グラム陽性菌と陰性菌ードライとウェットでの生き残りやすさ

 大腸菌、サルモネラ菌などのグラム陰性菌は乾燥した固体表面が苦手である。基本的に水っぽいところに生息する水生細菌の仲間に近いといってよい。私は時々、大学のトイレのノブに大腸菌の汚染があるかどうかを調査するが、ほとんど大腸菌が検出されることはなく、ドアノブに生存しているのは黄色ブドウ球菌やバチルスなどのグラム陽性菌ばかりである。大腸菌やサルモネラ菌などのグラム陰性菌は、バチルスや黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌と違って、食品工場のラインのゴムやステンレスなどのドライ表面は基本的に苦手な菌と考えてよい。腸管出血性大腸菌O157:H7やサルモネラ菌などのグラム陰性菌が生存したり、増殖したりしやすい環境は、食品工場のなかでは冷却水槽、濡れた床、排水溝、あるいは、生肉加工をして肉汁がついたまま何時間か作業をしている状態にあるラインのベルトコンベアなどである。サニテーションのいきとどいた近代設備の整った食品工場では、大腸菌やサルモネラ菌などはほぼ完全に駆除できていても、バチルス属などのグラム陽性菌はしぶとく生き残る。

 上に述べたように、細菌は水から陸上へと上陸し、進化した。陸上での温度差や乾燥に耐えるように進化したのがグラム陽性菌と言ってもよいだろう。代表的なものでは黄色ブドウ球菌とバチルスなどである。黄色ブドウ球菌は陸上の哺乳動物の表皮に生息し、適応している。バチルスは枯草菌(Bacillus subtilis)に代表されるように陸上の草木の表面などに生息、適応している。また、後で詳しくのべるボツリヌス菌も陸上の環境に適応した菌といえる。いずれも、共通するのは、水の中に生息する大腸菌はサルモネラ菌などのグラム陰性菌と異なり、高熱、乾燥、高塩分といった陸上環境特有の激しい環境条件に耐えやすいという点である。なお、高塩分と陸上環境との関係に疑問を持たれるむきもあるかと思うが、例えば黄色ブドウ球菌などは私たちの体の表面の汗が蒸発していくと汗が濃縮され、海水よりはるかに高い塩分濃度にさらされるわけである。