この記事では、食品中の一般生菌数の目安や基準値の理由、データの読み方を理解することを目的とする。新鮮な食品や腐敗した食品、糞便、あるいは空気中にどれぐらいの数の微生物がいるのか?このような私たちの身の回りの微生物数に関する基本的な理解がないと、一般生菌数の測定結果の解釈で、思わぬ落とし穴に落ちる可能性がある。
新鮮な肉や野菜の一般生菌数の目安は、100m置きにグランドに立っている人のような状態
一般的に新鮮な魚や野菜には、 103から104cfu/gの一般生菌数が存在している。ここで理解を容易にするために、1平方センチの野菜の表面を1km四方の草原と想像してみる。またそこにいる細菌を草原に立っている人間に置き換えて想像してみる。1 cm は10,000μmである。細菌の細胞の大きさは約1μmである。新鮮な魚や野菜に104cfu/gの細菌がいるということは、これらの食品の表面1平方センチメートルの一片10,000μmあたりに、100細胞が存在しているということになる。つまり細菌の細胞同士の距離は10,000÷100=100μmということになる。乱暴な計算ではあるが、ここで人間の身長を1 m と見なして計算すると、草原の100 m おきに1人が立ってるという計算になる。
計算はおおざっぱであるが、新鮮な野菜や魚の表面にいる細菌数のイメージを持ちやすくするために、このような計算をしてみた。
腐敗した肉や野菜の一般生菌数の目安は満員電車のような状態
次に、このような野菜や魚が腐敗した場合はどうであろうか。一般的に野菜や魚が腐敗するときは微生物の数は、 1 g あたり107から108cfu/の細菌が存在している。 1 g あたり107から108cfu/gという数字は10,000×10,000ということになる。つまり10,000μmの一辺の中に10,000細胞がいるということになる。これはお互いの細胞がびっちり詰まっている状態である。野菜や魚が腐敗した状態を通勤電車に置き換えて想像すると、東京都内の満員電車やバスの中で隣の人と肩が触れ合っている状態と考えて良い。このような状態が魚や野菜腐敗している時の細菌の数のイメージとなる。
私たちの糞便の1/3は微生物細胞の重さである
さて次に、私たちの糞便の中の微生物の数をイメージしてみよう。糞便の中には一般的には1012から1013cfu/gレベルの細菌が存在している。 ここで注意しなくてはならないのは、理論的には1立方センチメートル の糞便の中には最大でも微生物は1012細胞しか詰め込むことができないという点である。なぜならば、1立方センチメートル の一辺には10,000細胞しか微生物は整列させることができないからである。10,000細胞×10,000細胞×10,000細胞=1012となる。1 g あたりに1012~1013レベルの細菌が存在しているということは、私たちの糞便の大部分が微生物によって占められてるということを意味する。私たちの糞便の中の1/3ぐらいの重量が微生物ということになる。
一般生菌数のデータの読み方は、身の回りの微生物数の基本的な理解がないと失敗する
かつて、化学を専門とするひとりの教授が、学会で微生物学関連の課題について口頭で発表を行ったことがある。この教授は、魚肉の中に1018cfu/gの微生物が存在していることを示すスライドを発表した。もしこのデータが本当だとすれば、小さな魚に、教授の目の前の机のサイズの量の微生物が存在していることを意味する。
このような間違いは微生物をよく知らない人がおこす。もちろんこの教授の示した実験のデータが間違っていたわけであるが、一般生菌数データの読み方を間違わないためには、以上述べたような私たちの身の回りの細菌数に対する基本的な理解ができているかどうかにかかっている。
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