周辺環境の生物多様性とアトピー性皮膚炎

 アトピー性皮膚炎は、乾燥してバリア機能の低下した皮膚にダニ、ほこりなどの様々なアレルゲンが侵入して起きると考えられています。しかし、詳しい原因はわかっていません。アトピー性皮膚炎の原因の一つとして、私たちの身の回りの生物の多様性の減少に結びつける考え方があります。人々が自然環境や生物多様性と接触する機会が減ることで、人間の常在微生物叢とその免疫調整能力に悪影響を及ぼす可能性があります。本記事では、健常者と比較して、アトピー患者は、自宅周辺の環境の生物多様性が低く、皮膚上の細菌叢の多様性も有意に低いことを示す論文を紹介します。

 本ブログで紹介する下記論文は2012年に出版され、現在までに644回引用されています(2022年9月スコーパス調べ)。
Hanski I, et al.,
Proc Natl Acad Sci U S A 109:8334-8339 (2012).
Environmental biodiversity, human microbiota, and allergy are interrelated.

 今回紹介するのはヘルシンキ大学のハンスキー博士らの研究です。博士らは、100×150km四方の任意の地域に住む青少年の無作為抽出サンプルにおけるアトピー性感作(アレルギー体質)を分析しました。そして、被験者の自宅周辺の環境の生物多様性が、被験者の皮膚上の細菌群の構成に影響を与えていることを示しました。健常者と比較して、アトピー患者は自宅周辺の環境の生物多様性が低く、皮膚上の細菌叢の多様性も有意に低いことが分かりました。

アトピー性皮膚変に苦しむ女性

住環境の生物多様性とアトピー性皮膚炎の関係

 博士らは、まず、被験者の住環境の生物多様性とアトピー性皮膚炎の関係について検証しました。

その結果、概要は次のとおりです。

  • アトピー性皮膚炎は、対象者の自宅周辺の環境の多様性によって有意に説明されました。
  • アトピー性皮膚炎は、自宅から3km以内の森林や農地の量が多ければ、減少していることがわかりました。
  • 庭の植物種の豊富さは、アトピー性皮膚炎と有意に負の相関を示しました。
  • 健常者の庭では、アトピー性皮膚炎患者の庭に比べて、珍しい自生の花壇植物の種の数が約25%多いことがわかりました。
都会の無機的な生活環境とアトピーとの関係

皮膚の細菌の多様性とアトピー性皮膚炎の関係

 つぎに、皮膚の細菌の多様性アトピー性皮膚炎との関連について、調べました。

その結果の概要は次のとおりです。

  • アトピー性皮膚炎患者は、健常者と比較して、皮膚上のガンマープロテオバクテリアの一般的な多様性が非常に有意(P = 0.0003)に低いことがわかりました。
  • 特定の共通吸入アレルゲン(ネコ、イヌ、ウマ、シラカバ、チモシーグラス、ヨモギ)に対するIgE検査は、すべてガンマープロテオバクテリアの一般的な多様性と負の相関を示しました。これらの結果は、ガンマープロテオバクテリアの一般的な多様性とアトピーとの間に強い負の相関があり、それは特定のアレルゲンにのみ起因するものではないことを意味しています。
アトピー性皮膚炎患者と健常者の皮膚表面の細菌叢の比較

 博士らの研究結果は、生物多様性が、現代の一般的な免疫機能障害であるアトピーと驚くほど強く関連していることを示しています。また、この関連性は、皮膚表面の微生物群集レベルでは、細菌種類の多様性という形で、観察されました。

博士らは、自然環境との相互作用は、都市部における人間の一般的な健康状態を向上させるだけでなく、常在微生物叢を豊かにし、免疫系との相互作用を強化して、公衆衛生に広範囲な影響を与える可能性があると結論しています。

原始的な生活は微生物が多様なのでアトピーと無縁

 なお、 博士らは、この論文を出版する前にも関連論文を出版し、「生物多様性仮説」を提唱しています。生物多様性仮説とは、次のような仮説です。

  • 自然環境や環境微生物を含む生物多様性との接触が減ると、免疫調節回路が十分に刺激されなくなる

Leena von Hertzen et al.
Natural immunity. Biodiversity loss and inflammatory diseases are two global megatrends that might be related
EMBO Rep. 2011 Oct 28;12(11):1089-93. doi: 10.1038/embor.2011.195.

 生物多様性の損失がアレルギー症状や公衆衛生全般に及ぼす影響は興味深いテーマです。今後もこの分野についての論文は、数多く出版されることと思います。

なお、皮膚表面の黄色ブドウ球菌の存在および炎症現象とその他の常在菌との関係については、別記事でもまとめていますのでご覧ください。
消毒のしすぎ、手荒れに注意ー表皮ブドウ球菌の役割

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が2021年8月1日号に執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年経過したので、公開しています。ただし、ブログ向けに、また、最新状況を反映して、大幅に、加筆・修正しています。