ノロウイルスの感染時期が冬の季節に多いのは牡蠣を食べるからではない

 細菌性食中毒は初夏から秋にかけての季節で発生件数がピークとなります。これは気温が高くなることによって食中毒細菌が食品中で増殖しやすくなるからです。ところがノロウイルス感染症の場合は冬に流行します。なぜでしょうか?冬に牡蠣を食べるから?低温で感染力が高まる?科学的データが不足しており、不明でした。 今回紹介する論文は、ひとつの回答を提示した論文です。

※ノロウィルスの基礎事項を確認したい方は、下記記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ⑩ノロウィルス

冬に多いノロウィルス食中毒

 かつてノロウイルスの食中毒の主な原因が生牡蠣であると考えられていた時期では、冬の季節に多いのは牡蠣を食べるのが冬だからだと考える人もいました。しかしノロウイルス中毒は牡蠣だけで食中毒起きるわけではなく、ノロウィルスに感染した人々が原因となって、さまざまな食品にノロウイルスは汚染されます。また、ノロウイルスの食中毒は冬に多いパターンは日本に限ったことではなく世界中の国々で同じ傾向です。ノロウイルスにとっては恒温動物である人が唯一の増殖場所なので、ノロウイルス食中毒と季節性についてはいったいどのような関係があるのかな不思議なところです。

 今回ここで紹介する論文は、この問題に対するひとつの回答を提示した論文です。

 ブルゴーニュ大学(フランス)のNoue博士らはノロウイルス食中毒はなぜ冬に多いのかという疑問に対して、環境の絶対湿度に注目しました。

 ヒトノロウィルスは培養できないため、Noue博士らは実験には培養可能なマウスノロウイルス(MNV)を使用しました。まず、9℃と25℃において、低湿度(10%RH)から飽和(100%RH)までさまざまなレベルの相対湿度(RH)にさらされたときのそのノロウィルスの生残について検討しました。また博士らは、主要なGII-4ノロウイルス由来のウイルス様粒子(VLP)と同様の実験を行いました。VLPについては、キャプシドタンパク質のの変化を反映し得るA、B、およびO群の抗原糖質の鎖に対する結合パターンの変化について検討をしました。その結果、湿度に対するノロウィルスおよびVLPの応答は類似しており、10および100%RHは両方のモデルでノロウィルスの感染性およびVLP結合能力に強力な保存効果を示しましたが、50%RHはノロウィルスの感染性およびVLP結合能力は低下することがわかりました。

 つまりノロウイルスにとっては 湿度が高いと生存力や感染力が低下しますが、湿度が下がると生存力や感染力がアップするということです。もちろん、湿度が極端に高くてもノロウイルスの生存力と感染力が上昇します。

 また、博士の実験結果は、相対湿度(RH)よりむしろ絶対湿度(AH)がノロウィルス感染力と密接にかかわる要因であることを示しました。具体的には絶対湿度0.007kg水/ kg空気以下のノロウィルスの生存に好都合であることがわかりました。さらに過去14年間のパリ(フランス)の気象データの遡及的な調査によれば、絶対湿度(AH)の平均値は、冬の間ほとんど常に0.007kg水/ kg空気(0.0046~0.0014kg水/ kg空気)未満であることも明らかとなりました。

 以上の研究結果から博士たちは、ノロウイルス食中毒はなぜ冬に多いのかという疑問に対して、冬に低くなる絶対湿度が主因であると結論しました。

乾燥とノロウィルス

 なんだ結局のところノロウイルスもインフルエンザウィルスと一緒で、湿度が高いと弱いのかという声も聞こえてきそうですね。

 しかし、ノロウィルスはインフルエンザウィルスのようなエンベロープ型のウイルス注)ではありません。ノロウィルスでは核酸の外側にはキャプシドタンパクだけが存在しています。したがって、湿度に対してもこれまでの考え方としては、ノロウィルスはインフルエンザウィルスのようには敏感ではないと考えられいたのも事実です。Noue博士らの仕事は、ノロウイルスでもインフルエンザウイルスのように冬場の乾燥状態での生残性や感染力が高まることをデータで示したことになります。

注)エンベロップ型のウイルスはキャプシドタンパクの外側に宿主由来のリン脂質二重膜の細胞膜をまとっているために様々な物理化学的ストレスに弱い。これを説明した下記記事もご覧ください。
エタノール殺菌とその殺菌メカニズム

 

この論文は2014年に発表されてこれまでに36回引用されています(2021年10月Scopus調査)。

Absolute Humidity Influences the Seasonal Persistence and Infectivity of Human Norovirus
Appl. Environ. Microbiol. 7196–7205(2014)

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。