培地成分の読解力の必要性

微生物検査を行っている検査スタッフが培地の原理をあまり理解せず、単に培地メーカーのマニュアルに従って検査をしているだけの場合が多い。微生物培地組成についての読解力の重要性を理解していただきたい。食中毒菌の検出には、選択と識別の2つの原理を用いる。目的菌以外の細菌の増殖を阻害する選択の原理と、増殖してきた微生物のコロニーを色によって識別する識別の原理である。 本セクションでは大腸菌の選択培地であるでデソキシコレート寒天培地を例にとて、選択と識別の原理を説明する。

まず選択の原理について説明する。前のセクションでクリスタルバイオレットによって染まりやすいのがグラム陽性菌、染まりにくいのがグラム陰性菌と説明した。疎水性官能基を持ったクリスタルバイオレットが細胞壁を通過しやすく、さらに言い換えれば、増殖の阻害が起きやすいということである。

大腸菌の検査培地のデソキシコレート寒天培地には、選択剤としてデソキシコール酸ナトリウムが加えられている。デソキシコール酸ナトリウムは、胆汁酸である。胆汁酸は、私たちのからだが油を分解するための石鹸として肝臓で作られ胆嚢から分泌される両親媒性の化合物である。構造式は、ベンゼン環の部分とカルボキシル基でできている。ここで注目すべきはグラム染色に用いたクリスタルバイオレットもデソキシコール酸も疎水性官能基と親水性官能基思った両親媒性の化合物という点で共通しているという点である。つまりクリスタルバイオレットでグラム陽性菌が染まりやすいということは、デソキシコール酸ナトリウムによってグラム陽性菌の増殖を抑制されやすいということを意味している。

 次に識別の原理について簡単に触れておく。目的とする食中毒菌に特徴的な代謝を利用して色を識別する。ほとんどの場合はその目的とする食中毒菌だけが利用できる炭水化物が培地に添加される。そして食中毒菌が炭水化物を利用すると培地の pH が下がる。 pH 指示薬を用いてコロニーの周辺の色の変化によって目的品を識別する。
 以上大腸菌の培地を例にここでは簡単に説明するにとどめたが、聴講者に理解してほしいのは、培地に関してはに表面的な理解ではなくそれぞれの培地の基本的な原理を理解してほしいということである。このことによって融通性と応用性が身につき、表面的な現象に振り回されなくなる。