手洗いの効果について

手洗いですべての微生物を除去できるわけではない

 

 手洗いの微生物学的側面について述べておく。

 手を洗えば、手のひらの上の微生物を洗い落とせると誤解している人がいる。しかしその考えは誤りである。

 手のひらには2つの種類の細菌が付着している。一つは通過細菌と呼ばれるものである。通過細菌は街を歩いている間に手のひらに外部から付着する細菌である。それらには病原菌が含まれている可能性もある。このような通過菌は、注意深く手を洗うことによって洗い落とすことができる。しかし手のひらにはもうひとつの細菌グループが住んでいる。それは常在細菌と呼ばれている細菌群である。これらの細菌は人の手のひらにもともと住んでいる。例えば多く種類のブドウ球菌のグループなどである。そしてそのブドウ球菌の中には食中毒菌である黄色ブドウ球菌も含まれる。これらの微生物は手のひらから分泌される汗や脂質などを栄養として利用して手のひらの上に生息している。これらの細菌は手の表面だけはなく、毛根など、皮膚のやや深いところにまでをも住処としている。従って手を洗う程度では、簡単に洗い落とすことはできない。


 私は大学で、学生たちに手を洗う実験を毎年行っている。そして手を洗う前と洗った後の微生物数を平板培養法で測定している。私が10年間このような実験を続けた結果、洗浄後の方が細菌数が高くなる人がむしろ多い。これは何を意味しているのであろうか。学生達が手を洗うことによって、通過細菌のほとんどは落とされる。しかし手のひらに住んでいる常在菌は、石鹸で洗うだけでは簡単には除去でできない。従って手を洗うことによって通過細菌は除去できるが、常在菌がむしろは手のひらの上に現れてくると考えたらよいであろう。

  つまりここで理解すべきは、手を洗うことによって手のひらが無菌になるという考えを捨てる必要があるということである。手を洗うことによって街の中でつけてきた有害菌は除去できる。しかし、手のひらにもともと住んでいる黄色ブドウ球菌のような常在菌を落とすことはできない。だからたとえ手を洗ったとしても、食品製造や販売に従事する者は素手で食品を触ってはならない。素手で食品を触ることによって手のひらから黄色ブドウ球菌などの常在菌が食品に移行する可能性があるからである。