ノロウィルスに感染した健康で無症状の調理従事者(不顕性感染者)からもノロウィルスがうつる可能性があり、感染経路になり得ます。 不顕性感染者 の便中のウイルス濃度や排出量や排出期間、およびその個々の変動に関する体系的な研究は現時点で十分に行われているとは言いません。そこで、オランダの疫学調査研究部門のテウニス博士らの研究を紹介します。

※ノロウィルスの基礎事項を確認したい方は、下記記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ⑩ノロウィルス

 テウニス博士は、感染しても症状が出ない「不顕性感染」者を含む102人の被験者の大集団におけるノロウイルスの排泄量を定量化し、排泄パターンを解析しました。博士の研究は、病院で発生したノロウィルスのアウトブレイクを調査対象に含めました。つまり、患者およびスタッフの両方から、ノロウィルス感染発症者及び不顕性感染者の双方からのから相当数の便サンプルを解析することができました。ノロウイルスの濃度は、リアルタイムPCRによって測定しました。調査対象102人の内訳は、47人の患者(32人の発症者、15人の不顕性感染者)、54人の病院スタッフ(38人の発症者、16人の不顕性感染者)です。

トイレの人間とノロウィルス排泄

博士からの研究で次のことがわかりました。

  • ノロウイルス感染の間、大量のウイルスが便中に放出される。
  •  糞便中のウイルス数は急速に増加し、数日以内にピークレベルに達する。
  • 感染の開始後、数週間の間にゆっくりと減少する。 糞便中のウイルス濃度が検出不可能なレベルに達するまでに2ヶ月以上かかる場合がる。
  • ピークレベル(平均105-109 / gの糞便)およびノロウイルス排泄期間(平均8-60日)という点で、症状のない不顕性感染者での排泄は症状を示す患者と同じである。症状を示したノロウィルス感染患者と症状を示していない病院スタッフのノロウィルス排泄量の差はあまりにも小さく、有意な差とは考えられない。

とくに4)は注意すべき結果です。つまり、すなわちノロウィルスの症状を示している感染者も不顕性感染者も個人としては同じ量のノロウィルスを排泄するということになります。違いがあるとすれば、ウイルス感染症で症状を示している患者は、嘔吐する機会が多く、その結果として、不顕性感染者よりもウイルスの拡散効率が高いと考えるのが妥当であると博士らは結論しました。

博士の研究成果は、ノロウィルスの食品製造現場における拡散を管理することの難しさを示しています。

この論文は2015年に発表されてこれまでに120回引用されています(2021年10月Scopus調査)。

Shedding of norovirus in symptomatic and asymptomatic infections
Epidemiol. Infect. (2015), 143, 1710–1717

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。