オゾン殺菌

 本記事ではオゾンガスとオゾン水についての基本事項をまとめる。オゾンは、強い酸化剤であり、高い殺菌力がある。また、無毒な酸素に自然分解するので、食品の殺菌剤として用いる際に残留物が残らないという利点がある。オゾンガスとして用いる場合と、オゾン水として用いる場合がある。オゾンガスとして使用する場合は、高濃度オゾンガスが必要となるほか、ガスの拡散による有毒性や広範な機器に及ぶ腐食性などの課題が多く、産業界での応用は現時点で限定されている。一方、オゾン水として使用する場合、わずかな濃度(1~5ppm)で抗菌活性を発揮することができる。オゾン水については食品業界のみならず、家庭や医療業界など広範な応用が今後も期待できる。

オゾンガス

 オゾンは、化学記号で「O3」と表されるように、酸素原子(O)3個が集まってできた物質である。オゾンという呼称は、1840年頃にChristianFriedrichSchönbeinが水の電気分解装置の周りで発生するガスの特徴的な匂いに注目し、ギリシャ語の(OZEIN)(「におう」「かぐこと」)と命名された事に始まる。オゾンの分子量は48で空気の1.7倍の重さである。

 オゾンは、その強い酸化力という性質から、細菌、細菌芽胞、菌類、ウイルスに対し幅広い抗菌力を持っている。このため、オゾンは古くから水処理に使用されてきた。

大気中でのオゾンガスの生成

 地球の表面から上空25km付近にオゾン層と呼ばれる保護層があり、太陽から降り注ぐ有害な紫外線から地球上の生物たちを守っている。地球に生命が誕生した33億年前はオゾン層は存在していなかった。生命誕生の約10億年後に光合成をする藍藻が誕生して、初めてオゾン層が地球上に形成された。このオゾン層の形成によって生命は、強烈な太陽光の紫外線から身を守ることができるようになった。これが、その後、陸上へ生命が上陸することを可能としたわけである。

地球のオゾン層を示すイメージ

 太陽光による大気中でのオゾンの生成のメカニズムは次のとおりである。

  • 大気中の酸素分子に太陽の紫外線が当たると酸素分子が分解されて酸素原子になる。
  • 酸素原子は、酸素分子と結合して酸素3原子の構成よりなるオゾン分子と変化する。
大気中での保存の生成メカニズム

人工的生成法

 オゾンを人工的に合成する場合は、酸素分子を2つの酸素原子に分裂させ、その酸素原子を酸素分子と結合する反応、すなわち O +O2→O3の反応による。

無声放電

 オゾン発生に用いられる代表的な方式である。この方式では、大量にオゾンガスを作ることができる。片方もしくは両方の電極を絶縁体で覆い、その間に交流電圧を負荷して放電を起こさせる。なぜ無声というかというと、電極が絶縁体で覆われているために電極に電荷が流れ込むことができず、大きな電流が流れない。したがって、コロナ放電のように放電時に音が生じないために無声放電という。

 無声放電中に空気また酸素を通過させると、オゾンを生成される。高エネルギー放電が酸素分子を原子状酸素ラジカルに分解し、これが酸素分子と自発的に結合してオゾン分子を形成する。

放電によるオゾン生成方法

紫外線照射方式

 酸素を含む気体(通常空気)に紫外線を照射してオゾンを発生させる方法。上述したように、自然界で太陽光によってオゾンの成層圏ができるメカニズムと同じメカニズムをを人工的にやるわけである。

紫外線照射によるオゾンの精製法

 紫外線を酸素分子に照射すると酸素原子に解離し、その酸素原子が酸素分子と結合しオゾンを生成する。ただし、オゾン分子も紫外線によって分解されやすい。したがって紫外線照射方式では、大量にオゾンを発生させることができない。一方、紫外線によるオゾン発生器は、簡易な装置でオゾンを発生させることができる利点がある。これらの特性から、用途としては、空気の殺菌や脱臭、小規模の水の殺菌などに限定して用いられている。

電気分解方式

 硫酸または塩酸の水溶液の電気分解によってオゾンを生成する方式。

 大型装置が必要であるが、15~20w%という高濃度のオゾンの発生が可能であり、高濃度のオゾン水の生成用に用いることができる。

 ただし、無声放電法に比べると、オゾン発生効率が低いため大規模化には適していない。

殺菌メカニズム

 オゾンガスによる殺菌メカニズムを考える場合には、塩素殺菌のメカニズムを理解しておくとよい。オゾンも塩素殺菌もどちらも共通のメカニズムで、そのメカニズムは基本的には活性酸素の酸化作用である。 

※塩素殺菌のわかりやすい解説については、下記の記事をご覧ください。
食品工場-次亜塩素酸ナトリウム

オゾン分子(O3)は酸素分子(O2)に比べて原子の結合力が小さく、不安定で分解しやすい性質を持っている。このため、簡単に酸素(O2)と酸素原子(O)に分かれる。 オゾンの分解によって出来た酸素原子(O)は非常に酸化力が強い。この活性酸素力によって有機物を酸化させたり、微生物を殺菌したりするわけである。

 オゾン、特に活性酸素の主な作用機序は脂質過酸化であり、細胞レベルで膜リン脂質に損傷を与える。 また、オゾンは、アミノ酸を酸化させ、タンパク質の構造と機能を不可逆的に変化させる。

オゾンの酸化作用、殺菌作用

 また、オゾン分子は、酸素と同様に、疎水性の性質を持っている。したがって、オゾンガスの一部は、細菌の細胞膜のリン脂質二重膜を通過することができる。その結果、オゾンガスは細胞内のタンパク質やDNAなどの酸化し、微生物細胞にダメージを与えることができると考えられている。

※微生物のリン脂質二重膜を通過しやすい物質については下記の記事に分かりやすく説明しているのでご覧ください。
細胞膜を容易に通過できる物質と通過できない物質の違いについて

応用例

 ほとんどの研究は、オゾン水の殺菌効果に関するものであり、 気体オゾンの使用については、発表されている研究報告は限定されている。

果物の殺菌剤として

 サルモネラ菌と大腸菌O157:H7を接種したイチゴやブルーベリーに50000ppmのオゾンを適用すると、これらの病原菌数のをの3 log cfuの減少させることができるとの報告がある(文献)。また、カンタロープを10000ppmで30分間オゾンガス処理することにより、大腸菌O157:H7を制御し、果実の品質に有害な影響を与えなかったとの報告もある(文献)。

イチゴとブルーベリー

野菜の内部まで浸透する殺菌剤として

 野菜などの生鮮食品の洗浄には、主に次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムの形で塩素が使用されるのが一般的である。しかし、大腸菌 O157:H7 やサルモネラ菌は、葉物野菜の内部に取り込まれることも知られており、植物内部に侵入したの病原菌の駆除は次亜塩素酸ナトリウム水による殺菌では難しいとされている。サルモネラ菌や大腸菌 O157:H7 のような腸内病原体が食用植物の一部に取り込まれることは、トマト、大根のもやし、もやし 、レタス で報告されている。

※サルモネラ菌が植物の葉内侵入に関する記事は、下記記事をご覧ください。
野菜の洗浄や殺菌で要注意!植物の葉の内部に侵入し生存・汚染するサルモネラ菌
サルモネラ菌はどのようなメカニズムで植物の葉っぱの内部に侵入するのか?

植物の葉っぱの内部にいるバクテリア

 葉物野菜の内部に侵入した病原体を除去する目的として、オゾンガスを利用する試みも行なわれている。

 例えば、ベビーほうれん草のE. coli O157:H7の除菌にオゾンガスを適用した実験例がある。葉物野菜内部にまでオゾンガスを注入するためには、まず真空にし、その後ガス処理を行うと、葉物野菜へのガス状除菌剤の拡散が大幅に促進される。この研究では、ベビーほうれん草を、まず、真空冷却した後、5-10 ppmオゾンガス を使用して、ほうれん草の葉を除染した。その結果、大腸菌 O157:H7 の 1.8 log CFU/g の減少を得た ことが研究例で示されている。

オゾンガスが植物の内部までしみ込む

工場環境の空気汚染の除染として

 工場などの空気環境中に漂うエアロゾルを殺菌するための方法として、オゾンガスが候補に挙がる。オゾンの利点は、ガス状であるため、工場の天井や壁など、通常の液体殺菌が届かないような場所でも容易に殺菌できる点である。このような目的でのオゾンガスは、現在、一部の製薬や臨床の分野で実施されている。

 現時点では、食品加工環境ではオゾンガスが広くこのような目的で用いられているとは言い難い状況であるが、一部で活用され始めている。

 例えば、イタリアのナチュラルチーズ業界では、製造工場の空気中のカビ汚染などによってチーズ製品に、大きなダメージを与えている。対策としてオゾンガスへの関心が高まり、イタリア保健省(2010)は、チーズ熟成・貯蔵施設の消毒にガス状オゾンを使用することを支持する意見書を出している。

工場環境のオゾンガス殺菌

 オゾンガスを食品加工工場で効果的に実施するためには、閉鎖環境下の確保が前提条件となる。夜間や週末にオゾンを投与し、作業員が大量のオゾンにさらされるのを防ぐなどの対策が必要となる。米国では、労働安全衛生局(OSHA)が、通常の作業条件下で毎日8時間、または週40時間、悪影響を及ぼさない範囲でオゾン暴露が体積比で0.1ppm(空気中の0.2mg/㎥に相当)より高くならないよう勧告している。

オゾンガスの欠点

オゾンガスにはいくつかの欠点もある。

  • 目や喉に刺激を与え、呼吸器に対して有毒。4ppm以上の濃度で長時間さらされると人体に致死的である。オゾンを吸い込む可能性のある部屋や場所では、オゾンを絶対に使用してはならない。人間の活動が行われている環境での消毒剤としてのオゾンガスの使用は限定される。
空気中の高濃度保存ガスは危険
  • 対象とする現場環境でのガスの封入が困難な場合が多い。
オゾンガスの密封性難しい
  • ガスは広範な範囲に拡散するので、オゾンガスの酸化力により、ファン、コンデンサーコイルなどの金属表面のある装置の広範囲にわたって腐食させる可能性がある。
配管の腐食
  • 不安定で急速に分解する。したがって、現場でその都度生成しなければならない(オゾン水とも共通の欠点)。
  • 有機物の存在によりその効果が落ちる(酸化剤共通の欠点)。

オゾン水

 オゾン水とは、オゾンガスを水に溶解させたものである。水に溶解したオゾンは水中でOH-と反応し、酸化力の高いOH(ヒドロキシルラジカル)やO2-(スーパーオキシドイオン)を発生させる。特に、OH(ヒドロキシルラジカル)はオゾンより高い酸化電位を持つ。したがって、オゾン水は強力な酸化作用を持つ。オゾンガスとして用いるよりもオゾン水として用いた方が低濃度のオゾンで殺菌効果を持たせることができる。通常0.1ppm~50ppm程度の範囲で用いられている。

 オゾンガスに比べてオゾン水は食品産業界もふくめて広範な応用が展開されている。廃水処理施設、酪農・養豚排水、冷却塔、病院の給水システムや機器、水族館および養殖、水のテーマパーク、公共および家庭用スパなど、幅広く応用されている。

製造法

一般的に大きく2つの生成方式がある。

ガス溶解方式

 上述した無声放電による装置で精製したオゾンガスを水道水に溶解させる方式。無声放電装置とともに、ガスを水道水に溶解させるための装置なども必要。装置で大型で複雑となる。

 この方式は浄水場など大型施設で専ら用いられている。

浄水処理場

電界方式

 電極により水を電気分解して、直接オゾン水を生成する方式。オゾン水生成装置として家電の小型商品で利用されている方式はこれになる。特に、最近では、純粋を用いず、水道水をそのまま電気分解してオゾン水を生成する装置なども販売されている。

水道水から保存水を作るイメージ
水の電気分解によるオゾンの生成

オゾン水の利点

  • 家庭でも、小型装置さえ購入すれば、水道水から簡単にオゾン水を作ることができる。輸送や詰め替え用のストックも不要。
  • エタノールや石鹸の流通や包装の廃棄物は膨大であるのに対し、オゾンガスでは皆無である。
  • オゾンの抗菌有効濃度は、次亜塩素酸ナトリウムと比較するとはるかに低い。
  • オゾンは通常の反応では毒性のある副次物を生成せず、最終的には分解し酸素に戻るため、健康被害の心配がない。

オゾン水の欠点

  • オゾンは水中では非常に不安定で、短時間で酸素に分解される(20分後には半分以下の活性しか残らない)。在留の有機物が溶けている汚濁処理水では、オゾン活性の半減期が1分未満になることもる。
  • 塩素や二酸化塩素のように、遠隔でオゾンを生成して集中給水システムに注入し、微生物消毒に有効な濃度を維持することは困難である(作り置きができない)。ただし、この欠点は装置を一度購入すれば、あとはオゾン水を簡単に作れるという利点により解消はできる。
  • 金属の腐食性がある(次亜塩素酸ナトリウムなどと同様に、酸化剤共通の欠点)。

応用例

 オゾン水は、排水処理施設、畜産施設、農業施設、工業施設、プールの殺菌など幅広く使われている。本記事ではその中から特に必要性の高い野菜類アルファルファのサルモネラ菌や腸管出血性大腸菌の除菌に関する論文を紹介しておく。

アルファルファ種子とスプラウトの殺菌

 米国では、2010年から2017年にかけて、スプラウトの摂取に関連した食中毒の多州にわたるアウトブレイクが合計15件発生している。これらのアウトブレイクのうち12件では、Salmonella Entericaに汚染されたスプラウトが原因であり、3件は腸管出血性大腸菌に汚染が原因で起きている。

 以下に紹介する研究では、アルファルファの種子に、血清型Typhimurium, Agona, Saintpaulの3種類のサルモネラ菌株と血清型O104:H4, O157:H7, O121:H19 の3種類の腸管出血性大腸菌の混合カクテル( 7.0 log CFU/ml)を植え付けた。次に、接種した種子とその種子から得たスプラウトを、5 mg/L (5 ppm) のオゾンを含むオゾン水 (5 ℃) 1 L に0分(浸漬前)、10、15または20分浸漬させた。

その結果の概要は次のとおりである。

スプラウトオゾン水で殺菌する
サルモネラ菌
  • 10分、15分、20分のオゾン水処理で種子から得られたサルモネラ菌の平均対数減少はそれぞれ1.6 , 1.7 , 2.1 だった。
  • 10分、15分、20分のオゾン水処理でスプラウトから得られたサルモネラ菌の平均対数減少はそれぞれ0.7, 1.1 , 3.6 だった。
腸管出血性大腸菌
  • 10分、15分、20分のオゾン水処理で種子から得られた腸管出血性大腸菌の平均対数減少はそれぞれ1.5 , 1.6 , 2.1 であった。
  • 10分、15分、20分のオゾン水処理でスプラウトから得られた腸管出血性大腸菌の平均対数減少はそれぞれ 0.7 , 1.2 , 1.8 であった。
アルファルファのオゾン処理による腸管出血性大腸菌の減少

上の図はここで紹介している文献のデータから一部のデータをもとに作図したものである。

  • オゾン処理したスプラウトの重量、色調、保存性を調べたところ、発芽率(%)、色調、質量に対してオゾン処理は、コントロールと比較してマイナスの影響を与えなかった。

本研究により、低濃度(5 mg/L)のオゾン処理でサルモネラ菌および腸管出血性大腸菌を大幅に減少させることが可能であることが確認された。この方法は、アルファルファの種子およびスプラウトからSalmonellaおよびSTECを減少させる有望な介入策となり得ると著者らは結論している。

Reduction of Salmonella and Shiga toxin-producing Escherichia coli on alfalfa seeds and sprouts using an ozone generating system
International Journal of Food Microbiology, 289, 16 , 57-63 (2019)

オゾン水と酸性電解水を組み合わせることによる相乗効果

 オゾン水や電解水をそれぞれ単独で使用しても、アルファルファの種子やスプラウトの表面からすべての病原体を除去することはできないことから(上記論文文献2)、この研究では、オゾン水と酸性(pH3.0)電解水を組み合わせた手順で、アルファルファの種子とスプラウトの殺菌を検討した。

 サルモネラ菌3株および腸管出血性大腸菌3株のカクテルを接種したアルファルファ種子を、オゾン水および酸性電解水で順次処理した。処理は、試料をオゾン水(5 mg/Lオゾン)に15分間または20分間浸漬した。その後、試料を1Lの酸性電解水に15分間浸漬した。結果は次の通りである。

  • 複合処理(オゾン+電解水)は、オゾンまたは電解水単独よりも高い削減効果を示した。
  • 複合処理では、サルモネラ菌と腸管出血性大腸菌は、種子ではそれぞれ3.6と2.9 log CFU/gし、スプラウトでは3.1と3.0 log CFU/g減少した。
  • オゾンと酸性電解水による複合処理を行っても、スプラウトの外観品質への悪影響は認められなかった。
オゾン水と酸性電解水のアルファルファ種子の殺菌相乗効果

上の図はここで紹介している文献のデータから一部のデータをもとに作図したものである。

 以上の結果から、オゾンと酸性電解水の組み合わせは、アルファルファの種子およびスプラウトに付着したサルモネラ菌と腸管出血性大腸菌の不活性化に有効であり、スプラウトの品質には悪影響を及ぼさないことが示唆された。

Inactivation of Salmonella and Shiga toxin-producing Escherichia coli (STEC) from the surface of alfalfa seeds and sprouts by combined antimicrobial treatments using ozone and electrolyzed water
Food Research International 136, 109488(2020)

その他の応用例

歯科医が口腔ケア用品や器具の除菌・洗浄に用いるケースも増えている。また、家庭用の装置も多数販売されている。

 最近ノルウェーの病院の研究者が、看護婦の手の洗浄にアルコール殺菌と同等の殺菌効果があり、なおかつ手荒れが少ないとして、オゾン水を推奨している。この論文の詳細については、下記に別記事でまとめましたのでご覧ください。

オゾン水は手の消毒にアルコールと同じ殺菌効果があり、手荒れが無い