この記事では、食品微生物学の超入門者向けに一般生菌数(standard plate count)の測定方法を説明する。ただし、この記事は具体的な実験マニュアルではない。初心者に一般生菌数がどのようなプロセスで測定されるのかについてイラスト入りで分かりやすく説明することを目的としている。平板混釈法について説明する。
測定方法
- 食品試料25gを無菌的にストマッカー袋に採取する。
- 9倍量、すなわち225mlの希釈水をストマッカー袋に入れる。
なお、希釈水は、生理的食塩水、リン酸緩衝希釈水、ペプトン加生理食塩水などが用いられる。ISOではペプトン加生理食塩水を推奨している。また、国内では食品ごとに用いる生理的食塩水が法的に指定されている。
食品試料と希釈水の混合にはいろいろなやり方があるが、最も一般的なのはストマッカーという装置を使う方法である。この袋をストマッカー装置に入れることによってペダルが激しく動き、袋の中の食品と希釈水が充分に混合される。
ストマッカーの試料液1mlをを試験管の中に準備された9mlの希釈水に加える。この操作を繰り返しを行うことによって、各希釈段階の試料液を調整する。
各希釈段階の希釈液1mlずつをそれぞれ2枚のシャーレに分注して行く。
各シャーレにあらかじめ、オートクレープをし、寒天が固まらないように50°Cで保温した標準寒天培地15mlを流し込む。
このように平板培地の培養液と試料液をシャーレの中で混ぜ合わせるので、平板混釈法と呼ぶ。この記事では述べないが、平板混釈法のほかに平板塗抹法というやり方もある。平板塗抹法ではあらかじめ固めて置いた平板培地上に試料液を滴下し、それをコンラッジ棒と呼ばれるガラス棒で培地表面に広げるやり方である。
標準寒天培地は市販されているので、それらを使えばよい。この培地組成は、要するに、ほとんどの微生物が増殖できるように、タンパク質の分解物であるペプトンとビタミン類の供給源である酵母のエキスを含む培地である。参考までに培地組成を下記に記しておく。
標準寒天培地の組成
- ペプトン 5.0 g
- 酵母エキス 2.5 g
- ブドウ糖 1.0 g
- 寒天 15.0 g
- 精製水 1,000ml
- PH7.0~7.2
標準寒天培地を流し込んだら、直ちにシャレを左右上下に緩やかに撹拌し、試料液と寒天培地がよく混ざるようにする。
シャーレー中の寒天培地が固まれば、インキュベーターの中でシャーレを培養する。培養温度は、米国や日本の公定法としては35℃が採用されている。ただしISO法では30℃が設定されている。
※一般生菌数に関する国際的な培養温度の違いについては下記の記事をご覧ください。
食品の一般生菌数の検査方法の国際的な違い
寒天の中に存在している微生物細胞は、培養されている間に、分裂を開始する。培地が液体であれば分裂した細胞は液体中に分散する。しかし、寒天の中に微生物細胞が包埋されているので、分裂した細胞はその場所でとどまらざるをえない。分裂を繰り返すうちにコロニーを形成するようになる。そして最終的にそのコロニーは観察者の肉眼によって観察できるほど、大きくなる。
観察者によって観察できるほど大きくなったコロニーの数を数えることによって、もともと、試料液中に含まれていた微生物の生菌数がわかる。
この際、どの希釈段階のシャーレのコロニー数を生菌数の測定データとして用いるかについては、平板に30~ 300個コロニが存在する希釈段階をを選択すればよい。
なぜ上記の希釈段階が良いのか?
- コロニー数が多すぎる希釈段階の場合
シャーレの中にコロニーがたくさんありすぎると、コロニーが重なり合って2つのコロニーを一つと計測し間違える可能性がある。また、微生物の細胞同士が近すぎるとコロニーを形成する過程において、隣のコロニーがそのとなりのコロニーの増殖を抑制してしまう可能性がある。以上の理由から一枚のシャーレの中に多すぎるコロニーが存在する場合には、適正な微生物細胞数を測定できなくなる。
- コロニー数が少なすぎる希釈段階の場合
コロニー数が少なすぎると、わずかなコロニー数の違いによって、計測値のばらつきが生じてしまう。すなわち、データの安定性が失われる。
なお、微生物の規格基準などでは、各希釈段階でのコロニー数からどのように一般生菌数を計算するかについては、もう少し細かいプロトコルが存在する。しかし、ここではいきなり細かな計算式を示しても初心者の理解をさまたげるので、原則的な理解のみをを説明した。コロニー数からの一般生菌数の算出法については、国内食品の微生物規格のための公定法などでは規定されている(食品衛生検査指針 微生物編)。法令で定められた食品ごとの微生物の規格基準に従って一般生菌数を求める場合には、これらの個別の計算プロトコルプロトコルに従えばよい。
しかし、とりあえず、科学的におおむね正確に一般生菌数を測定するためには、上記のような理解でよいだろう。もっと簡単に言ってしまえば、だいたい100前後の希釈段階を選んで測定するとだけ覚えておけば、サイエンスとして一般生菌数の正確な値が得られるとと考えておけばよい。
なお、一般生菌数の測定値において重要なのは微生物の数の桁数である。コロニーの数の細かいカウント数の間違いよりも、希釈水の取り違いによって桁数を間違うミスの方が致命的である。一般生菌数の結果が得られた場合のデータの正しさについて査定するためは、食品や身の回りの環境に存在する微生物数に関する基本的な知識が必要となる。この点については別記事で分かりやすく説明したのでご覧頂くと良いと思う。
また、得られた一般生菌数の意味については別記事でまとめたので、こちらもご覧頂くと良いと思う。