食中毒菌10種類の覚え方 ⑧リステリア菌

住処からドミノ倒しに理解する諸性質

個別の食中毒菌の性質を理解するためには、まず、それぞれの住処を理解することが重要である。住処を理解することによって、その他の性質はドミノ倒しのように連続的に理解できる。  

1.リステリア菌(リステリア・モノサイトゲネス)は、羊、牛、豚などの腸内に住んでいるグラム陽性菌である。また、様々な環境にも広く生存が可能である。元々はヤギや羊の病気の原因となる細菌だとみなされていた。

2.この細菌はグラム陽性菌であるので、これまで述べてきた理解の仕方では毒素型食中毒細菌になるが、リステリア菌は例外になる。リステリア菌はグラム陽性菌であるにも関わらずは感染型食中毒菌である。

3.哺乳動物の体温の37°Cで活発に増殖するが、冷蔵庫のような低温でも増殖する。この点はグラム陰性細菌の感染型食中毒菌と全く異なる特徴である。その意味ではリステリア菌は環境細菌としての特徴を持っているということになる。

4.リステリア菌はグラム陽性細菌なので、乾燥や高塩分などの環境ストレスには強いと理解することができる。これまで述べてきたように、感染型食中毒菌のほとんどが環境ストレスに対して弱いグラム陰性菌であった。したがって、リステリア菌は環境ストレスにい耐性をもっている菌として、感染型食中毒細菌のなかでは特異な存在ということになる。

5.リステリア菌は哺乳動物の腸の中を好む通性嫌気性細菌であるので、有機酸を細胞外に産生しやすく、酸性の環境に対しては強い性質を持っている。

6.一方、グラム陽性菌であるので、疎水性官能基を持った化合物などの薬剤に対しては弱い。したがって、リステリア・モノサイトゲネスの選択培地を作ることは大腸菌やサルモネラ菌のようにグラム陰性菌の選択培地ほどには簡単ではない。

以上を、ドミノ倒しのように連続的に理解するとよいだろう。

食中毒細菌としての特徴

 リステリア菌は重篤な症状をひきおこす食中毒菌である。 本菌は、これまでにアメリカやカナダやデンマークで死者数を最も出している。例えば1985年アメリカでソフトチーズによって47人が死亡している。これはアメリカの食中毒史上最大の死者数である。また、2008年にカナダでも、生ハムで22名の死者を出している。これもカナダの食中毒史上最大の死者数である。また2014年にデンマークでソーセージによって15人の死者を出した。これもデンマークの食中毒史上最大の死者数である。このようにリステリア・モノサイトゲネスの食中毒は死者数が多いのが特徴である。アメリカでは毎年2500人が感染し、その1/5に相当する500人が死亡している。


 もうひとつの特徴は全症例の約40%が妊婦であるということだ。また老人の患者も多い。リステリア・モノサイトゲネスの食中毒が他の食中毒細菌と異なる点は、このように妊婦や老人などの免疫弱者を集中的に攻撃するということである。健常な若い人がリステリア食中毒になっても、その症状は発熱や下痢であり、風邪をひいた状況とほとんど変わらない。従って健康な若い人たちがリステリア食中毒になった場合、自分では風邪をひいたと勘違いする場合が多い。妊婦や老人も同じように最初の症状は風邪をひいた状況であるが、その後に重篤な症状を引き起こす。妊婦は流産に、老人は脳髄膜炎を起こして死亡する場合が多い。妊婦も老人も免疫が弱いために、リステリア菌が集中的に攻撃をするわけである。

またリステリア食中毒がサルモネラ菌や腸管出血性大腸菌などほとんどの感染型食中毒細菌と根本的に異なる点は発症するまでの時間である。食品を食べてから重篤な症状が発症するまでに3週間という極めて長い期間を要するのがリステリア菌症の特徴である。長い潜伏期間なので、たった一人の妊婦や老人が家庭の食事でリステリア菌症を発症した場合、医者はその原因食品を特定することはほとんど不可能である。

食品での汚染

 リステリア菌が、腸管出血性大腸菌O157などと決定的に異なる点は、どこにでも生残している可能性があるという点である。さら、この菌は10℃以下の低温でも増殖できるので、チルド食品でもその増殖を抑制することができない。食品での汚染では、生ハム、生肉などの汚染が考えられる。また、ヨーロッパではナチュラルチーズによる食中毒事例も多い。リステリア・モノサイトゲネスは食肉での汚染はある程度避けられない。食肉は加熱調理を前提としているので、たとえリステリア・モノサイトゲネスにある程度汚染されていても、それが深刻な食品衛生学的な問題に直結するわけではない。リステリア菌のリスクが最も危惧される食品は、非加熱喫食食品である。欧米ではready-to-eat食品と呼ばれ、例えば生ハムやナチュラルチーズを用いたサンドイッチなどである。また、スモークサーモンもリステリア菌の高汚染食品として問題となっている。「生食文化」という日本人の食文化に密接に関係するready-to-eat 食品では、明太子、イクラ、ネギトロなどでリステリア菌汚染が多い。

工場での汚染

 本菌は排水溝に生息している危惧も指摘されている。排水溝の中はラインや床に比べるとブラシなどによる物理的な洗浄頻度が少ないので、種々の細菌がバイオフィルムを壁面につくって生存しやすい。従って、高圧ホースにより排水溝を水洗するとエアロゾルとして、微少な水滴が工場空気中に巻きあがり、この中に含まれた細菌が食品を二次汚染する可能性もある。

日本おけるにステリア危険性

 日本では、本菌による食中毒事例は、食中毒統計情は、これまでに1件に留まっている。このため、以前は「日本にはリステリア菌食中毒はほとんど起きない」と考えられてきた。しかし、2004年に実施された病院での臨床患者調査によれば、毎年83件(0.65件/100万人)のリステリア菌症が発生している1)。その感染者は1歳未満と高齢者に多く、死亡者は70歳以上(致死率20%)であることが判明している。すなわち、リステリア菌症は日本でもやや低いが欧米並みに感染者が存在していることが判明している。

Okutani A. et al., Nationwide Survey of Human Listeria monocytogenes Infection in JapanEpidemiol.
Infect. 132:769–772(2004)

 原因食品について未解明の状態が続いている。患者が1人もしくは2人程度の散発的な事例の場合、患者の 自宅の食品から原因食中毒菌と同一タイプの遺伝子型の食中毒菌が採取されない限り、原因の特定は不可能である。この問題は、日本の国民の食の安全を確保するためにも、このまま放置できず、是非とも解明すべき重要課題である。