食品工場での安全な製品製造において、殺菌と洗浄のどちらがより重要であるか。本記事では、食品工場における殺菌と洗浄の基本戦略を分かりやすく説明する。例えば、食品残渣が付着した長靴を殺菌剤で処理するシナリオを考える。この場合、単に殺菌するだけでは不十分であり、洗浄の重要性を理解することが必須である。微生物は迅速に分裂し増殖するため、残留有機物が存在する限り、殺菌の効果は一時的である。微生物管理においては、殺菌剤の種類を知ることも大切だが、より根本的な洗浄の理解が重要である。

殺菌と洗浄どちらが重要か?

 工場における殺菌と洗浄に関する基本的な戦略を理解するために、ひとつの事例を示す。今、工場に働く山田氏が工場の出入り口にある殺菌剤の入っている大きなトレーの中に長靴を入れて殺菌しようとしている状況を想定してみる。 この際、長靴の底にはたくさんの食品の残渣が付いているとしよう。このように食品の残渣がついた状態で殺菌することは効果がない。 このことは微生物の殺菌を考える上で重要な点である。

 長靴の底にたくさんの有機物が残っている状態で長靴の底を殺菌した場合、仮に99%の殺菌を行えたとする。地球に隕石が衝突し、地球の人口の99%が死滅するとするならば、人類にとってこれは大惨事である。しかし微生物は人間と違って分裂で増殖し指数関数的に増える。最適な条件であれば一回の分裂は30分程度になる可能性がある。一回の分裂で2細胞になり、2回の分裂で4細胞になり、 3回の分裂で8細胞になる。つまりたった7回の分裂で1細胞が128細胞に増える。99パーセントの微生物が死滅したとしてもたったの7回の分裂でもとの数の100倍以上の数に戻ってしまう。そして一回の分裂が30分かかるとすると、100倍以上の数まで回復する時間は210分、すなわちわずか3時間という計算になる。つまり仮に殺菌によって長靴の底の微生物を99%殺したとしても、もしその長靴の底に栄養が残っており、温度条件が整えば短時間で微生物の数は元に戻ってしまうということである。


 つまり微生物の場合には殺菌という手段を過度に信用してはいけないということである。もちろん、微生物を完全に滅菌する場合は別であるが、一般的に工場のラインや長靴などを殺菌する場合はこのように生残菌が残る。したがって、有機物が残存していた場合にはすぐに元に戻ってしまう可能性を考慮にしておく必要がある。


  一方洗浄をした場合はどうであろうか。これも話を理解しやすくするために極端な例での説明になるが、仮に微生物がたくさん生き残っていたとしても、洗浄により、微生物の増殖に必要な栄養がすべて洗い流されてしまった場合は、微生物は活発に増殖できない。場合によっては、微生物は栄養不足により死滅する可能性もある。
 以上のように、食品工場での殺菌と洗浄を比較するなら、洗浄を優先するという考え方が重要である。微生物の増殖に必要な有機物をきれいに洗い流すことさえすれば、微生物の増殖は防げる。もちろん、理想的には洗浄を行った後に殺菌を行うのがよい。しかし、まずは、この考え方をしっかりと理解しておく必要がある。


 つまり微生物の場合には殺菌という手段を過度に信用してはいけないということである。もちろん、微生物を完全に滅菌する場合は別であるが、一般的に工場のラインや長靴などを殺菌する場合はこのように生残菌が残る。したがって、有機物が残存していた場合にはすぐに元に戻ってしまう可能性を考慮にしておく必要がある。

 

 色々な種類の殺菌剤の知識を知ることで 食品工場の微生物管理ができると考える人もいるかもしれない。しかし実際の食品現場においてはたくさんの殺菌剤の知識だけが頭に詰まっているよりも、微生物管理における工場の洗浄の理解を基本からしっかりしている方が役に立つ。どのような箇所を、どのような優先順位で、なぜ洗浄しなくてはならないのかという、食品微生物の基礎力の実力があれば、極論すれば水洗いと石鹸水による洗浄だけでも微生物管理はできるとも言える。