2012年に札幌市で白菜の浅漬による腸管出血性大腸菌O157による大規模食中毒事件が発生し、また、韓国でも、同年にキムチを原因とする腸管毒素原性大腸菌(ETEC)食中毒がおきました。これらの食中毒事件によって、白菜の浅漬やキムチのように非加熱喫食の白菜の潜在的な危険性が浮き彫りになりました。これまでに、塩漬け白菜の微生物学的品質を調べた研究はほとんどありませんでした。そこで、韓国の高麗大学のキム博士らが、韓国内で市販の塩漬け白菜の微生物学的品質を調査しました。

 キム博士らは、白菜における微生物学的品質に影響を与える主な要因を特定するため、生産、流通、物理化学的な各種要因と定量分析の結果との相関関係を調べました。全体的な結果として、塩漬け白菜の塩分濃度(平均、3.7%)は、微生物学的品質を担保するものではないことが明らかになりました。

実験の概要

 2015年2月から11月にかけて、韓国(7都市、8県)の小売市場から合計500個の市販の塩漬け白菜を採取しました。サンプルは、冬(2月、n 40)、春(3月~5月、n 196)、夏(6月~8月、n184)、秋(9月~11月、n 80)に採取し、製造から12時間以内に各市場が提供する配送サービスを利用して実験室に輸送しました。製品は直ちに物理化学的および微生物学的分析を行いました。

白菜の浅漬けの写真

採取した塩漬け白菜の状況


 採取した白菜の包装形態(発泡スチロール、紙箱)、同梱されていたアイスパックの数、商品の中心温度、包装内の温度、気温など、流通に関わる特性は、サンプルを受け取った直後に確認しました。

塩漬け白菜の物理化学的特性

  • 塩分濃度は、1.0%から7.0%(平均3.7%)、Brixは1.0%から9.0%(平均4.9%)でした。
  • pHは4.3から6.6(平均5.9)でした。
  • 塩漬け白菜の塩分濃度,Brix および pH は,季節によって有意に変化しませんでした(P > 0.05)。

微生物学的品質

  微生物学的な指標を調査した結果、塩漬け500試料の塩漬け白菜について、次の点が明らかとなりました。

  • 一般生菌数の平均値は6.0 log CFU/g(2.7~8.4 log CFU/g)でした。
  • 調査した試料の84.6%で大腸菌群が検出されました(最大6.8 log CFU/g,平均3.3 log CFU/g)。
  • 12サンプルから大腸菌(E. coli)が検出されました。いずれのE. coliも病原性遺伝子は保有していませんでした。
  • 比較的低いレベルのBacillus cereusが5.2%のサンプルから検出されました。
  • その他の食中毒菌(Clostridium perfringens,Listeria. monocytogenes,Salmonella spp.)は検出されませんでした。
  • 一般生菌数と大腸菌群数は季節変動を示し、夏に最も多く(平均、それぞれ7.1および4.4 log CFU/g)、次いで秋(平均、それぞれ6.4および3.2 log CFU/g)でした。塩漬白菜の中心温度の平均値は夏(19.5℃)が最も高く、次いで秋(16.9℃)、春(11.2℃)、冬(11.0℃)でした。パッケージ内の温度も同様の傾向で、夏(23.1℃)>秋(20.3℃)>春(15.7℃)>冬(11.9℃)でした。
     このように、流通温度が微生物のレベルに大きな影響を与えていることが確認されました。

白菜塩漬けの微生物学的安全性確保のための方策

 キム博士の論文によると、白菜塩漬けは、調理の面で消費者の利便性を高めるために加工されているため、韓国においてはほとんどの消費者は製品を洗わずに食べているそうです。60.3%の消費者が使用前に製品を洗わず、71.2%のメーカーが消費前に製品を洗うことを推奨していないとのことです。したがって、塩漬け白菜を作るメーカー側の微生物管理の確保の責任が重大となります。

 リー博士らの今回の研究結果は、流通過程での細菌の増殖による潜在的な危険性を示すものです。

 リー博士は、包装内にアイスパックを置いて温度を管理するについて、夏季には全体の温度を大幅に下げることができたものの、中心温度や細菌数を効果的に管理することはできなかったとしています。また、冬は平均気温が1.2℃しかなかったが、塩漬け白菜の中心温度は春(平均気温10.5℃)と同程度であったとしています。これは、メーカーが冬場の塩漬け白菜の流通温度にあまり注意を払っていないことを示唆しているとしています。

 以上の研究結果から、リー博士は、高品質な塩白菜を消費者に届けるためには、以下のような対策が考えられるとしています。

  • 塩漬け白菜を常温ではなく冷蔵室で脱水すること
  • 冷蔵して芯温を下げること
  • 塩漬け白菜を冷蔵温度(10℃以下)で流通させること
白菜と低温管理

この論文は2018年に出版され、これまでに7回引用されています(2022年2月、Google Scholar調べ)。

Factors that determine the microbiological quality of ready-to-usesalted napa cabbage (Brassica pekinensis): Season and distribution temperature

原料野菜の洗浄工程も重要

 今回紹介した韓国のリー博士の研究は、温度管理に注目をしています。しかし、微生物学的には温度管理と同時に原料野菜の洗浄工程も重要となります。

野菜洗浄工程の重要性

 葉物野菜は様々な微生物の源である土壌で育ち、葉の表面は細菌の付着および/または凝集に非常に適した環境です。また、白菜は何層もの葉で構成されているため、内側の葉や種子が細菌に汚染されると、植物体内に細菌が蓄積される可能性があります。生の白菜から有害な細菌を除去できないと、塩漬け白菜の製造時にも細菌汚染が残る可能性があります。白菜の塩漬け製造過程では、熱処理はなく、洗浄ステップのみで製品であることから、洗浄がが適切に行われるか否かも重要なポイントとなります。

 日本でも2012年に白菜漬けによる集団食中毒事件が発生しましたが、このケースでは、製造会社が野菜のすすぎや消毒に不適切な技術を用いたことが原因でした。この食中毒事件の報告によると、製造会社に次のような洗浄プロセスの問題点が見出されました。

  • 洗浄時に、タンク内の葉物野菜の周りに流水が効果的に循環しなかった。
  • 洗浄後の野菜の除菌に同じ次亜塩素酸ナトリウム溶液を約10回繰り返し使用したため、再現時に次亜塩素酸ナトリウムの濃度が徐々に低下した。
  • 生産中に次亜塩素酸ナトリウムの濃度をチェックしたり記録したりする作業を行っていなかった。

 以上、葉物野菜に関しては、洗浄工程も重要となります。野菜や果物の洗浄法に関する関連論文は下記のとおりです。ご参考までにご覧ください。

野菜や果物の洗浄と除菌方法として注目される超音波洗浄