本記事では、まず大腸菌および大腸菌群とは何か、両者の違い、これらの微生物の定義、存在場所、食中毒菌であるかどうか、死滅しやすさ、体内に入った際の影響や腹痛を引き起こす可能性など、初心者が抱く疑問を一括して解決できるように説明する。また、少し踏み込んで、環境での生存、検査方法、食品中で大腸菌群が検出されることの意味、国内外における大腸菌や大腸菌群の微生物規格の違い、食品衛生法上の位置づけや問題点についても解説する。

大腸菌とは

 大腸菌自身は健康な人の腸内からごく普通に検出される。ヒトが排泄する糞便の全重量の約3分の1は細菌の重さと考えてよいが、このうちの1000分の1は大腸菌の重さである。大腸菌はこのようにすべての健康な人々が腸の中に持っている。したがって、ヒトにとって無害である。大腸菌そのものが体内に入ってきたとしても、腹痛を起こすことはない。

健康な人の腸内にいる大腸菌

 大腸菌が食品衛生上で悪玉にされる理由は、大腸菌自身にあるわけではない。この菌が検出されるということは、他のグラム陰性菌の感染型食中毒菌によってその食品が汚染されていてもおかしくないという考え方に基づいている。つまり、大腸菌が悪いのではなく、大腸菌と行動を共にしている友達が悪いという理由である。大腸菌と行動を共にしている友達とは、大腸菌と同じくグラム陰性菌で、哺乳動物の腸内を好むサルモネラや病原性大腸菌などの感染型食中毒菌である。
 

大腸菌は友達が悪い

 もう少し具体的に説明すると、大腸菌はグラム陰性菌であり、その住みかは哺乳動物の腸内である。また、サルモネラ菌など、われわれに感染型食中毒を引き起こす感染型食中毒菌も同様にグラム陰性菌で、その住みかも同じく哺乳動物や鳥類などの温血動物の腸内である。つまり、両者が生息する環境、たとえば温度や栄養素の濃さ、pHなどが一致している。

感染型食中毒菌のライフスタイル

これらのグラム陰性菌である腸内菌は、環境に放出されると長くは生きながらえない。

大腸菌は環境に放出されると生き残れない

 例えば、太平洋の真ん中の海水中の有機物濃度は、スープを10万分の1に薄めた程度の栄養素しか存在しない。しかし、その環境には多くの細菌が生息しており、これらの細菌は薄い栄養でも効率的に吸収できる術を身につけている。一方、大腸菌やサルモネラ菌は、スープを10万倍に濃縮したような高濃度の有機物環境である腸内に住んでいる。したがって、大腸菌やサルモネラがきれいな海水のような環境に放出されると、そこに生息する固有細菌との栄養の奪い合いに勝てず、栄養失調になって死滅していく。さらに、これらの菌が生存に適した温度やpHも、環境によっては適さないことが多い。また、先に述べたように、これらはグラム陰性菌であるため、乾燥にはグラム陽性菌と比較して非常に弱い。

環境と腸内環境の違い

 したがって、大腸菌は、サルモネラ菌などの感染型菌と運命を共にするという前提で、「検出されること=グラム陰性菌の感染型食中毒細菌の存在の可能性あり」という意味を持っている。

大腸菌が生き残っていれば、サルモネラも生き残っている

大腸菌と大腸菌群の違い

 ここで大腸菌群とは何かについて説明する。大腸菌群とは、大腸菌以外の属(クレブシエラ属、エンテロバクター属など)を含む、さらに大きなグループである。

腸内性菌科筋群、大腸菌群、糞便系大腸菌群、大腸菌、大腸菌O157の関係

 大腸菌群は、教科書の定義では「32~35℃で48時間以内に酸とガスを産生しながら乳糖を発酵する通性嫌気性のグラム陰性無芽胞桿菌」とされる。乳糖とは哺乳動物の乳の中に含まれる二糖類である。したがって、乳糖を利用できる能力は、哺乳動物に密接に関わりがある証拠となる。

 では、乳糖を利用できる細菌にはどのようなものがあるのだろうか。まず1つには、グラム陽性菌で、これは乳酸菌と呼ばれる一群である。乳酸菌のすべてが乳糖を利用できるわけではないが、大多数が利用できる。一方、グラム陰性菌で乳糖を利用できる一群を大腸菌群と呼んでいる。したがって、乳酸菌と大腸菌は乳糖を利用し、ともに哺乳動物に密接に関わっているという点で、同類と言える。

大腸菌群の分類体系

 歴史的に大腸菌群が衛生指標菌として用いられてきた理由の一つには、測定が比較的簡単であるという点がある。例えば、日本で用いられているデソキシコレート平板培地では、乳糖を利用する能力を利用してコロニーの色の変化を観察する。この培地には胆汁酸が含まれており、乳糖を利用できる乳酸菌(グラム陽性菌)を排除する役割を果たしている。したがって、この培地では、グラム陰性菌で乳糖を利用する菌、すなわち大腸菌群を検出することができる。

※デソキシコレート培地の培地成分の読解は本ブログの下記記事をご覧ください。
培地成分の読解力の必要性

大腸菌群の定義と測定法

糞便指標菌としての大腸菌と大腸菌群

 さて、ここで糞便指標菌としての大腸菌と大腸菌群の意味について整理しておく。大腸菌群は、前述のように乳糖を利用する能力から、哺乳動物に密接に関わる菌であることは疑いのない事実である。実際に、人間の糞便からこれらの大腸菌群は恒常的に検出される。

 しかし、例外も存在する。大腸菌群の中には、必ずしも哺乳動物の糞便と関係のない環境でも独立して生活しているものも存在する。このような大腸菌群が人間の腸内の大腸菌の祖先なのか子孫なのかは生物学的に興味深いが、現実として、乳糖を利用できる大腸菌群として定義される菌が人間の糞便とは無関係の環境に生息していることは事実である。

 つまり、科学的な観点から言えば、大腸菌群はもはや糞便の汚染指標としては不適格ということになる。なぜなら、糞便汚染とは無関係に、綺麗な自然環境にも生息しているからだ。

大腸菌群は環境からも検出される

糞便系大腸菌群とは?

 大腸菌群の中でも、正真正銘の糞便汚染由来の菌は大腸菌(E. coli)である。菌群の中から大腸菌に近い菌群を絞り込む最も簡便な方法は、大腸菌群とされる菌を44.5℃で増殖するか否かを調べることである。このような高温培養で得られた大腸菌群は糞便系大腸菌群(faecal coliforms、FC)と呼ばれる。大腸菌群には、糞便汚染と無関係な自然環境に由来する菌種も多く含まれるが、44.5℃の高温培養ではこれらの大部分が増殖できない。その結果として、大腸菌など、糞便由来により近い菌のみが検出されることになる。そのため、WHOは現在、水道水の衛生指標菌として、大腸菌検査が難しい場合には糞便系大腸菌群(faecal coliforms)を代替として認めている。

 もちろん、糞便系大腸菌群と大腸菌は同一ではない。糞便系大腸菌群は、あくまで検査上の分類であり、糞便系大腸菌群ですら、厳密には糞便とは無関係な属なども含むことがわかっている。したがって、この微生物群に「糞便系」という言葉を付けるのは不適当であり、thermotolerant coliform(耐熱性大腸菌群)と呼ぶほうが正しいとする研究者も多い。この点は留意しておく必要がある。

 しかし、食品衛生の実用的な位置づけとしては、糞便系大腸菌群を大腸菌と同様の位置づけで捉えても、大筋では間違いではない。事実、日本の食品衛生法上では、糞便系大腸菌群をE. coli(ブロック体)として表現し、さまざまな食品の糞便汚染の指標菌として規格基準に盛り込んでいる。

糞便系大腸菌群

 ここで、日本の食品衛生法上での大腸菌や大腸菌群、糞便型大腸菌群の位置づけについて明確に整理しておく必要がある。そもそも、日本の食品衛生法上では、以下の二つの指標菌のみが衛生指標菌として位置づけられている。

1)大腸菌群

2)E.coli(ブロック体)

日本での規格は大腸菌群と糞便系大腸菌群のみ

 ここで注目していただきたいのが、2)の「E.coli」がイタリックではなくブロック体で表記されている点である。通常、イタリック体で表記される「E. coli」は国際的に大腸菌を意味している。しかし、日本の食品衛生法上でこの「E.coli」がブロック体で表記されている場合、国際的に認知されている大腸菌を指しているわけではない。これは、厚生労働省の見解によれば、糞便系大腸菌群を指している。

 国際的には、糞便系大腸菌群は「faecal coliform」(略称FC)と記載される。ブロック体で「E.coli」と記載することで糞便系大腸菌群を意味するという慣習は、国際的には存在しない。つまり、日本の食品衛生法上だけで、このブロック体の「E.coli」は糞便系大腸菌群を指しているのである。これは非常にややこしい話であり、どのような経緯でそうなったのかは明らかではないが、現状としてはそのように運用されていることを理解してほしい。

大腸菌群検査の食品衛生学的意義、食品衛生法上の位置づけ

なぜ、日本では大腸菌群の規格が残っている?

 日本では、生食用の冷凍鮮魚介類(切り身またはむき身にした冷凍鮮魚介類)などについて、大腸菌群の基準が設定されている。国際的な微生物規格基準を設定しているコーデックスでは、伝統的に食品衛生の指標として大腸菌群が用いられてきた。コーデックスにおいても、現時点で一部の食品には大腸菌群の基準が残っている。しかし、大腸菌群の衛生指標菌としての欠点から、EUではすでに大腸菌群から大腸菌(E. coli)への検査に移行している。

 前述のように、大腸菌群が糞便汚染の指標菌として科学的な根拠を欠いていることは事実である。私は時々タイやベトナムなどへ食品微生物に関するセミナー講演や食品工場の視察に行くことがあるが、その際に必ず聞かれる質問がある。それは、「なぜ日本ではいまだに大腸菌群を規格基準として要求しているのか?EUの規格に合わせて大腸菌の試験ではだめなのか?」というものだ。東南アジアの諸国は、日本だけでなく、EU諸国にも食品を輸出しており、輸出先ごとに要求される衛生指標菌の基準が異なることは、彼らにとって煩雑でやっかいな問題となっている。

 生食用の冷凍鮮魚介類に限らず、国内の民間企業の方々にセミナーを行っていても、食品によって大腸菌群が規格基準になっていたり、糞便系大腸菌群(E.coli(ブロック体))が規格基準になっていたりすることについて、これらがなぜそのようになっているのかという質問が多い。

わかりにくい日本の大腸菌群の食品成分規格

 もちろん、大腸菌群は、日本においても糞便汚染の指標菌として用いているわけではない。食品加工が適正に行われているかどうかのプロセスの指標菌として用いている(米国の乳製品の基準に対する考えと同様)。国内外のセミナー講演でここまでの回答はできるが、その先の答えに窮しているのも事実である。なぜならば、後で述べるように、このような説明だけでは説明しきれない食品群がたくさんあるからだ。もう少し深掘りして、以下に考えてみよう。

日本の規格基準(糞便系指標菌)まとめ
  • 糞便系大腸菌群(=ブロック体のE.coli)

 糞便系大腸菌群(=ブロック体のE.coli)は、限りなく大腸菌に近い指標菌群とみなして良い(注:上記したように完全に同一ではない)ため、これらを糞便汚染の指標として規格基準に盛り込む点については、大きな問題点はない。現状として、科学的に大きな齟齬があるわけではない。

 例えば、食肉製品においては、非加熱食肉製品(要するに生ハム)、特定加熱食肉製品(周辺だけに加熱を加えたローストビーフ)、乾燥食肉製品(サラミなど食肉を乾燥しただけの製品)において、原材料由来の大腸菌群が検出されたからといって衛生的な扱いが悪いとは判定できない。したがって、このような製品については糞便系大腸菌群(ブロック体のE.coli)を規格基準としている。これらについては科学的に納得できる話であり、理解に苦しむこともない。

 ただし、国際的には、将来的にはEUのように大腸菌(イタリック体のE.coli)に移行するほうが望ましいだろう。

加熱食肉製品の微生物規格
  • 大腸菌群

 大腸菌群についてはどうだろうか?上述した日本の規格基準に関して言えば、大腸菌群は糞便汚染の指標菌として使われているわけではない。その目的は以下の二つである。

  1. 加熱食品の場合:加熱が十分に行われているかどうかの有効性の指標として使用。
  2. 加熱後の2次汚染:2次汚染の指標菌として使用。

 これらの考え方のオリジナルは、米国のFDAなどが乳製品に関して行っている大腸菌群の設定理由からきていると考えられる。

 しかし、実際のところ、別記事で述べるように、米国でもすでに大腸菌群が使われているのは乳製品などごく一部の製品に限られており、その乳製品においても大腸菌群の使用についての是非が最近強く議論されている(下記記事参照)。

  食品の大腸菌群検査の意義や基準に対して米国でも疑問の声あり

 上記1)については、ほとんどの場合、加熱食品で加熱が不十分というケースはめったになく、そのため大腸菌群の使用は限定的である。また、そもそも加熱不足を調べるために、なぜ大腸菌群が使われるのかという疑問も生じる。一般生菌数では不十分なのか?という素朴な疑問が残る。

加熱生残指標としての大腸菌群

 上記2)については、一応合理的に思える説明が可能である。私が国内外セミナーで用いている説明の概要は以下の通りである。

 「加熱などの加工食品において、もし大腸菌群が検出された場合、それは元々原料に含まれていた大腸菌群とは言い難い。元々原料にあった大腸菌群は加熱によって死滅しているため、ここで大腸菌群が検出されるということは、食品工場で二次汚染が発生したことを意味する。すなわち、食品工場での衛生管理の指標として大腸菌群を使うことができる。」

ざっとこのような理屈を、東南アジアのセミナーなどでは、日本の立場として説明している。

加熱後の二次汚染指標としての大腸菌群

 しかし、この点についてもよく考えてみると、二次汚染の確認目的であれば、大腸菌でも良いのではないかという疑問が生じる。おそらく、筆者が考えるに、もともと大腸菌群の基準を設定していたため、規格基準をできるだけ変更しない理由があるのだろう。つまり、この説明には「加熱食品の規格には大腸菌群をこのまま残しておいても、科学的に矛盾しない」という後付けの論理が含まれていそうだ。

 なぜこのような論理になるのかと言えば、要するに、大腸菌群の方が大腸菌よりもずっと検査が簡単だった時代の背景を引きずっているのだと思う。しかし、現在では大腸菌の検査も酵素基質検査などで簡単に行えるようになっている。実際、EU基準の規格ではこのような大腸菌検査が採用されているわけである。

たしかに昔はこれしかなかったし、便利だった大腸菌群検査

 また別記事でも述べているように、最近では米国でも、チーズなど乳製品の二次汚染の指標菌としては、大腸菌群ではなく、二次汚染の頻度が高いシュードモナスなどのグラム陰性菌を使う方が合理的だという意見も出てきている(再び下記記事参照)。

食品の大腸菌群検査の意義や基準に対して米国でも疑問の声あり

難解で解釈に苦しむ日本の大腸菌群基準(いくつかの例)

 実際のところ、日本の規格基準においては、大腸菌に関する理解に苦しむ難解な状態が登場する。

  • 加熱食肉製品

 下の図のように、加熱食肉製品において、包装後加熱食品では大腸菌群の陰性が求められている一方、加熱後包装食品では糞便系大腸菌群(カタカナのE.coli)の陰性が求められている。上記のような考え方に基づけば、どちらも加熱食品であるため、加工プロセスの適正判断の指標として大腸菌群で統一しても良さそうであるが、実際はそうなっていない。

 これについては、さまざまな理屈があるのかもしれないが、筆者としては、科学的に「Simple is best」の観点から、これ以上の説明は試みない(正直、よくわからない)。

包装後加熱食肉製品と加熱後包装色食肉製品

※記事参照

  • イチゴケーキ

 いちごケーキは加工食品であるため、大腸菌群陰性である必要がある(ただし、生鮮果実部分は除く)。洋生菓子の衛生規範ではこのように定められている。ケーキの部分は加工されているため、そこから大腸菌群が検出されると、生鮮食品の原料由来とは考えにくい。したがって、ケーキ部分に大腸菌群が検出された場合、加工工程の衛生管理に問題があると判断される点は理解できる(なぜ大腸菌ではないのかという疑問は別として)。

 しかし、ケーキに乗せられているイチゴについてはどうだろうか。イチゴは生鮮食品であり、大腸菌群が存在する可能性は完全には排除できない。生鮮果実部分を大腸菌群のテスト対象から除外しているとはいえ、製品において果実部分からケーキ部分への微生物の移行は考えられる。そのため、ケーキ部分が生鮮果実部分を除いて大腸菌群陰性であるとされていても、果実由来の大腸菌群が検出される可能性は完全には否定できない。

:「食品衛生法等の一部を改正する法律」(平成30年法律第46号)の施行に伴うHACCPに沿った衛生管理、営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設等を踏まえ、「洋生菓子の衛生規範について」等の通知は令和3年6月1日付で廃止された。

生成食品から大腸菌群がでるのは避けられない

 このようなグレーゾーンも、大腸菌群を基準にしているからこそ生じる問題である。大腸菌群ではなく、大腸菌を基準に変更すれば、この問題は解消するだろう。

イチゴケーキ
  • 生食用鮮魚介類

  生食用の冷凍鮮魚介類(切り身またはむき身にした冷凍鮮魚介類)も、大腸菌群陰性と定められている。これは、生鮮魚介類を切り身に加工して冷凍した段階で、冷凍食品の分類に入るからである。日本では、このように冷凍食品の分類に入ると、大腸菌群陰性が求められる。しかし、生鮮魚介類を単純に冷凍しただけでは、微生物学的な状態が変わるわけではない。したがって、生鮮魚介類を冷凍した際に大腸菌群が検出されるのはやむを得ない。それにもかかわらず、法律的に冷凍食品の分類に入るという理由だけで、大腸菌群陰性が求められている。

生食用冷凍生鮮魚介類

 私は、フィリピンでマグロなどの生鮮魚介類の冷凍品を日本に輸出している加工業者を訪ねたことがある。この加工業者は、私が訪問する前の年に冷凍マグロを日本に輸出した際、大腸菌群陽性によりリコールを余儀なくされていた。しかし、この加工業者は次のように話していた。「そもそも大腸菌群はマグロ漁船で水揚げした段階でもマグロから検出される場合が多い。したがって、日本への輸出用冷凍マグロから大腸菌群が検出されるか否かは運次第だ。EUや北米にも同様に冷凍マグロを輸出しているが、これらの諸国では大腸菌群ではなく大腸菌を基準としているため、リコールはほとんどない」とのことだった。

 フィリピンに限らず、タイなど東南アジア諸国を訪問した際にも、「なぜ大腸菌群が自然界に存在する菌であるのに、日本では冷凍食品の基準として大腸菌群が採用されているのか?」との質問をしばしば受ける。私は、「冷凍食品は加工食品なので、大腸菌群を加工の適性指標として用いている」と説明を試みるが、自分でもこの説明に科学的に納得できていない。「冷凍で微生物はそんなに死ぬのか?」と質問を追加されると、もうお手上げである。「いや、冷凍工程では微生物はほとんど死にません」と答えるしかないのだ。

 ※冷凍と細菌の死滅の関係は下記記事をご覧ください。
冷凍と微生物の死滅

上述したように、生食用の冷凍魚介類で大腸菌群の検査を設定している日本の基準は、見直すべきであろう。

マグロ漁船(フィリピン)

 以上、本記事後半では、大腸菌と大腸菌群について、食品微生物学の入門者基礎講座の学習者にとってやや深掘りした説明を行った。しかし、大腸菌や大腸菌群の検査は食品微生物学の基本中の基本であるため、この項目についてはあえて詳しく説明した。