グラム陽性菌と陰性菌ー構造の違い

ここで、グラム陽性菌と陰性菌の細胞構造の違いについて簡単に述べておきたい。あまり、詳しく述べるつもりはないが、構造の基本的理解が、これら2種類の細菌の生息環境、性質、食品衛生上の管理の観点に密接に関連してくるので、要点だけ簡単の述べておく。
 厚いペプチドグリカン層の細胞壁を持つグラム陽性菌は、グラム染色液で強く染まる。一方、薄いペプチドグリカン層しか持たず、その代わり、細胞壁の外側が粘膜多糖で覆われているグラム陰性菌はあまり強く染まらない。もう少しだけ詳しく微生物の細胞表面の構造についてみてみよう。細菌はリン脂質2重膜からなる細胞膜をもつ。細胞膜は、細菌に限らず、全生物共通である。細胞膜は流動性があり便利な点もあるが、物理的衝撃にはもろい。細胞膜しかもたない私たち動物と、厚い細胞壁を持つ植物を比べてみればすぐに物理的衝撃に対する体制の違いが理解いただけると思う。

さて、細菌は植物と同様、細胞膜の外側に細胞壁を持つように進化した。ただし、細菌の場合、水生型のグラム陰性菌と陸上型のグラム陽性菌とでは異なる細胞壁の発達過程をたどり進化した。陸上の適応進化したグラム陽性菌は細胞膜の外側に、強固で分厚い細胞壁を発達させた。これに対し、水生型のグラム陰性菌は細胞壁をあまり厚くせず、その代わりに、もう一枚の細胞膜ともいえる外膜を発達させた。両者の違いをイメージ的に捕らえると、ちょうど海草と陸上の木の違いでイメージしてみるといいだろう。陸上の木はがちっとした強固なイメージであるが、海草は物理的にはしなやかであり、その代わりに外側がぬるっとした粘膜で覆われている。実は、細菌であれ、海草であれ、水生型の生物にとって重要なことは、物理的強さよりも、化学的なバリアーを持つことなのだ。水中には生物にとって有害な物質も含めてさまざまなものが溶け込んでいる。水中の生息する生物にとってはこれらの物質が簡単に細胞内に入り込んでしまうと色々と不都合なこともおきる。これに対して陸上菌では、外界が水ではないので、このような化学的バリアーに対する必要性は水生菌ほど切実ではない、と整理すると理解しやすいだろう。厳密には、陸上環境でも必ずしもドライな環境とは言えないが、少なくともそう考えると、両者の構造を理解しやすい。グラム陰性菌は、単純に物理的に強固な細胞壁をむやみに発達させるのではなく、むしろ、化学的バリアーとしての外膜で身を包むことを選択したと考えると理解しやすいだろう。