食品中の一般生菌数の基準を解釈する際に、 一般生菌数の検査方法や測定方法が違えば、違った解釈となる。そもそも定義すら異なってしまう可能性がある。本記事では、食品中の一般生菌数の検査方法として採用されている方法について、主として米国(AOAC方式)とEU(ISO方式)の違いを中心に、国際的な違いについて説明をする。
世界で2分されている一般生菌数の測定条件
日本の一般生菌数測定は、食品衛生検査指針では35°C、48時間と定められている。また、世界的にみると、一般生菌数の測定は、米国(AOAC方式)とEU(ISO方式)に二分されている。
- 米国(AOAC方式注)):35°C48時間(=日本)
- EU(ISO方式):30 °C 72時間
日本の食品衛生検査法指針では、上記米国方式に準じていると思われる。
注)米国を中心として南米や日本など、多くの国々で食品分野での標準検査法として採用されている方式。AOACは、各種分析法のバリデーションや精度管理に関係する科学者や、行政関係者などからなる米国を中心とした国際組織。食品分野では、いわゆるAOAC法と呼ばれる”Official Methods of Analysis of AOAC INTERNATIONAL”を作成している。
どちらの方式も一長一短がある。
ISO法の利点
一般的に培養温度を下げて培養時間を長くすれば、より多くの菌をカウントできる。実際のところ、牛乳で測定した場合、 AOAC(35°C、48時間)よりISO法(30℃、78時間)のほうが0.18 log高い菌数という報告も出版されてる(下記文献参照)。この点で、ISO方式のほうに軍配が上がる。
Do different standard plate counting (IDF/ISSO or AOAC) methods interfere in the conversion of individual bacteria counts to colony forming units in raw milk?
J Appl Microbiol.121(4):1052-8(2016)
Open access
米国法(AOAC法)の利点
しかし一方で、そもそも一般生菌数のような指標菌は迅速性が重要となる。迅速性の点ではAOAC法に軍配が上がる。
生菌数測定の大まかな歴史
ここで、そもそも世界的に見て一般生菌数の歴史を少し紐解いてみよう。かなり大雑把な議論になるが、下記のようになる(大きな流れの理解として)。
ざっと流れを見ていくと、そもそも1905年に世界でゼラチン培地が開発された。ゼラチンの固まる温度の関係で、培養温度を上げることができなかった。従って20°C、48時間が普及した。しかしその後、寒天培地が登場した。寒天培地はゼラチンよりも高い温度で固型状態を維持できる。そこで本来、一般生菌数の指標として対象としている人の腸内の微生物を意識して、37°Cの培養温度が採用されるようになった。1975年頃には35°C、72時間が基軸となった。
しかしその後、食品のチルド流通が普及するにつれて、低温細菌の存在が確認されているようになってきた。そこで、2003年のISO4833において30°C、72時間が採用されるに至った。 その後、ISO法は30°C、72時間だが、米国法(AOAC法)は35°C、48時間を維持したまま、現在に至っている。
細部はともかくとして、流れとしては、 ざっとこんな流れであろう。
研究者が用いてきた培養温度と時間
さて法例的な問題は別として、研究論文アカデミアの世界では一般生菌数の測定条件はどのように測定している例が多いか?この疑問に答えてくれるのが下記の論文である。
A Review of Aerobic and Psychrotrophic Plate Count Procedures for Fresh Meat and Poultry Products
J Food Prot;65(7):1200-6 ( 2002)
Open access
この論文では、 1985年以降2002年までの期間で、一般生菌数を測定している論文を対象として(肉、鶏肉の検査)、測定条件がどのようになってるかを集計している。おおまかに整理すると、下記の条件の順番に培養条件が多い。
日本の冷凍食品の生菌数測定の培養時間は、なぜ24時間?
ところで、今年、サイエンスフォーラムのZOOMセミナーで講師を務めた際、次のような質問を受けた。
「日本の冷凍食品の一般生菌数測定の培養時間は、なぜ35℃、48時間ではなく24時間なのですか?」
法令が出来上がった経緯というのを遡ることは今となってはかなり難しい。日本の冷凍食品での35 °C24時間という条件は、 食品 衛生検査指針で定められている35 °C、48時間と異なる。なぜ培養時間が短いのか、色々調べてみたが結局のところわからなかった。ここからは筆者の推測である。冷凍食品の一般生菌数の測定法が定められたのは、上記の世界的な一般生菌数測定法の歴史の中でのどこかのタイミングで採用されたのだろう。そして、そのまま、改正されずに残ってきてしまったのではないか?
上述した研究者達の論文の生菌数測定条件では、日本の冷凍食品の測定条件のように35°C、24時間を採用している論文が全くないわけではない。しかし、見つけるのに苦労するくらい、かなりマイナーであることは確かだ。
さらに付け加えるならば、そもそも冷凍食品においては微生物はかなりの損傷を受けている。
※冷凍と微生物の損傷死滅についての基礎事項は下記の記事をご覧ください。
冷凍と微生物の死滅
このようなことから考えても、むしろ冷凍食品の場合には、培養時間を通常よりも長くしても良いぐらいだ。食品衛生検査指針で定められている一般生菌数の測定法の培養時間48時間より24時間も短縮する理由はどうしても見当たらない。
以上結論として、やはり、日本の冷凍食品の35 °C、24時間という培養時間は、やはりどこかのタイミングで法律的なアップデートをしていく必要もあるのではないかと感じる次第である。