サルモネラ菌の血清型の検査は感染経路を知るうえで重要です。しかし、これは大変な作業です。血清型を遺伝子配列によって決めることができればとても便利ですね。実はサルモネラ菌においてはそれが可能になりました。英国公衆衛生庁(PHE)は2015年から次世代シークエンサーを利用して、サルモネラ菌のin silico MLSTによって決める方法を導入しています。今回はそれに関する論文を紹介します。

※サルモネラの基礎を知りたい方は、まず、下記記事をご覧ください。

食中毒菌10種類の覚え方 ②サルモネラ菌

血清型と遺伝子配列で知る

詳細は省略しますが7つの遺伝子配列をもとに微生物の菌株をタイピングする方法として MLST があります。

※MLSTとは何かについては、下記をご覧ください。
2006年にモダンメディアで私が執筆した記事ですが、現在でもこの技術の概要を理解する解説として多くの方々に読まれています。

これからの細菌のゲノムタイピングとしてのMLST 法

 さて、MLST によって分けたタイプの方の ST と言います。

サルモネラ菌のS Tと血清型の関係に関して、過去6年間で著しい研究の進展がありました。ユニバーシティ・カレッジ・コーク(アイルランド)のアクトマン博士の研究が先駆けとなりました。博士らの研究によってサルモネラ菌のほとんどの血清型がMLStの ST を知ることによってわかるということを報告しています(論文1)。

このような研究成果をもとに、2015年4月英国公衆衛生庁(PHE)はサルモネラ菌の分子疫学的解析にwhole genome解析を導入することを決定しました。

具体的にはMLS TのSTを従来の血清型の代わりに使おうというものです。最近の研究で、英国公衆衛生庁(PHE)のアシュトン博士はイギリスにおけるSTによる血清型判決の有効性の検証を行いました(論文2)。 2014年4月から2015年3月までにEngland およびWalesにおいて分離された臨床株のうち6687株のS.enteritica subsupecies ⅠについてSTと血清型との関係を調べました。その結果、 6616株(96%)においてSTと血清型は一致しました。

アシュトン博士はMLSTのSTによる血清型の決定は従来の血清型に比べて次のような利点を持っていると述べています

1 )抗原の部分が不完全な菌株の血清型をSTタイプだと正確に判定できる。

2 )血清型判定における実験室のミスを避けることができる。

3 )オートメーション化が可能である。

以上のようにサルモネラ菌に関しては、ユーザーはNGSデータにより自動的にサルモネラ菌の血清型を知ることがステージに移行ししています。

論文1→Multilocus sequence typing as a replacement for serotyping in Salmonella enterica. PLoS Pathog. 8. doi:10.1371/journal.ppat.1002776 (2012).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22737074

これまでに211回引用されています。

論文2→Identification of Salmonella for public health surveillance using whole genome sequencing. PeerJ. 2016 Apr 5;4:e1752. doi: 10.7717/peerj.1752. eCollection (2016).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27069781

これまでに50回引用されています。

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。