖脂肪酸の酪酸が炎症性腸疾患の発症を防ぐ役割があることを⽰す2つの論文を紹介します。

 私たちの腸には炎症を促進する機構と、炎症を抑制する機構の情報が存在しています。この2つの機構は腸管免疫の恒常性というバランスののもとで制御されています。このバランスは、私たちが食べる食物やそこに作用する腸内の微生物の作用によって影響を受けます。このうち炎症を抑制する際に働く免疫細胞であるT細胞(制御系T細胞=T reg 細胞)は、腸内での炎症応答の抑制する重要な役割を担っています。

 これまでにも腸内細菌の特定の細菌が、抗炎症性T reg 細胞の数を増やすことは分かっていました。しかし、腸内細菌のどのような代謝産物がどのようなメカニズムで抗炎症性T細胞を増やすのかについては不明でした。

2013年に発表された2つの重要な論文を紹介します。

大腸の炎症と食物繊維

 米国ハワード・ヒューズ医学研究所のアーペ博士らは、腸内細菌のでんぷんの発酵過程において産生される酪酸が抗炎症性T細胞を増やすことを明らかとしました。この研究成果は、これまで不明であった腸内細菌の炎症抑制効果のメカニズムおいて、実際に腸内細菌の代謝産物が免疫系の細胞の増加に影響を与えることを示した例として貴重な研究成果です(論文1)。

 一方日本の理化学研究所の古澤博士らは、マウスに⾷物繊維が多い⾷事(⾼繊維⾷)を与えると、制御性T細胞への分化誘導が起こることを発⾒しました。⾼繊維⾷を与えたマウスでは低繊維⾷を与えたマウスに⽐べて腸内細菌の活動が⾼まっており、代謝産物のひとつである酪酸の⽣産量が多くなっていました。さらに、この酪酸が制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3遺伝⼦の発現を⾼めていることも明らかになりました。実際に⼤腸炎を起こす処置をしたマウスに酪酸を与えたところ、制御性T細胞が増え、⼤腸炎が抑制されました(論文2)。

 以上二つの研究は、⾷物繊維の多い⾷事を摂ることで腸内細菌の活動が⾼まり、その結果多量の酪酸が作られ、この酪酸が炎症抑制作⽤のある制御性T細胞を増やしていることを示している点で共通しています。今回の発⾒は、腸内細菌が作る酪酸には 潰瘍性大腸炎などの 炎症性腸疾患の発症を防ぐ役割があることを⽰しています。

ところでこの2つの論文を読んで思い出したことがあります。

 理化学研究所の腸内細菌の研究に携わってこられた 辨野義己博士による【大便通(知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌)】(幻冬舎新書、2012年刊)という本に、 乳酸菌のシロタ株を飲んだ患者のグループでは 腸内の乳酸菌の数が飲まないグループの100倍以上に増えているにもかかわらず、意外にも大腸の中には乳酸ではなくて酪酸が増えていたということです。博士の推論では乳酸菌が乳酸を増やし、その乳酸から酪酸産生菌が酪酸を産生しているということのようです。

 これらの研究成果を総合して考えてみると、植物繊維や乳酸菌が作る乳酸などから酪酸産生菌による酪酸の生産が私たちの腸の炎症を防ぐことに役に立っているということです。つまり前記事で紹介したバリア性を失った腸管上皮の状態を予防できることになります。食物繊維や乳酸菌が体にいいということはよく言われることですので、結論にはそれほど驚きはないのですが、そのメカニズムがサイエンスとして解明されてとても興味深いところです。

論文1→Metabolites produced by commensal bacteria promote peripheral regulatory T-cell generation.
Nature, vol. 504, no. 7480, pp. 451–455, 2013.
この論文は2013年に出版され、これまでに1995回引用されています(2021年10月Scopus調査)。

論文2→Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells
Nature, vol. 504, no. 7480, pp. 446–450, 2013.
この論文は2013年に出版され、 これまでに2345回引用されています(2021年10月Scopus調査)。 

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。