現在、医療現場で手指の消毒として使用される主な消毒方法は、石鹸とアルコールです。石鹸やアルコールに対して敏感な人の手指の肌荒れの原因にもなっています。この記事ではアルコール殺菌と同等の効果を持つオゾン水の効果を示した論文を紹介します。オゾン水はアルコールと異なり、手荒れが少ないこともデータが示しています。

 以下に示す2論文は、いずれもノルウェーのフォルデ病院健康研究センターのブレイダブリク博士らの研究成果です。

オゾン水を水道水から作っている

オゾン水殺菌とアルコール殺菌の比較

 現在、WHOの医療における手指衛生のガイドラインでは、アルコールの代替法としてオゾン水は提案されていません。しかし、アルコールに対して敏感な人の手指の肌荒れの原因にもなっています。

 そこで、博士らは2019年に出版した論文で、大腸菌で人工的に汚染した手について、オゾン水とアルコール殺菌剤の効果を比較しました。

 被験者30名は、いずれも2年次終了の看護学生(女性26名、男性4名)(平均年齢23歳)でした。

 実験は、あらかじめ、人工的に被験者の手に大腸菌(ATCC 25922)を汚染させて、それらの除去率で評価しましました。

  • オゾン水実験:オゾン水は水道水からOzonator CYS300C( Cleanzone, Bergen, Norway)を用いて生成させました。30人の学生を無作為に15人ずつの2つのグループに分け、一方は0.8ppmのオゾン水を、もう一方は4.0ppmのオゾン水で30秒間、手を洗いました(8 L/min)。
  • エタノール実験:用いた消毒用アルコールは、85%エタノールと<5%イソプロパノールおよびグリセリンを含むAntibac(KiiltoClean AS、Asker、ノルウェー)です。オゾン水実験とは別の日程で実施しました。同じ学生が、消毒用アルコール3mlで30秒間、手を洗いました。

 手指消毒処理前の左右の手から採取したcfu数を試験前値とし、処理後のcfu数を試験後値としました。

実験結果は次の通りです。

  • 60サンプル(30人、左右の手それぞれ)から、消毒前には、3.0×104cfuを超える大腸菌が検出された。
  • オゾン水での手指消毒では、両手の平均値は1.0×103cfuであった。
  • 通常のアルコール手指消毒では、両手の平均値は2.3×103cfuであった。
  • オゾン濃度の高い方(4.0ppm)を使用した場合、低い方(0.8ppm)と比較して、残存大腸菌数に統計的な差はなかった。
  • 左手では、オゾン消毒と比較して、アルコール消毒のcfu数には大きな個人差が生じた。まばらな量のアルコール消毒剤(3 mL)を両手のすべての部分に行き渡らせることは、困難だった。
アルコール殺菌は少量などで、左右の手の殺菌効果のばらつきが生じる。
  • オゾン水殺菌では、大量の水道水(8 L/min)の流水下で両手を握ってこするだけの簡単な手順なので、両手の殺菌効果のばらつきは少なかった。
オゾン水殺菌は、大量の流水系で使えるので、左右の手の殺菌効果のばらつきが生じない。

 

  • 周囲の空気中のオゾンガス濃度は低く、オゾン法による皮膚への有害反応は認められなかった。
  • 参加者の半数は、オゾン使用後に手がより滑らか/柔らかく感じたと報告し、実験後、大多数(77%)は、2つの方法の抗菌効果が等しい場合はオゾン水消毒を好むと述べた。
オゾン水は手にやさしい

 本研究では、オゾン水は平均して85%アルコールと同程度に人工的に汚染された指から大腸菌を殺菌することが示された。オゾン手指消毒法は簡単で安価であり、残留廃棄物もなく、水に溶かした場合のオゾンも安全であると思われる。博士らは、オゾン水は、アルコールを用いた従来の液体手指消毒剤の代替となり得ると結論しました。

Breidablik et al.
Ozonized water as an alternative to alcohol-based hand disinfection
J Hosp Infect, 102,419-424 (2019)

石鹸水洗浄も比較に含めてみた

 博士らは、続けて2020年に、今度は、アルコールとオゾン水に加えて、石鹸水による洗浄効果も同時に比較したレポートを出版しました。

 試験方法は2019年の論文と概ね同じです。今回、新たに追加した石鹸水洗浄実験に用いた石鹸は、ノンアルコールのAntibacハンドソープ(3mL液体石鹸)(KiiltoClean AS)を使用しました。また、オゾン水は今回は、0.8ppmのオゾン水のみを用いました。

 55人のボランティアのうち12人(22%)が男性で、43人(78%)が女性でした。年齢は20歳から66歳の範囲でした。40人の参加者のうち、半分は2019年出版の上記の研究に参加した学生の内、15人の学生が再度参加しました。

その結果を要約すると次のとおりです。

  • アルコールは、除菌後の残量は平均2330cfuであった。
  • オゾン水は残量は平均538cfuだった。
  • 石鹸洗浄は、平均98cfuと最も効果があった。
  • オゾン水と石鹸水洗浄は、手指に残る残存菌数のデータがまとまっていた。一方、アルコール洗浄の場合に手指によってデータのばらつきが非常に大きく出た。
  • また、アルコール洗浄群では、左右差(平均cfu/mL:1356 vs 974)があったが、オゾン洗浄群、石鹸洗浄群では、左右差はあまり見られなかった。3mLアルコールによる消毒は、相当数の参加者が手指の消毒に失敗しており、正しく行うにはより複雑な手順が必要であると思われれました。また、アルコール消毒群での左手の殺菌失敗率は、通常の公共利用ではさらに高くなることが予想されました。
アルコール殺菌はばらつきが生じやすい。

上の図は、ここで紹介している論文のデータから作図したものである。

  • 自己申告によると、参加者の3分の1は、皮膚炎がなくても、定期的なアルコール消毒による皮膚への悪影響(手荒れや乾燥)を報告していた。オゾン水や通常の石鹸水を使用した場合、不快な皮膚症状を訴えた参加者は皆無であった。

 これらの実験結果から、最適な方法は、石鹸と水による手洗い、およびオゾン水の交互使用と考えられました。

石鹸水の手洗いが一番効果的

 上述したように、現在、WHOの医療における手指衛生のガイドラインでは、アルコールの代替法としてオゾン水は考慮されていません。しかし、博士らは、オゾン水は、シンプルで肌に優しく、環境に残留する化学物質がない方法であり、手指に付着した通貨細菌を除去するためには、通常の石鹸と水による手洗いのほかに、オゾン水のような穏やかな殺菌剤による洗浄が、アルコールだけよりも効果的である可能性あると結論しています。

 ただし、今回の実験結果はあくまでも人工的に大腸菌を付着させた手指の実験です。ウイルスに対するオゾン水の使用可能性についても、新しいCOVID-19に対する影響の可能性を含め、さらに検討する必要であるとしています。

Breidablik et al.
Effects of hand disinfection with alcohol hand rub, ozonized water, or soap and water: time for reconsideration?
Journal of Hospital Infection, 105, 213-215 (2020)

※オゾン殺菌の基本事項については別記事でまとめてありますのでご覧ください。
オゾン殺菌