ブラジルは世界最大の鶏肉輸出国です。日本の鶏肉の70%以上はブラジルからの輸入に頼っています。わたしたちが毎日外食レストランや食卓で食べているブラジル産の鶏肉の飼育環境が気になるところです。ブラジルののサンパウロ大学のゴメス博士らは、養鶏場の鶏に過密ストレス(1m2あたり 16羽)を与えた場合の、鶏のに与える生理ストレスとサルモネラ菌への感染の度合いを分析しました。

過密ストレスとサルモネラ菌感染

 鶏は親鳥にであれば、サルモネラが体内に入っても感染症を起こすことはありません。ブラジルののサンパウロ大学のゴメス博士らは、養鶏場において長期のストレスの多い状況にさらされた鶏は、免疫力が低下し、サルモネラ症などに感染しやすいことを示した論文を発表しています。以下にその内容の概略を紹介します。

過密ストレスの養鶏場の写真

 合計360羽のオスのブロイラーが使用されました。1日齢のブロイラー雛は、サンパウロ大学獣医学部鳥類病理学実験センターの滅菌された汚染物質のない木の削りくずで覆われた床の囲いに収容されました。

ブロイラー雛は4つのグループに割り当てました:

  • 対照群
  • サルモネラ菌を強制経口投与した対照群
  • 過密ストレス群
  • サルモネラ菌を強制経口投与した過密ストレス群

これらの4つのブロイラー群について、各種パラメータの測定を行ないました。

実験結果を要約すると次のとおりです。

  • 過密ストレス群は、腸炎を誘発し、マクロファージ活性の低下と相対的な滑液包重量を低下させた。
  • サルモネラ菌を強制経口投与した過密ストレス群では、飼料要求率注)が増加し、血漿IgGレベルが減少た。
  • サルモネラ菌を強制経口投与した過密ストレス群の十二指腸全体に中等度の腸炎が観察された。
  • 過密ストレスは、マクロファージの食作用強度を低下させ、肝臓中におけるサルモネラ菌数が増加した。
  • 過密ストレスは、腸の免疫バリアの質と小腸の完全性に影響を与える可能性が示唆された。すなわち、サルモネラ菌が腸粘膜を通って移動し、炎症性浸潤と栄養吸収の低下をもたらした。

注)飼料要求率:畜産物1kg当たりの生産に要する摂取(または消費)飼料数量のこと。生産のために何倍の飼料を必要とするかを示すもので、飼料要求率が大きいほど効率が悪いことを示している。

 この論文で得られたデータは、家禽生産における過密によるストレスの回避が、健康な鳥を育てるために重要で、サルモネラ感染も低下させることを示しています。

この論文は2014年に出版され、これまでに111回引用されています( 2022年3月Googl Scholar調べ)。

Overcrowding stress decreases macrophage activity and increases Salmonella Enteritidis invasion in broiler chickens
Avian Pathology, 43,, 82–90 (2014)

高い周囲温度のストレスとサルモネラ菌感染

 地球温暖化に伴い、熱ストレスは養鶏産業においても大きな懸念材料です。特に暑い気候や温帯地域の夏季では、高い周囲温度がブロイラーの生理機能に影響を与え、全身的な免疫異常、内分泌異常、電解質異常などの複数の生理的障害を誘発し、成長不良や死亡率の上昇を招くことが懸念されています。

 ヨルダン大学のアルヘナキー博士らは、高い周囲温度のストレスがブロイラーの腸の健全性、生理・免疫反応、サルモネラ菌の侵入に及ぼす影響について調べました。

鶏が高い室温に苦しんでいる。

生後26日目の72羽を3つの処理区に振り分けました。

  • 対照処理(20±2℃)
  • 慢性熱ストレス処理(30±2℃、24時間/1日)
  • 急性熱ストレス処理(9時から13時まで35±2℃に曝露、13時から9時まで20±1℃に保温)

熱ストレス暴露は連続10日間行いました。結果を要約すると次のとおりです。

  • 対照区と比較して,慢性および急性の熱ストレスにさらされた鳥は,体重と体重増加率が減少し(P < 0.05),飼料要求率が増加した(P < 0.05)
  • 飼料摂取量および死亡率は,急性熱ストレス処理においてのみ増加した(P < 0.05)
  • 高い周囲温度ストレスにさらされた鶏は、コルチコステロン、エンドトキシンのリポポリサッカライド、全身性炎症性サイトカインの血清濃度が上昇した(P < 0.05)。また、肉および肝臓中のサルモネラ菌の検出率は、対照区と比較して高かった(P < 0.05)。

 以上の結果から、アルヘナキー博士らは、高い周囲温度ストレスは、腸の健全性を損ない、エンドトキシンに対する腸の透過性を高め、腸内病原体(サルモネラ属菌)の移行と血清炎症性サイトカインを増加させたと結論付けました。

この論文は2014年に出版され、これまでに73回引用されています( 2022年3月Googl Scholar調べ)。

Alhenaky et al. .The effect of heat stress on intestinal integrity and Salmonella invasion in broiler birds
Journal of Thermal Biology 70 (2017) 9–14

求められるワンヘルス

 養鶏場で鶏にストレスがかかると免疫力が低下しさ、サルモネラ菌に感染しやすいことについての論文を今回は紹介しました。過密環境や高温度の室温環境などで鶏にストレスがかかると免疫力が低下するので、サルモネラ菌以外にもさまざまな病気に鶏はかかりやすくなると考えられます。

 病気になりやすくなれば、抗生物質の使用量が増えます。

 したがって、薬剤耐性菌が増えるという悪循環になります。

 私のブログでは、シリーズとして、薬剤耐性菌の問題を扱っているコーナーがあります。世界的に抗生物質の使用量は7割が畜産業、残りの3割が病院です。このことからも、養鶏場の健康な管理、すなわちワンヘルスの考え方が重要だということを今回紹介した論文は示しています。

養鶏場のワンヘルス

人間も同じです

 この記事で紹介した2論文は、ブロイラーにおける過密ストレスや室温の高温環境ストレスが免疫力や腸管のバリア性を弱めて、サルモネラ菌の感染をしやくすくするという事実を示しています。

 人間も同じです。私たちが食中毒菌に感染しないようにするためには、日常的なストレスを避ける体調管理が重要です。気をつけましょう。

人間もブロイラーも同じです。