ノロウィルスの感染力を調べるボランティア実験

 ヒトの感染症では、動物と異なり、直接的に感染病原体に感染させる実験はほとんど行われません。しかし、ヒトを感染病原体に感染させる実験が行われる場合もあります。今回紹介する論文はその一つです。ノロウィルスの感染力(感染用量)を直接ヒトボランティア感染実験によって調べた例です。米国ベイラー医科大学のアトマー博士らの研究です。

 ヒトに対する直接的感染実験を行った理由は、ヒトノロウイルスをin vitroで増殖させることができないことや、容易に利用できる小動物モデルがないという、ヒトノロウィルス研究における特殊性によるものです。従ってノロウィルスのの病態や免疫を研究するためにヒトの実験的感染モデルを使用することが必要であると判断したわけです。

医者と向き合うノロウィルス実験のボランティア

 博士らは、2004年9月~2011年10月にかけて、ボランティアを通してノロウィルス(遺伝子型はG1のノンウオークウィルス)(注1)の人の感染実験を行いました。57人の健康な成人(18歳~50歳)に対しを経口投与しました。ノロウイルスの投与量は対象者によって段階的に濃度を区別しました。具体的には、プラセボ(偽薬=滅菌水)が8人、RT-PCR units 0.48 が16人、4.8 が14人、48 が10人、4800が9人でた。

 その結果、感染者は21人で、全員が血清型A型かO型でした。このうち67%がウイルス性胃腸炎を呈しました。

 これらの結果を基づいて、50%ヒト感染用量(HID50)を算出した結果、血液型O型またはA型の組織血液型抗原分泌型のヒト(注2)へのHID50は約1320ゲノム当量であることがわかりました。

(注1,2)血清型を決定する組織血液型抗原は赤血球の表面だけではなく、気道や腸管の粘膜上皮細胞などの表 面にも発現しています。しかしヒトの中にはこれらの抗原を組織上皮に分泌しない人も存在します(20%程度)。ノロウィルスの遺伝子型のうち、遺伝子型G1のノンウオークウィルスは、腸管粘膜上皮細胞に発現している組織血液型抗原に結合すると考えられています。したがって、腸管上皮細胞に組織血液型抗原を発現している分泌者だけが感染しやすいと考えられています。

この論文は2014年に出版され、これまでに201回引用されています(2022年1月Scopus調べ)。
Determination of the 50% Human Infectious Dose for Norwalk Virus
J Infect Dis. 2014 Apr 1;209(7):1016-22.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24253285/

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が2020年12月1日号に執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったので公開しています。ただし、最新状況を反映して、加筆・修正しています。 。