今回は、サラダおよび生野菜が起こすノロウィルス、腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌による食中毒事件について米国CDC のハーマン博士らがまとめた総説を紹介します。この総説は、 1973年から2012年の間に米国のCDCに報告された生野菜を起因とする食中毒事例を統計的にまとめたものです。

サラダ

食中毒を起こしやすい野菜種別

 統計的に見ると、生野菜が起こす食中毒の発生件数は他の食品由来のものよりも件数が多いという集計になりました。

生野菜の種類別に統計をとると、大部分はレタス(74%)に起因していることが判明しました。 その他としては、キャベツ(6%)、ネギ(8.5%)、シダ(6.4%)、そしてホウレンソウ(5.3%)でした。

野菜別食中毒事件数円グラフ

野菜によって食中毒を起こしやすい食中毒微生物の種類

生野菜による食中毒の原因となる食中毒菌で最も多いのは、ノロウイルス(病因が確認された発生の55%)、腸管出血性大腸菌(STEC)(18%)、およびサルモネラ菌(11%)でした。

食中毒菌別事件数円グラフ

食中毒微生物の汚染ルート

 これらの食中毒の大部分の発生は、レストランやケータリング施設で調理された食品に起因していました(85%)。食品労働者が原因となったものが、31%の集団発生関係していることもわかりました。

 もう少し詳しく見てみましょう。まずはノロウイルスです。生野菜を起源とするノロウイルスの発生は、レストランやケータリング施設での準備などで、ノロウィルスに感染した食品労働者が汚染源となっているものが多く認められました。そして、これらの発生のほとんどは、不適切な手指衛生のために、製造時点での汚染が原因であると考えられました。 したがって、対策としては、レストラン労働者のための適切な食品取扱ガイドラインによって、手指の衛生を徹底することと、ノロウィルスにかかっている時に食品の製造環境の作業に従事しないということを徹底すべきだということでした。

 もちろん、生野菜の生産段階での汚染も、葉野菜のノロウイルス汚染につながることは否定できません。 しかしながら、統計的には、生野菜によるノロウイルス食中毒の発生報告には汚染が発生した時点に関する情報が不足しており、生産段階でノロウイルスの汚染が発生したものかどうかを判断することはできませんでした。

 一方、腸管出血性大腸菌やサルモネラ菌菌についてみてみましょう。生野菜による食中毒の全ての統計の中で、腸管出血性大腸菌が複数の州をまたぐアウトブレークの発生の3分の2近く、入院患者の45%以上、そして死亡者の半分近くを占めていました。

また、腸管出血性大腸菌やサルモネラ菌もよる生野菜を起因とする食中毒のほとんどは、これらの野菜の生産段階の汚染によるものでした。

野菜からの食中毒の感染経路

 このように生野菜を起因する食中毒では原因となる汚染ルートが異なります。

  • ノロウィルスの場合は、食品を調理する従事者による人からの汚染
  • 腸管出血性大腸菌やサルモネラ菌などの場合は、農場の生産段階での汚染

したがって、それぞれに異なる対策を打つ必要があるということになります。腸管出血性大腸菌やサルモネラ菌の農産物の生産段階での汚染を防止するためには、農作物の灌漑や加工に使用される水の品質、労働者用の衛生施設などのステップごとの管理が必要となります。一方、ノロウィルスの調理従事者からの汚染を防ぐためには、適切な手洗い管理を徹底し、ヒトからの交差汚染を最小限に抑えるために管理努力が必要となります。

この論文は2015年に発表されてこれまでに128回引用されています(2021年10月Scopus調査)。

Outbreaks attributed to fresh leafy vegetables, United States, 1973–2012
Epidemiol. Infect. (2015), 143, 3011–3021.

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。

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