今回は、このコーナーでは例外的に、最新論文を紹介します。コロナウイルスの論文です。オンライン公開されたのは今年(2020年)の7月23日です。なぜこの論文を紹介したくなったかと言うと、人間の咳から飛沫として飛び出したコロナウイルスが室内と真夏の太陽光の下ではどのぐらい死滅時間が違うのかということに興味があったからです。太陽光の紫外線によってウイルスが死滅することは知られている事実です。しかし、コロナウイルスについて具体的にどのぐらいの太陽光によってどのぐらいの割合で死滅していくかについての定量的なデータはこれまでありませんでした。米国国立バイオディフェンス研究所(米国国土安全保障省科学技術局)のマイケル・シュイト博士らの研究です。

日光で死滅するコロナウィルス


 
エアロゾル中のコロナウイルスは、コロナウイルスの潜在的な感染経路であると考えられています。シュイト博士らの研究では、エアロゾル中の コロナウイルス(COVID-19)の安定性に及ぼす模擬的な太陽光、相対湿度、および懸濁状態の影響を調べました。
 
模擬日射量とコロナウイルスの生存の関係を調べてみると、次のようなことがわかりました(実験条件は20℃)。
1) 真夏のの代表的な日照量を模擬した条件下ででは、模擬唾液中ノロウィルスの90%が消失する時間は8分でした。
2)晩冬/初秋の代表的な日照量を模擬した条件下での模擬唾液中ノロウィルスは90%が消失する時間は19分でした。
3)室内条件を想定した太陽光が照射されない条件下(暗闇)では、模擬唾液中ノロウィルスは90%が消失する時間は286分でした。。
この研究は、自然の太陽光と同等の紫外線レベルの模擬太陽光でも空気中のコロナウイルスを不活化できることを初めて実証したものです。この結果から、特に野外におけるコロナウィルスのエアロゾルによる伝播の可能性は、太陽光の強さに大きく依存している可能性があることが示唆されました。

Airborne SARS-CoV-2 Is Rapidly Inactivated by Simulated Sunlight
J Infect Dis. 2020 Jul 23;222(4):564-571
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32525979/

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。