リステリア菌のリステリオリシンO(LLO)も元々は動物腸内や土壌での原生動物からの捕食への対抗手段?

 リステリア菌はヒトに感染すると、腸管上皮細胞に侵入し、免疫機構としてのマクロファージなどのからの捕食でも細胞内寄生により回避するという巧妙な感染メカニズムで人にリステリア菌感染症をおこします。特に妊婦の流産や高齢者の敗血症や髄膜炎などの重篤な症状をおこします。リステリア菌の感染で重要な因子がリステリオリシンO(LLO)です。今回紹介するのは、ロシア医科学アカデミーのプッシュカレバ博士らの研究で、リステリオシンが、もともとは、リステリア菌と自然生態系での細菌の捕食者である繊毛虫テトラヒメナと捕食を巡る関係において進化したことを示す論文です。

※リステリア菌の基礎事項を確認したい方は、下記記事をご覧ください。
中毒菌10種類の覚え方 ⑧リステリア菌

 前記事までに、ヒトへの病原性細菌のビブリオや腸管出血性大腸菌の病原遺伝子は、もともと自然界でのこれらの細菌の生存のために進化していた可能性を示す論文を紹介してきました。本記事はリステリア菌の病原遺伝子の論文です。リステリア菌が哺乳動物に感染する際の重要な病原遺伝子として、リステリオリシンO(LLO)があります。この病原遺伝子は、哺乳動物の感染の過程で、細胞内の生存とリンパ球のアポトーシス誘導に関わってると考えられています。

  プッシュカレバ博士 らの実験の概要は以下の通りです。リステリア菌をテトラヒメナの培養液の中に接種すると、テトラヒメナはリステリア菌を捕食します。しかし、最終的には、テトラヒメナの栄養細胞が減少していることがわかりました。栄養細胞の減少の理由は、テトラヒメナ細胞の死滅とシストと呼ばれる休眠細胞への変化の2要因であることわかりました。培養14日目ではすべてのテトラヒメナの栄養細胞は培養系から消え、培養液に残っているのはシストだけになりました。一方で、テトラヒメナの無菌培養では全てが栄養細胞のまま、元気よく泳いでいました。

妊婦や高齢者に感染するリステリア菌と原生動物との関係

 つぎに、博士らは、リステリオリシンO(LLO)をコードするhly遺伝子を欠損したリステリア菌株をテトラヒメナの培養液に接種してみました。その結果、hly遺伝子を欠損したリステリア菌はテトラヒメナの死滅やシストへの変化をおこさず、 テトラヒメナの栄養細胞は元気よく培養液中で泳いでいました。変異株にhly遺伝子を再導入して同じ実験を行うと、やはりテトラヒメナの死滅やシストの形成が促進されました。また、元々 hly遺伝子 を持っていなリステリア・イノキュア(L.inocua)株を LLOを発現するプラスミドで形質転換させて同様の培養を行うと、やはりテトラヒメナはシストへの移行しました。

  以上の実験結果から、リステリア菌の リステリオリシンOは宿主外の自然の生息地で、原生動物の捕食から自分たちを守るために使われている可能性が高いことが推測されました。

 博士らの論文もまた、これまで紹介してきたビブリオや腸管出血性大腸菌に加えて、リステリア菌の病原遺伝子も人間に対してではなく、自分たちが自然生態系の中で生き残るために進化発達させたものである可能性を示しています。


この論文は2010年に出版され、これまでに35回引用されています。
論文→ Listeria monocytogenes virulence factor Listeriolysin O favors bacterial growth in co-culture with the ciliate Tetrahymena pyriformis, causes protozoan encystment and promotes bacterial survival inside cysts
BMC Microbiology 2010, 10:26

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。