消毒のしすぎ、手荒れに注意ー表皮ブドウ球菌の役割

  黄色ブドウ球菌は皮膚表面で炎症を起こす悪玉菌です。皮膚表面に付着している黄色ブドウ球菌を減らすにはどうしたらよいでしょうか?皮膚表面の常在菌は、この悪玉菌を排除する力を持っているのでしょうか?実は、このことについて、これまで科学的に明確なエビデンスは存在していませんでした。 2017年にカリフォルニア大学サンディエゴ校の中辻博士らによって行われた研究が、このことを科学的に立証しました。表面の常在菌である表皮ブドウ球菌が黄色ブドウ球菌を攻撃排除していることが明らかになりました。

 一口にブドウ球菌といっても、私たちの皮膚の表面には、食中毒や日和見感染を起こす悪玉菌である黄色ブドウ球菌とその他のブドウ球菌が存在します。食中毒の原因になったり、皮膚に日和見感染を起こす悪玉菌である黄色ブドウ球菌は、Staphylococcus属の一つで、菌種名はStaphylococcus aureusです。一方、私たちの皮膚の表面には黄色ブドウ球菌以外、数十種類のブドウ球菌が生息しています。これら黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌を総称で表皮ブドウ球菌と呼びます。表皮ブドウ球菌という名称はひとつの菌種を表すものではありません。 S. epidermidis, S. hominis, S. warneri, S. pasteuri, S. saprophyticus, S. xylosus, など多数の菌を含む総称です。

 黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌を区別する方法としてコアグラーゼ試験があります。黄色ブドウ球菌は、コアグラーゼ試験陽性です。その他の表皮ブドウ球菌はすべてコアグラーゼ試験が陰性です。

黄色ブドウ球菌の基礎事項を確認したい方は、下記の記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ⑦黄色ブドウ球菌

表皮ブドウ球菌が悪玉菌の黄色ブドウ球菌を攻撃排除している

   中辻博士らの研究は次の通りです。博士らは、アトピー性皮膚炎患者によく見られる微生物であり、この疾患を悪化させる重要な因子である黄色ブドウ球菌に対して、ヒトの皮膚上に通常存在する常在菌がどのような戦いをしているのかについて調べました。

 健常者とアトピー性皮膚炎患者の皮膚から採取したコアグラーゼ陰性ブドウ球菌 (皮膚の常在菌)の分離株を対象に、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性の網羅的スクリーニングを行いました。

皮膚の表面で黄色ブドウ球菌を攻撃する常在菌

 その結果、次のことが明らかとなりました。

  • 黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を有するコアグラーゼ陰性黄色ブドウ球菌は健常者に多かった。一方、アトピー性皮膚炎患者ではまれでした。
  • 抗菌活性の原因を調べた結果、Staphylococcus epidermidisおよびStaphylococcus hominisを含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌がこれまでに知られていなかった抗菌ペプチド(AMP)を産生していた。
  • これらの抗菌ペプチドは、菌株特異的で非常に強力で、黄色ブドウ球菌を選択的に死滅させました。
  • また、抗菌性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌株のアトピー性皮膚炎患者への再接種は、患者皮膚表面における黄色ブドウ球菌の割合を減少させました。

  このように、博士らの研究は、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌が私たちの皮膚での黄色ブドウ球菌の攻撃を防いでいることを示しました。

消毒のしすぎ、手荒れに注意

 博士らの示した結果ば、皮膚の常在菌のバランスの異常がアトピー性皮膚炎などの病気につながる可能性も示しています。

 常在菌も一緒に殺菌してしまうことにより、かえって外来病原菌に感染しやすくなる現象をスーパーインフェクションと呼びます。

 現在コロナ対応で頻繁に手洗いやアルコール消毒を頻繁に行っていますが、常在菌の役割も考慮にいれて、手をいたわることも必要です。

なお、手洗いと常在菌との関係については別記事でまとめていますのでご覧ください。
日常の手洗い方法では汚れ(通過菌)を落とせても、常在菌は落とせないー手洗いの目的、意味と効果

消毒のしすぎ、手荒れに注意

この論文は2017年に出版され、これまでに497回引用されています(2022年8月スコーパス調べ)。

Nakatsuji T. et al., Sci. Transl. Med. 9, eaah4680 22  (2017)
Antimicrobials from human skin commensal bacteria protect against Staphylococcus aureus and are deficient in atopic dermatitis

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が2021年6月1日号に執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年経過したので、公開しています。ただし、最新状況を反映して、加筆・修正しています。 。