超音波洗浄の原理を用いた野菜洗浄機が最近注目されています。野菜や果物に付着したサルモネラや腸管出血性大腸菌などの病原微生物を除去するためです。ブラジルのヴィソーザ連邦大学のジョセ博士らは、ミニトマトからのサルモネラ菌の除去の目的で、超音波洗浄機による洗浄に ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、過酸化水素、二酸化塩素、および過酢酸などの殺菌剤を併用し、その併用効果を検討しました。

 今から30年余り前、大学院生時代、超音波洗浄機で毎日試験管を洗っていました。試験管に書いたマジックのマークなどは超音波洗浄機で30分もあれば跡形もなくなくなってしまい、とても便利でした。このように、超音波洗浄には強力な洗浄力があることは古くから知られています。この技術が野菜洗浄分野で最近注目されています。

超音波と除菌剤の併用で殺菌

 

 超音波の条件は45 kHzで10分間です。用いた薬剤は、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、過酸化水素、二酸化塩素、および過酢酸です。

 このうち、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムは食品業界では聞き慣れない化合物かもしれませんが、要するに次亜塩素酸ナトリウムと同じように塩素系の殺菌剤です。次亜塩素酸ナトリウムと違う点は固形タイプであるという点です。家庭用洗浄剤としてはあまり使われませんが、プールや浄化槽の消毒剤としてよく知られています。

※次亜塩素酸ナトリウム の基礎事項を確認したい方はこちらの記事をお読みください。
食品工場-次亜塩素酸ナトリウム

 博士の実験では、どの薬品を用いても、超音波との組み合わせることによって、トマトからのサルモネラ菌の除去効果は高くなりました。中でも最も良い組み合わせは、過酢酸と組み合わせた場合で、約 4桁サルモネラ菌の菌数を落とすことができました。

※過酢酸の基礎事項を確認したい方はこちらの記事をお読みください。
食品工場-過酢酸

 もちろん、菌数の除去効果の主力部隊は薬剤です。ただしその薬剤に超音波を組み合わせることによってその効果がさらにアップするというところがポイントです。

 ジョセ博士以外にも過去数年間で野菜や果物でのサルモネラ菌や腸管出血性大腸菌、リステリア菌などの病原菌を除去する方法として超音波は有効であるとの報告がたくさん出されています。

 超音波の組み合わせで相乗効果が起きる理由としては、超音波によって薬剤である果物や野菜の組織の中に侵入しやすくなるのではないかと考えられています。また、同時に、超音波が微生物の細胞同士の塊を破壊することにより、結果的に薬剤である一つ一つの微生物細胞にアタックしやすくなるのではないかということも考えられるメカニズムです。

 超音波を用いることの大きなメリットは、加熱などをかけないので、果物や野菜の色落ち等が起きにくい点です。

超音波そのものは昔の技術ですが、野菜に汚染している病原微生物という新しい問題にとっては、新しい技術といえますね。

この論文は2012年に出版されたのち、これまでに54回の引用が行われています。

論文→ Effect of ultrasound and commercial sanitizers in removing natural contaminants and Salmonella enterica Typhimurium on cherry tomatoes
 Food Control 24 (2012) 95-99

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。