サラダや野菜を感染経路としたサルモネラ菌食中毒が頻繁に世界で起きています。収穫した野菜の洗浄や殺菌は重要な対策です。しかし、このような洗浄や殺菌処理にもかかわらず、近年、新鮮または最小限に加工された葉物野菜の消費に関連したサルモネラ菌の食中毒が頻繁に報告されています。ここで重要なのはサルモネラ菌が野菜の表面だけではなく組織の内部に入り込んでしまうという現象です。

※サルモネラの基礎を知りたい方は、下記記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ②サルモネラ菌

野菜の陰にかくれるサルモネラ
葉っぱの中に入るサルモネラ

 今回はこれに関するイスラエル農業研究機構ゴルバール博士らの報告を紹介します。野菜の葉っぱの気孔を介した葉の内部へのサルモネラ菌の移行は、汚染の潜在的な経路としてこれまでにも報告がありました。今回の博士らの研究ではいろいろな植物についてこれを詳細に調べたものです。7種類の野菜と新鮮なハーブの分離した葉の表面および表皮下でのサルモネラ菌菌の発生率(1つ以上のGFP注)タグ付きサルモネラ菌細胞を含む顕微鏡視野の割合)を調べました。その結果概要を以下に示します。

注)GFP (Green Fluorescent Protein 緑色蛍光蛋白質):オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発する蛋白質。細菌の生体染色によく用いられる。

葉っぱの内部に侵入するサルモネラ菌の発生率は、 植物の種類によって大きく異なるという結果となりました。最も高い内部侵入率は、アイスバーグレタス(81±16%)およびルッコラの葉(88±16%)でした。ついで、バジル( 46±12%)、赤レタス(20±15%)、トメイン(16±16%) となりました。一方、パセリとトマトの葉ではサルモネラ菌はほとんど葉の内部に侵入しませんでした(それぞれ1.9±3.3%と0.56±1.36%)。

  また季節的な影響を見ると、アイスバーグレタスのサルモネラ菌の内部移行は2年間の調査を通じて大きく変化し(0〜100%)、主に夏に発生率が高くなりました。ただし、他の植物では夏での内部への侵入率が必ずしも高くないという結果も得られており、季節要因との関連では明確な考察を加えることはできませんでした。

ゴルバール博士らの今回の研究結果は、サルモネラ菌の植物の葉の内部への侵入は、多くの植物で起きているが、侵入する程度は植物間および同じ作物内で季節により大きく異なることを示しました。

植物の葉の内部に侵入してしまったサルモネラ菌は野菜の洗浄や殺菌処理だけでは除去できない可能性があります。したがってサルモネラ菌が侵入しやすい植物の種類やどのような条件で植物内に侵入しやすいのかというような環境要因に関しての研究は今後重要になってくると思います。

この報告は2011年に出版され、これまでに84回引用されています。

Salmonella Typhimurium internalization is variable in leafy vegetables and fresh herbs.

Int J Food Microbiol. 2011 Jan 31;145(1):250-7

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21262550

※サルモネラが植物の中に入り込むメカニズムについての記事は下記をご覧ください。
サルモネラ菌はどのようなメカニズムで植物の葉っぱの内部に侵入するのか?

米国における野菜を原因とする食中毒菌別の順位や、どのような野菜が食中毒を起こしやすいかについては、別記事でまとめていますのでご覧ください。
サラダ及び生野菜による細菌性食中毒統計(米国)

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。