この記事では、食品企業で勤務しているものなら、誰しもが日常的に行っている微生物検査である一般生菌数(standard plate count)基準の持つ意味についてあらためて整理しておきたい。

一般生菌数とは?

一般生菌数の平板培地のイラスト

 一般生菌数は、別名では、好気性プレートカウント(aerobic plate cout、APC)、中温菌数( mesophilic count )、標準平板菌数 (Standard plate count: SPC)とも呼ばれる。どのような微生物でも基本的に増殖できるようなペプトン栄養素を含む寒天培地で食品試料中の微生物を測定する方法である。寒天培地上で各細胞が目に見えるコロニーを形成するという仮定に基づいている。したがって、一般生菌数とはこれは、中温性温度(25〜40°C)で好気的に増殖する生物の食品試料中の一部の細菌を測定しているに過ぎない。

 日本では一般生菌数の測定における培養条件は35°C、 48時間と定められている。

※日本および世界における食品の微生物規格における一般生菌数の培養温度の違いなどについての詳細な説明については、下記の記事をご覧ください。

食品の一般生菌数の検査方法の国際的な違い

いずれにせよ、一般生菌数では下記に示すような微生物群については計測ができない。

  • ボツリヌス菌のような嫌気性細菌
  • カンピロバクターのような微好気性細菌
  • 腸炎ビブリオのような好塩性細菌
  • 乳酸菌等、特別な栄養素を必要とする細菌
  • 35℃はで増殖できない低温細菌
一般生菌数培地の限界のリストアップ

一般生菌数の基準と食中毒菌リスクは別物

  一般生菌数は食中毒リスクの観点という点での指標にはなりえない。

 もちろん、著しく高い一般生菌数を示す食品サンプルでは、同時に食中毒菌の検査を行っていない場合には、暫定的に食品衛生上好ましくない食品として取り扱うことは可能である。しかし、一般生菌数が高いからといって、食中毒菌がその食品に存在していないという保証はない。

 一般生菌数はあくまでもその食品の衛生上の取扱い履歴(特に温度管理履歴)を示す指標である。

一般生菌数と食中毒菌のリスクが別物であることを示すイメージ

 また、一般生菌数は、食品ごとに許容値(正常値)が異なる。例えば、新鮮な魚や野菜で、103から104cfu/gの一般生菌数が出るのは普通である。 むしろこれ以下の一般生菌数が検出された場合には、何らかの殺菌・除菌措置が行われていると考えた方が良いだろう。


 一方、パスツール殺菌などの加熱処理を行っている食品で一般生菌数が高い場合には、食品製造工場内で二次汚染、殺菌除菌工程などが不十分に行われていることなどの指標となり得る。

一般生菌数はあくまでも指標菌なので、除菌しても意味がない

 日本に水産物を輸出している東南アジア諸国の食品工場の現場を訪れたことが何度かある。日本に輸出する魚介類用次亜塩素酸ナトリウムで洗浄している現場をよく目にする。もちろん、輸出輸入における食品の規格基準において一般生菌数が定められているので輸出する側の行為としてはやむを得ない措置と理解できる。

 しかし、品質管理担当者と話をしていると、とにかく一般生菌数を下げれば良いという考え方を持っているようだ。しかし、一般生菌数を目の敵にして、その数字を、とにかく下げればよいという考え方は、一般生菌数の基本的な意味をはき違えていることになる。殺菌剤で一般生菌数のみを下げることは、 例えで言うと、気温が暑いので温度計のインディケーターを操作して下げる操作に似ている。

品質の悪い食品を殺菌したことに、より一般生菌数が低くなる混乱
一般生菌数は温度計のようなものだということを示すイメージ

 今、仮に気温が暑いからといって、温度計のメモリを一生懸命下げようしているとしたらどうだろうか?

暑い時に温度計のメモリだけを下げても意味がない1

 温度計のメモリを下げたところで気温が変わるわけではない。食材の一般生菌数を殺菌により下げようという行為はこのような行為に似ている。たとえ、低い一般生菌数が得られたとしても、その製品の品質をよくしていることにはならない。

暑い時に温度計のメモリだけを下げても意味がない2

 以上、一般生菌数は、食品の取り扱いの衛生上の指標であるということを今一度確認しておく必要がある。繰り返しになるが、一般生菌数は品質の指標であり、それ自体を除菌してもあまり意味がない。

ただし、加熱加工食品では衛生管理の指標になる

 もちろん、食品の安全性という観点では、食中毒菌は存在してはならないので、殺菌や除菌工程は必要である。ただし、食中毒菌の食品中での存在割合は高くない。したがって、加熱殺菌の効果を確かめるために食中毒菌自体の検査は効率的ではない。したがって、これらの殺菌工程の効果を検証するために一般生菌数を測定することが有効である。

 一般生菌数測定をこのような目的で実施しているという認識があるのであれば、それは問題ない。

 例えば、ソーセージや魚肉練り製品など、加熱加工により加工直後には一般生菌数がほとんど検出されないはずの製品で、105cfu/gの菌が検出されるとすれば、加熱の失敗か、その後の衛生管理の不備を意味する。

 このような場合は、一般生菌数の測定は重要な意味を持つ。

 

 その他、例えば、加熱食品や乾燥食品などにおいて、次のような目的で一般生菌数測定をすることも有効である。

  • プロセス工程管理のの適切性を評価する手段として一般生菌数を使う場合
  • 食肉などの場合、入ってくる枝肉の状態をチェックし、サプライヤーの肉の衛生状態をチェックするなどの目的で使う場合
  • 食品製造工場内の機器や器具の衛生状態を評価するために使う場合

まとめ

 繰り返しになるが、食品の品質という観点からは、一般生菌数を殺菌や除菌工程によって減らしたからといって品質が良くなることではないということだけは理解しておく必要がある。 一度一般生菌数が増えた食品は、どのように殺菌工程を加えて菌数を落としても、その品質が悪いことには変わりない。

まとめとして、一般生菌数は品質の指標である