彼女と同じ学生寮で同じ食べ物を食べているのに、どうして私は痩せないの?食事が同じでも痩せる人もいれば、太る人がいるのは何故でしょう?今回は、腸内細菌と肥満との間に関係を先駆的に証明した米国ワシントン大学のターンバーグ博士らの論文を紹介します。痩せたいのに食べてしまう、そんなあなたの悩みも、腸内環境における腸内フローラの改善の研究が進めば解消される日が来るかも。
10年ほど前に次世代シークエンサーが登場し、微生物学分野でもメタゲノム解析が活発に行われるようになりました。このような新しいツールを使って、人の腸内の中の微生物の役割についての研究は格段と進歩しました。現在でも人の腸の中の微生物の役割については毎月たくさんの論文が出版されています。さて今回ここで紹介する論文は、このような論文の先駆けとなった一つの論文です。
植物細胞壁の主成分であるセルロースなどの繊維を分解する酵素を哺乳類は持っていません。従って従来から腸内細菌がこれらの役割を果たしている可能性については推測されていました。ターンバーグ博士らは、この役割を果たす腸内細菌のエネルギーの腸内への供給量の割合がヒトの肥満に関係してくるのではないかと考えました。
実験をしてみますと、肥満マウスでの便中では、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸の濃度が高いことが明らかとなりました。つまり肥満マウスでは、肥満してないマウスに比べると腸内細菌の影響によってセルロースなどの繊維が分解されやすく、その結果、多くのエネルギーを吸収してしまうということです。一方、肥満してないマウスは植物性繊維を分解する機能があまり高くないので、便中にこれらがエネルギーとして排出されていることが示されました。
さらに博士らは、無菌マウスに、肥満マウスからの微生物叢と通常のマウスからの微生物叢をそれぞれ移植して観察してみました。その結果、肥満マウスからの微生物叢を移植されたマウスは便中でのエネルギーの糖質が低く、肥満してしまうことが明らかになりました。
博士らの論文は、同じものを食べていても、おなかの中に住んでいる微生物が違うことによって、ある人は太り、ある人はスリムのままの体型を保てることになる可能性を示しています。もちろんこれはあくまでもマウスでの実験での話です。しかし、腸内の微生物のエネルギー効率が私たちの肥満に関わっているということを明確に実験で示した論文として、ターンバーグ博士らの論文は2006年の発表以来、これまでになんと6939回(!)引用されています(2021年10月Scopus調査)。
論文→An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest.
Nature 444:1027-31(2006)
※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。