2023年10月から11月にかけて、米国とカナダでカンタロープを原因とする大規模なサルモネラ食中毒が発生中です。アメリカで発生するマスクメロン由来のサルモネラ食中毒事件は、これまでにも多数報告されていますが、果肉内部への侵入経路は?外部の洗浄だけでは不十分な理由とは?本記事では、カンタロープの栽培過程でのサルモネラの侵入経路と、それを防ぐための最新研究を探求します。

カナダと米国におけるカンタロープ由来のサルモネラ食中毒発生中

  2023年10月から11月にかけて、米国とカナダでカンタロープ注)を原因とする大規模なサルモネラ食中毒が発生中です。

注)「カンタロープ」とは、ヨーロッパ南部地域、アメリカ、タイなどで露地栽培されている、表面に網目のある、中身がオレンジ色のマスクメロンを指します。

米国CDCの12月7日の発表によると、12月6日時点で、34州から230人のサルモネラ感染症患者が報告されました。食中毒報告は、2023年10月16日から11月20日までの間に報告されました。利用可能な情報がある103人の患者のうち、96人(約52%)が入院しています。ミネソタ州からは3名の死亡が報告されました。

カナダカナダ公衆衛生局の12月7日の発表によれば、10月中旬から11月中旬にかけて129人のサルモネラ症患者が確認されています。44人が6州で入院し、5名が死亡したと報告しました。患者の大半は、5歳以下の子供(約35%)または65歳以上の成人(約45%)でした。

カナダと米国のカンタロープによるアウトブレイクのイメージ。

 両国の衛生当局が患者にインタビューを行った結果、食中毒になる前にカンタロープを食べていた人が多く確認されました。また、MalichitaまたはRudyブランドのカンタロープが原因として特定されました。これらはいずれもメキシコから輸入されたものです。

 カナダでは、患者の臨床検体とカンタロープのサンプル間で遺伝子型が一致しました。現在、米国とカナダでこのMalichitaまたはRudyブランドのカンタロープはリコールされています。両国ともに患者数が増加しており、調査が進行中です。

花から果肉へ侵入するサルモネラ菌

 果実や野菜に病原菌が汚染することは一般的ですが、多くの場合、これらを洗浄することでリスクを除去できます。例えば、前記事で紹介したリンゴのケースがその一例です。

りんごと大腸菌O157リスク

カンタロープを洗っている農夫。

 しかし、カンタロープの場合は異なり、単純な洗浄ではリスクが防げません。カンタロープの皮はざらざらしているため、洗っても病原菌は除去できにくい構造になっています。さらに、カンタロープ収穫前の果肉内にサルモネラが侵入している可能性もあります。

カンタロープの中身に驚く農夫

 ノースカロライナ州立大学とFDAの共同研究グループは、カンタロープの果肉にサルモネラが侵入するプロセスとその可能性について研究しました。具体的な目的は、(i) サルモネラで汚染された灌漑用水をシミュレートし、花が収穫前の汚染経路として機能するかどうかを判定すること、(ii) 病原菌を土壌に接種した後、カンタロープの茎内にサルモネラが取り込まれるかどうかを評価することでした。

Burris et al.
Salmonella enterica colonization and fitness in pre-harvest cantaloupe productionFood Microbiology
Volume 93, February 2021, 103612

サルモネラのカンタロープ果肉への侵入ルートには、以下の二つが考えられます:

  • 地中に汚染されたサルモネラ菌が根を通じて茎を経て果肉に侵入
  • 花のサルモネラ菌汚染が果実形成時に果肉へ移行
カンタロープの断面図。

 この二つの侵入ルートの可能性を探るために、研究グループは以下の実験を行いました。

 下記いずれの実験でも、Salmonella enterica(これまでに、カンタロープによるアウトブレイクで分離された臨床株血清型Javiana、Newport、Panama、Poona、Typhimuriumのカクテル)を花または土壌に約4.4 log CFU/株で植菌しました。

第1の実験:土中にサルモネラの混合菌株を接種し、その後茎内へのサルモネラの侵入を検証。

 土壌から茎への移行実験では、接種後7日目に、各茎を土壌表面から1 cm の高さから、挿し穂の間を滅菌したハサミを用いて無菌的に切断し、実験室に輸送しました。滅菌メスを用いて茎を0.5 cmの断片に切り分け、推定陽性のサルモネラのコロニーの出現を室温で7日間まで毎日観察しました。

第2の実験:花びらにサルモネラを接種し、果肉への侵入を検証。

 花への接種実験では、合計400以上の花(約10花/株)に5株カクテルを50μl接種し、約180花(約15~20花/株)を接種しました。果実の検査は、植菌後、 42~71日間の間に75個以上のカンタロープの果実を収穫し、果実の外と果実内のサルモネラ菌数を測定しました。

実験結果の概要は次の通りです。

 実験結果は、茎を通じた汚染が確認されたものの、花びら経由の汚染の方がはるかに効率的で速く果肉内へサルモネラが侵入することが示されました。

  • 土壌にサルモネラ菌を接種した実験では、接種後7日目までに13%(8/60株)が茎下部(約4cm)に移行しました。土壌中のサルモネラは接種後60日目まで持続しました。
  • サルモネラ菌が接種されたカンタロープの花から収穫された果実(n = 63)のうち、89%(56/63)が外部に汚染され、73%(46/63)が果実内にサルモネラ菌が取り込まれていました。

 以上の結果から、サルモネラ菌は汚染されたドリップ灌漑水を通してカンタロープに侵入し、茎の上部に移動する可能性があることが示唆されるものの、メロンの汚染は花からの経路の方がはるかに効率的であることが示唆されました。

カンタロープの葉っぱと果肉の断面図。

 研究グループは、花びらの汚染がカンタロープの果肉へのサルモネラ汚染の主要なルートであると結論しました。これは、防霜対策、施肥、燻蒸・農薬散布、鳥や動物の侵入、雨の飛沫、風などによって花にサルモネラ菌が付着するリスクがあるためです。

カンタロープ畑で悩む研究者たち。

まとめ

 カンタロープの花びらから果肉へのサルモネラ菌の移行は、カンタロープ以外にも、以前ではトマトGuo et al., 2001)やキュウリBurris et al.,2020)でも確認されています。この記事で紹介した研究は、収穫前の花へのサルモネラ接種後のカンタロープ果実の汚染を調べた初めての研究であり、食中毒防除の観点から重要な意義を持っています。カンタロープの果実は中性 pH で糖分に富んでおり、一旦果実内に定着すると微生物の個体群を保持、増殖させることができます。

 したがって、カンタロープのサルモネラ食中毒防止のためには、土壌汚染のみならず、散布水による花びらの汚染も野菜の病原菌汚染リスクとして重視すべきだということを示唆しています。そのため、これらの野菜においては、収穫後の洗浄や殺菌だけではなく、栽培段階から病原菌の侵入や汚染を防ぐ工夫が求められます。

カンタロープ畑で決意を新たにする農夫。

 

なお、サルモネラは植物の葉の内部への侵入する場合もあります。以下の関連記事もお読みいただければ幸いです。

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