前記事までに、グラム陽性菌とグラム陰性菌の特徴と、これらの食中毒菌としての特性を一つの流れとして理解するために説明をした。グラム陰性菌は物理的ストレスに弱いが化学薬剤には強いこと、グラム陽性菌はその逆で物理ストレスには強いが化学ストレスには弱いことを説明した。また、これまで、感染型食中毒細菌のほとんどはグラム陰性菌であると説明してきた。本記事ではそれらをまとめて整理する。

 ところで、前記事までに、グラム陰性菌は水環境に住んでいると説明してきた。感染型食中毒細菌のほとんどはグラム陰性菌であると説明してきた。しかし実際のところ、感染型食中毒菌のほとんどは、海とか川とか湖の中に住んでいるわけではない。その代り、これらは、哺乳動物や鳥類の腸の中に住んでいる。これらの動物の腸内も水の豊富であり、水環境と理解できる。

グラム陰性菌の棲家

 ここでもう一つ改めて整理しておきたい。これまでグラム陰性菌は水の中に住んでいる説明してきた。しかし、読者の多くは、経験上、グラム陰性細菌は食肉とか野菜からも検出されることを知っているだろう。そして食肉や野菜は水環境のものではなく、陸上に存在するものである。したがって、読者の中には、グラム陰性細菌が水環境を住むという理解は正しくないと思う人もいるかもしれない。そこで、ここでもう少し陸上環境について説明をしたいと思う。

  • 陸上環境にも様々な環境がある。

もちろん陸上にもグラム陰性菌は生息する。陸上環境でもよく発達した森林の奥深いところなどは水滴をたくさん含んでいる。食品でも肉や野菜で水分をたくさん含んだところには、もちろんグラム陰性菌が生息している。

 例えば火山が爆発したとしよう。火山灰が降り積もった直後の陸上の環境は完全に乾燥しており、生物が生きていくにはとても厳しい環境である。やがてコケ類や地衣類が生えてきて、草本植物が生えてくる。そしてその次に低木林が生える。つぎに、太陽の光をたくさん必要とする木で構成される陽樹林が発達する。このような林が発達すると、林の中では太陽の光が次第に届かなくなる。このような森林の内側では少ない太陽の光でも成長できるような木が成長してきて、やがて森林は陽樹林から陰樹林へと変わっていく。

陸上環境と水分

  このように森林が発達すると、この森林の中は水が豊富な環境となりる。下の図の葉っぱのイメージのように、 森林のあちこちは湿っており、水が豊富な環境となる。

葉の上の水滴

 以上、火山灰が降り積もった直後の乾燥土壌では、 グラム陰性菌は 生息するチャンスは少ない。ところが陰樹林の中は、グラム陰性菌が十分 に増殖可能な環境となる。

  つまり、ここで読者に理解してもらいたいことは、野菜や肉などの食品からグラム陰性菌を検出するのは、これらの肉や野菜が湿っている食品だからであるとうこと。この入門講座で、グラム陰性菌は水の環境に生息しているとはじめに整理している理由は、最初の導入の理解として理解しやすいからである。しかし実際は、陸上であっても、水分が多いところにはグラム陰性菌が住んでいると、理解すればよいだろう。

・グラム陽性菌とグラム陰性菌の理解については、基礎シリーズでその他に5つの関連記事があります。合わせて読むと、しっかりとグラム陽性菌陰性菌について理解ができると思います。