殺菌消毒薬として知られる過酢酸は、日本では2016年10月厚生労働省により「食品添加物」として認可されました。今回紹介するのは、食鳥処理場でのブロイラーの冷却工程の後の除菌液として、過酢酸の効果に注目した論文です。アメリカのオーバーン大学ナゲル博士の実験です。

※過酢酸の基礎事項を確認したい方は下記の記事をご覧ください。
食品工場-過酢酸

 ナゲル博士は、冷却工程におけるブロイラーの殺菌タンクに、それぞれ、塩素殺菌(40 ppm)、過酢酸(400 ppmと1000 ppm)、 リゾチーム(1000 ppmと5000ppm)の使用して、それぞれの実験で 160羽のブロイラーについて、サルモネラ菌とカンピロバクターの除去効果について調べました。実験で塩素殺菌(40 ppm)とした理由は、塩素殺菌のこの濃度がブロイラーの業界で広く用いられているからです。つまり過酢酸の効果を見るための対照区として用いたわけです。リゾチームの実験に用いた理由は、塩素殺菌と同様にブロイラーの冷却工程でこれまで用いられてきている実績がある事と、タマゴ由来の人体に無害な抗菌剤ということからです。

実験の結果、過酢酸(400 ppmと1000 ppm)が最も効果的であるということがわかりました。

食鳥処理場の過酢酸による殺菌工程

アメリカでも、これまでは冷却工程ででの殺菌剤としては塩素殺菌や有機酸が主流でした。しかし塩素殺菌の場合、使用しているpH領域が高いと殺菌効果は低くなる欠点があります。

※塩素殺菌とpHの関係の基礎を確認したいかたはこちらの記事をご覧ください。
食品工場-次亜塩素酸ナトリウム

 一方、有機酸は、病原菌が鶏肉の中に入り込む前では効果的ですが、病原菌が鶏肉の表面に定着した後では効果が低下することが報告されていました。また有機酸の使用はは鶏肉の官能検査に影響を与えてしまうというという結果が多く報告されていました。

 そこで、有機酸を殺菌剤として高濃度に用いず、その他の殺菌メカニズムを組み合わせることにより、殺菌効果を持たせる工夫が必要となります。このような工夫の典型例が過酢酸といえます。

 過酢酸は、有機酸の酸性の効果と、過酸化水素による酸化の効果を組み合わせた薬剤と整理できます。分解生成物は酢酸、過酸化水素です。

 殺菌の詳細なメカニズムについては不明な点もまだ多いのですが、大まかに言うと、酸としての効果と、活性酸素による酸化力効果の組み合わせとなります。

アメリカではブロイラーの冷却工程のタンク2000 ppmの使用が認められているようです。アメリカでも従来の塩素殺菌に変わって、過酢酸の使用が最近増えているとのことです。 

この論文は2013年に出版されてからこれまでに93回被引用されています(2021年10月Scopus調査)。

論文 Salmonella and Campylobacter reduction and quality characteristics of poultry carcasses treated with various antimicrobials in a post-chill immersion tank
International Journal of Food Microbiology 165 (2013) 281–286

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。