低濃度でリステリア菌に汚染されたアイスクリームは感染を起こすのでしょうか?妊婦が食べたらどうなるでしょうか?基礎疾患のある高齢者の場合は?2015年米国でアイスクリームによるリステリア菌食中毒がおきました。この食中毒事件により、アイスクリームによるリステリア菌食中毒の発症菌量に関して興味深い事実がわかりました。本記事ではこれを紹介します。

米国でのアイスクリーム食中毒事件(2015年)

事件の概要

 2015年、カンザス州の同じ病院で4人の患者がリステリア感染症になりました。この患者たちは皆、アイスクリームから作られたミルクシェークを売店で購入し、食べてていました。患者から分離されたリステリア菌は、この病院の売店にアイスクリームを納入している関与企業の1工場(第1工場)で製造されたアイスクリームから分離されたリステリア菌と同一の遺伝子型でした。このアイスクリームがリステリア菌食中毒の原因と推定定されました。。

なお、この食中毒の原因工場が特定された詳細な経緯については、次世代シークエンサーに関する下記記事をご覧ください。
Genome Trakrプロジェクトの成功事例パターン①

  • 患者4人の年齢は67歳以上84歳で、全員に免疫機能を低下させる原因となる基礎疾患がありました。
  • 一方、このアイスクリーム製品はこの病院の売店に限らず、市場に幅広く流通していました。しかし、この病院の4人の患者以外には、妊婦も含めて、食中毒の報告はありませんでした。
病院とシニア患者とアイスクリーム

アイスクリーム中のリステリア菌の摂取数とリステリア症発症の可能性(用量反応関係)

 食品中のリステリア菌の摂取数とリステリア症発症の可能性との関係(用量反応関係)はよく分かっていません。その理由として、リステリア菌による食中毒の潜伏期間が約3週間と長いので、保存状態の良い原因食品を確保することが難しいことが挙げられます。


  上述のアイスクリームによるアウトブレイクは、感染者と全人口の間で、アイスクリーム製品からのリステリア菌への曝露レベルを調査するユニークな機会となりました。食品中のリステリア菌の摂取数とリステリア症発症の可能性との関係(用量反応関係)知るのにこの事件が好都合だった点は

  • 汚染食品が、アイスクリームだったので、同様なレベルで汚染していた製品が大量に残っていたこと。
  • 冷凍されたアイスクリーム中では、リステリア菌は生存できるが、増殖はできないこと。したがって、汚染レベルは正確に測定され、製品の長期保存期間中も比較的一定であったと考えられること。
  • 製品の種類によって汚染レベルが例外的に安定しているため、曝露のばらつきを最小限に抑えることができたこと。

 そこで、 米国FDAのの研究グループは、集団発生に関与した1つの工場の製品の汚染レベル、集団発生時に特定の集団が摂取したL. monocytogenesの細胞数、およびL. monocytogenesの用量反応関係についての知見を得るために、集団発生時のデータを評価しました。

1 食あたりの L. monocytogenes の細胞数

 工場でサンプリングされたアイスクリーム製品でのリステリア菌の汚染分布状況から、アウトブレイクの原因となったアイスクリーム製品のL. monocytogenes 平均数を 8cfu/gと推定しました。 80gのアイスクリームを2つ食べた場合に、リステリア菌の推定摂取量は8×80g×2=1280(1.3×103)cfuという計算になりました。

※米国ではリステリア菌に関してはゼロ・トレランス政策を採用しているので(25gで非検出、すなわち、0.04cfu/g)、このレベルのリステリア菌がアイスクリームから検出されればリコール対象となります。一方、EUでは100CFU /gまでは許容されているので、このレベルの汚染はリコールの対象になりません。リステリアの汚染と国際的な微生物基準法的については別記事をご覧ください。
米国とEUで異なる食品中のリステリア菌の許容値

 病院の売店でのミルクセーキの機械に初期汚染がなく、ミルクセーキの中でリステリア菌が増殖しなかったと仮定すると、患者のリステリア菌の推定摂取量1.3×103cfuは、これまで報告されている他のアウトブレイクにおける推定摂取量と比較して低いものでした。

たとえば、

  • 世界保健機関食糧農業機関(FAO/WHO)によると,1998年から1999年にかけてフィンランドで発生した免疫不全患者を対象としたリステリア症アウトブレイクでは、推定摂取量の中央値は8.2×103 cfuです。
  • また、妊娠中の女性の集団では、1985年に米国カリフォルニア州ロサンゼルス郡で発生したヒスパニック系の妊娠中の女性によるチーズ関連のリステリア症のアウトブレイクでは、その推定摂取量は1.7×107 cfuです文献)。なお、妊婦については、今回のアウトブレークでは、この病院で販売されているミルクシェイクを多くの妊婦も食べていたと考えられるにもかかわらず、リステリア症感染患者は報告されていません。

結論:免疫弱者は低濃度のリステリア汚染アイスクリームでも感染する可能性あり

 今回のリステリア症アウトブレイクでは,次のような特徴が整理できました。

  • アイスクリーム製品の汚染レベルが比較的低かった。
  • 製造ラインの汚染期間が長かった(少なくとも1年,場合によってはそれ以上)。
  • アイスクリームが市場に流通している期間、多くの人がこの会社の製造するアイスクリームによりL. monocytogenesに曝されたと考えられる。
  • カンザス州の4人の免疫疾患患者以外、妊婦も含めて一般の国民からのこのアイスクリームによるリステリア症は報告されなかった。

これらの結果から導かれた結論は以下の通りです。

  • 一般の人々がこの程度のリステリア菌の汚染レベル(8cfu/g)の、アイスクリームを食べてもリステリア菌には感染しない。
  • 一方で、今回の病院患者4名のように、高い感受性を持つ人は、このような低濃度(8cfu/g)のアイスクリーム中のリステリア菌汚染でもリステリア症を発症する可能性がある注)

注)もちろん可能性としては、上記の平均的な汚染菌数を遥かに超えたロットがたまたまこの病院に持ち込まれ、ミルクセーキが出来上がって食べられる前の過程で、リステリア菌が増殖した可能性も完全には否定できません。 FDAの研究グループは、リステリア菌を人工的に摂取したアイスクリームサンプルを用いて作ったミルクセーキを室温で保存し、L. monocytogenesを増殖させる実験を行ってみました。 その結果、リステリア菌は8時間はミルクセーキ中で増殖せず、14時間後の平均的な個体数増加は1.14 log CFU/gにとどまりました。この実験結果からも、ミルクセーキ中で著しくリステリア菌が著しく増えたとは考えられませんでした。

低濃度のアイスクリーム中のリステリア菌汚染と人々の感染リスク

 今回紹介した研究成果は、これまで考えられていたより低い濃度でも、免疫力の低下した基礎疾患のあるグループに対してはリステリア菌が感染する可能性があることを示しています。しかし、一般的にはこれまでのWHO(FAO / WHO、2004)の報告でもあるように、100cfu/gのレベルのリステリア菌の汚染では妊婦や高齢者も含めて感染を起こす可能性は低いと考えられています。ただ、WHOの報告のシュミレーションもあくまでも代表的な食品で、限られたデータの中でのシュミレーションです。どちらが正しいかということも一概には言えないことも留意しておく必要があります。

この論文は2016年に出版され、これまで66回引用されています(2020年2月scopus調べ)。

Infectious Dose of Listeria monocytogenes in Outbreak Linked to Ice Cream, United States, 2015
Emerg Infect Dis. 2016 (12):2113-2119
この論文はPubMed Central(PMC)で無料公開されています。

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