人の精神や脳の働きにも腸内フローラが影響する(発達障害・自閉症の場合)

 脳腸相関という言葉が最近注目されています。今回はヒトの精神におよぼす腸内細菌叢の影響についての論文を紹介します。自閉症患者の間では腸内環境における腸管上皮細胞のバリア機能が弱いということは知られていました。しかしこれが自閉症とどのように関係しているのかについては分かっていませんでした。 カリフォルニア工科大学のシアオ博士たちは、このメカニズムを、腸内細菌との関係で解明しました。

マウスの腸管上皮細胞

実験には⺟体の免疫系活性化による⾃閉症モデルマウスを用いました。博士たちはつぎのことを実験で明らかにしました。

1)自閉症モデルマウスでは腸管上皮細胞のバリア機能が低下している。そのため、腸内の物質が血中に漏れ込みやすくなっている(上⽪バリア機能が低下した状態をLeaky gutと呼ばれています)。

2)自閉症モデルマウスとそうでない普通の健康マウスとの間での腸内細菌叢に違いが認められる。

3)自閉症マウスに Bacteroides fragilis (バクテロイデス フラジリス)という腸内常在菌の1種を投与すると、腸管上皮細胞のバリア機能は正常レベルまで回復する。また腸内細菌叢も正常細菌叢に近づく。

4)バリア機能を回復した自閉症マウスの自閉症の症状は正常レベルまでに回復する。

*バクテロイデス フラジリスは、0.8~1.3×1.6~8.0マイクロメートルの大きさの偏性嫌気性グラム陰性桿菌

 以上の実験から、博士たちは自閉症の症状は腸管上皮細胞のバリア性の以上と腸内細菌叢との関係について証明しました。

 さらに博士らは、ではどのようなメカニズムで腸内細菌が自閉症を引き起こしているのだろうかということに注目して実験を行いました。

その結果博士たちは、さらに、つぎのことを実験で明らかにしました。

1)腸内細菌が代謝産物として作る物質の一つである 4-EPSという腎毒素4MPSに近い構造を取る化合物がMIAの⾎中で顕著に増加している。

2)この物質は自閉症マウスに 腸内細菌であるBacteroides fragilisを摂取することによって抑制される。

以上の結果から博士たちは、つぎのように結論しました。

1)       腸内細菌や腸管バリアが異常になることによって、腸内細菌が分泌する代謝産物である4-EPSなどの物質が血中に流れ込む。

2)       その結果自閉症症状が引き起こされる。

 この実験はあくまでもマウス実験を用いた一つのモデル実験です。自閉症のすべてが腸内細菌によって引き起こされているというわけではありません。しかし自閉症の症状の一つに腸内細菌のメカニズムが関わってるとことを科学的に初めて証明した研究として注目されています。

論文1→Microbiota Modulate Behavioral and Physiological Abnormalities Associated with Neurodevelopmental Disorders.
Cell. 2013 Dec 19;155(7):1451-63.

この論文は、2013年に出版され、これまでに1689回引用されています(2021年10月Scopus調査)。 

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。