ウィルスの変異株は免疫力が低下した回復の遅い感染者で出現しやすい

 新型コロナウイルスの新変異株(オミクロン株、B.1.1.529系統)が南アフリカであらたに出現し、皆様も、気がかりな週末を過ごされたのではないでしょうか。そもそも、ウィルス変異とは何か、ウィルス変異の理由、仕組みとメカニズムの理解が重要です。特に、どのような状況で変異株が出現しやすいのかについて理解しておくことも重要です。

 今回は、新型コロナウィルスと同様にRNAウィルスのため変異が起きやいノロウィルスの遺伝子型の変異株がどのような状況で最も出現しやすいかについて考察した論文を紹介します。

 なお、ノロウィルスの基礎を知りたい方は、まず、下記記事をご覧ください。
「食中毒菌10種類の覚え方 ⑩ノロウィルス」

 1996年以降、ノロウィルス感染の世界ではいくつか遺伝子型(genoytpe)が突然出現し、流行しています。最近では2014年頃に突如世界に出現し、その後、パンデミック株として世界中で感染を広げている GⅡ-17が記憶に新しいところです。このようなウィルスの新しい遺伝型はそもそもどこで出現するのでしょうか?

 宿主が人間以外の動物も含まれている場合には新型遺伝子型の出現箇所は、ヒト以外にも動物など、複数想定されます。一方、ヒトノロウイルスはヒトにしか感染しません。したがって、ノロウィルスの場合は、新しい遺伝子型が出現する発信基地はヒトの体内以外には考えられません。

 しかし、一般的に人にノロウイルスが感染した場合には一週間程度で免疫によって駆除されます。つまり健康な人間が通常の感染をした場合、新しい遺伝子型が人の体内で出現をする機会は少ないと考えられます。

 ではいったいどのようなケースでこのような新しい遺伝子型が実現するのでしょうか?

ウィルス感染から直りが遅い患者

 今回紹介するのは、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のブル博士たちの研究です。ブル博士たちは、 次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて、健常者の典型的な急性ノロウィルス感染(短期間感染10日)と、免疫不全者の慢性感染(長期感染 288日)の両方で、排出されるノロウィルスの遺伝子型の多様性に与える影響を調べました。

 その結果、次のことが明らかとなりました。

  • 健康な宿主では9日間の感染で1つの遺伝子変異(1塩基の変異:SNP)しか検出されなかった。
  • 免疫不全患者では288日間の感染で18個ものSNPが検出されました。
  • 免疫不全患者から分離されたノロウィルスの18個のSNPのうち8個はアミノ酸置換を伴う変異(すなわち抗原構造の変化を伴う可能性がある変異)でした。 

 博士らの研究は、

  • 健常人の典型的な急性ノロウィルス感染症ではウイルス集団は非常に均一化されており比較的安定していることも示しています。
  • 一方、免疫不全の慢性ノロウィルス感染者では、ノロウィルスは急速に進化し、ダイナミックなウイルス集団を有していたことを示しました。

 すなわち、慢性ノロウィルス感染者が新しい抗原性変異体の出現のための潜在的なリザーバーである可能性が高いことを示しています。

この論文は2012年に発表され、これまでに86回引用されています(最新調査、2021年10月、Scopusによる)。

Contribution of intra- and Inter-host dynamics to norovirus evolution
Bull R.A. et al., Journal of Virology p. 3219–3229 (2012)

※なお、この記事には下記の続編がありますので、下記もご覧ください。
RNAウィルス変異株出現の理由と仕組みー中程度の免疫弱者がウィルスの変異株の出現と拡大原因となりやすい

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が2020年10月1日号向けに執筆したものです。学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。