日本と欧米とでは食生活が異なるのでリステリア食中毒はおきにくいと考えている人も多いと思います。ところが、日本、韓国、中国などの東アジア特有の食文化の食材が海を渡って米国でリステリア食中毒を起こしています。それはエノキダケです。最近では、米国にもこれらの国々から輸出されています。本記事では、米国での輸入エノキダケによる食中毒についてまとめてみました。
韓国から輸入したエノキダケを原因とするリステリア食中毒(2020年)
2020年、米国で、エノキダケのよる初のリステリア食中毒が発生しました。事件の経緯(2020年6月、CDC発表)は以下の通りです。
2016年11月23日から2019年12月13日にかけて、米国の17州から合計36人のリステリア感染症が報告されていました。患者年齢は1歳未満から96歳までで、年齢の中央値は67歳でした。患者の58%は女性でした。31人の入院が報告されました。このうち、カリフォルニア州(2人)、ハワイ州、ニュージャージー州から、合計、4人の死亡が報告されました。
上図はCDCホームページのグラフを日本語に翻訳して掲載
6例は妊娠に関連したもので、2例は胎児死亡をもたらしました。
2020年にCDC職員が、上記の過去数年間にわたる患者の臨床株の全ゲノム解析(WGS)注)を行ったところ、これらの患者から分離された細菌が遺伝的に密接に関連していることが明らかとなりました。
つまり、この集団発生の人々は、共通の感染源を共有している可能性が高いことが推測されました。
注)米国では、2013年から、すべての食品分離株(リコール株、定期検査株)と臨床株の全ゲノムをデータベース化して、解析しています。これにより、数年前に遡った食品リコール株や臨床株とリンクされ、食中毒原因食品の解明に次々と至っています。関連記事は下記をご覧ください。
次世代シークエンサーを応用した食中毒原因細菌の解析(米国GenomeTrakrプロジェクト)の劇的成果
リコールされたサラダのリステリア菌株は次世代シークエンサー解析により数年前の原因不明食中毒事件とリンクされた(米国)
上図はCDCホームページの地図をもとに作図
そこで、CDCは、改めて、過去に遡り、これらの患者に発病する前の1ヶ月間に食べたものについてアンケート調査を行いました。その結果、回答者22人中12人(55%)が、エノキ、ポートベロー、ホワイト、ボタン、クレミニ、木耳、マイタケ、ヒラタケなどのキノコ類を食べたと回答しました。
そこで、FDAと州の職員は、検査のためにエノキタケを採取しました。このうち、ミシガン州農業農村開発局は、患者が買い物をした食料品店のエノキタケの2つのサンプルから集団発生の菌株と遺伝子型が一致する菌株を見出しました。
これらのキノコは「韓国産」と表示され、Sun Hong Foods, Inc.によって流通されていました。
以上、疫学的、トレーサビリティ、および実験室での証拠から、韓国のGreen Co. Ltd.が供給したエノキタケがこの集団発生の原因であると断定されました。
2020年3月23日、Guan's Mushroom Co.はexternal iconのエノキダケを回収しました。
再び米国でエノキダケによるリステリア発生(2022年11月)
CDCによると、2022年11月15日現在、ミシガン州とネバダ州の2州で、リステリア症患者が2名が報告されています。当局は、2022年10月5日から2022年10月8日にかけて、患者からリステリア菌の臨床株を採取しました。
臨床株の全ゲノム配列解析により、2人の臨床株は遺伝的に密接に関連していることが示されています。このことは、2人が同じ食品からリステリア感染していることを示唆しています。
また、患者の2人とも、エノキダケを食べたか、エノキダケを含むメニューのあるレストランで食事をしていました。
ミシガン州農業農村開発局は、エノキタケのサンプルからリステリア菌を検出しました。これらのキノコは、このアウトブレイクの患者がエノキダケを購入した店(Green Day Produce, Inc)から採取されたものです。しかし、これらのエノキダケサンプルから検出されたリステリア菌は臨床株の遺伝子型とは一致しませんでした。
以上のように、現時点で、患者が購入した店で販売されていたエノキダケからのリステリア菌の遺伝子型と患者の遺伝子型は一致していません。
一方、2021年11月、FDAは、輸入エノキタケに関連するリステリア集団発生を防ぐ戦略の一環として(2020年の米国初のエノキダケによるリステリア食中毒事件を受けて)、輸入エノキタケのリステリア菌検査を強化していました。そして、2021年11月に輸入されたエノキダケの1サンプルからリステリアが検出されていました。当時、これらのエノキダケはリコールとなり、廃棄されました。
そして、現時点で、今回のアウトブレークの臨床株の全ゲノム配列の遺伝子型が、2021年にリコールになったエノキダケから分離されたリステリア菌の遺伝子型と密接な関連が認められています。
現在、CDCは、これらのリステリア症に関連する特定のエノキダケのブランドを特定するために取り組んでいます。
中国産エノキダケのリコール中(2022年12月)
また、上記食中毒とは関連性はありませんが、2022年12月13日のFDAの発表によると、米国で、中国産エノキダケからリステリア菌が検出され、リコール中です。ミズーリ州によって実施された定期的なサンプリングでリステリア菌の汚染が発見されました。FDAと同社が問題の原因を調査する間、これらのエノキダケの流通は一時停止されています。
★追加情報(2023年1月22日)上記リステリア食中毒は中国産エノキダケが原因と判明
2023年1月18日、FDAは、上述の「米国でエノキダケによるリステリア発生(2022年11月)」と「中国産エノキダケのリコール中(2022年12月)」がリンクしていることを発表されました。
全ゲノム配列決定 (WGS) 分析により、中国産エノキダケからリステリア菌株は、2022年11月に発生したミシガン州とネバダ州の2州の臨床株と遺伝子型が一致しました。
リステリア菌はすべてのread to eat食品で食中毒を起こす可能性がある
以上、今回は日本、韓国、中国などの東アジア特有の食文化の食材であるエノキダケのよる米国でのリステリア食中毒事例について紹介しました。リステリア菌は感染型食中毒ですが、グラム陽性菌です。したがって、様々な環境ストレス耐性を持っています。また、この菌は、10℃以下の低温で増殖可能なことから、動物腸内のみならず、土壌や食品工場など、広範な環境に生息しています。
したがって、リステリア菌の汚染の可能性を否定できる食品はないと言えます。消費者が直前に加熱調理する場合はリスクはありませんが、食品、弁当・惣菜、生野菜、寿司などのready to eat食品(消費者が購入後、自身で加熱せずに食べる食品)は、すべてこの菌の食中毒のリスクがあると考えるべきです。
また、今回紹介したように韓国や中国から輸出されたエノキダケでリステリア菌が検出されたり、食中毒をおこしている事実は、日本が欧米とは食生活が異なるからリステリア食中毒はおきにくいと考えるのは誤りであることを示しています。
なお、エノキダケは日本では加熱して食べます。リステリア菌は加熱調理で死滅します。しかし、加熱不足にならないよう注意が必要です。
リステリア菌の基礎事項は下記記事をご覧ください。
リステリア菌による食中毒事例は下記をご覧ください。
- 魚肉練り製品でリステリア食中毒発生(デンマーク)
- 米国で発生中のリステリアのアウトブレイクの原因としてアイスクリームが浮上
- ドイツでは最もリステリア菌感染しやすい食べ物はスモークサーモンである
- アイスクリーム製造ラインからリステリア菌が検出されて製品リコール(米国)
- リコールされたサラダのリステリア菌株は次世代シークエンサー解析により数年前の原因不明食中毒事件とリンクされた(米国)
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