人が鶏肉や卵を起因としたサルモネラ菌感染し、下痢や発熱などのサルモネラ菌胃腸炎をおこす場合、感染メカニズムとして、ヒトの腸管上皮細胞への侵入やその後のメカニズムについてはよく知られています。しかし、サルモネラ菌潜伏期間中にサルモネラ菌が腸管上皮細胞に侵入する前の腸内において、腸内細菌とどのように競合しているかについては、あまり知られていませんでした。UC Davisのウィンター博士たちが2011年にnatureに発表した論文により、このメカニズムの一端が明らかになりました。

※サルモネラの基礎を知りたい方は、まず、下記記事をご覧ください。

食中毒菌10種類の覚え方 ②サルモネラ菌

サルモネラ菌はTCA回路を用いた呼吸における最終電子受容体としてテトラチオン酸塩を利用する能力を持っています。この能力が、腸管における常在菌との戦いにおいてとても有利に働いていること分かりました分かりした。サルモネラ菌のテトラチオン酸塩を利用する能力についてはこれまでもよく知られていて、この性質はサルモネラ菌の選択増菌培養であるハーナーテトラチオン培地において、大腸菌(利用できない)に対して有利に働くことの原理として知られています。この論文は、このメカニズムが、サルモネラ菌胃腸炎において、人の腸の中で腸管定着する場合にも機能していることを実験において証明したものです。

メカニズムはおよそ次のようになります。

  • サルモネラ菌が腸管上皮細胞に侵入をし、炎症起こす。
  • この炎症の結果として、免疫応答の一部として、腸内腔で酸素ラジカルが産生される。
  • この酸素ラジカルは、腸内細菌によって生産された硫化水素が腸管上皮細胞により酸化されてできたチオ硫酸塩を、さらにテトラチオン酸塩へと酸化する。
  • サルモネラ菌がテトラチオン酸塩をTCAサイクルの最終電子受容体として用いる。

腸内という酸素のない環境下においては、腸内細菌が発酵代謝に依存して増殖を行わざるを得ません。しかし発酵代謝では、エネルギー効率が悪いという欠点があります。サルモネラ菌が酸素のない腸内という環境の中でテトラチオン酸塩を利用するという他の腸内細菌に競り勝つ戦略持っていることになります。この論文は2011年に出版されたのち、これまでにすでに500回近くの引用が行われています。

論文→https:  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/articles/20864996/

 Nature 467 (7314), 426-429. 2010 

図1 この図は下記論文から

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25637951

Microbes Infect. 2015 Mar;17(3):173-83(出版社からこの図の掲載許諾済み)

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